第520話 口八丁
「潜伏している立ち位置的から察するに前衛が三人と後衛が二人、お前を含めて仲間は六人だろう?」
「なっ……!?」
隠密が得意な人間が他にも居たらと心配していたが、滝のように汗を流し始めたこの男の反応的に霧の魔法の索敵漏れはなかったみたいだな。
「冒険者パーティーにしては数が多い、だが盗賊団と言うには人数が少ないな?」
俺の問いから耳を背けたいのか男が再び俯いてしまったが、構わず質問を続ける。
「少数精鋭で動いているのだとすれば、現在入山が厳しく制限されているヒエロ山への潜入、そして廃坑の破壊工作をその辺のごろつきが依頼されているとも考えにくい」
「……」
「爆薬と……共鳴石も今日存在を初めて知ったが、どこの馬の骨とも分からない人間に託すとは思えない。どこかの組織のお抱えか、事が明るみに出た時に関与を疑われないよう秘密裏に雇われた傭兵辺りか?」
「……否定しても意味なさそうだな。共鳴石の事もさっきまで知らなかった癖に、なんでそんなに察しが良いんだよ……」
観念した様に更に深く頭を下げた男が無言で共鳴石を見つめる。どんな心境なのかは分からないが不味いな、早まって貰っては困る。
「死にたくないんだろう? 大人しく捕まってくれるのであれば命は保証する」
「……領主の持ちもんの鉱山を爆破しようとしてたんだ。今殺されなくてもボルデに戻った後処刑されるだけだろ」
「それはお前次第だ。取引をしないか?」
「……」
懐疑的な視線をこちらに送ってきているが、今の今まで俺が挑発的な態度を取っていたのに剣を抜いていない事が功を奏したようだ。
俺が話し合うつもりがあるのを確信したのか、少しだけ男の緊張が解ける。
「……仲間は売らねぇぞ」
「その仲間だが、全員お前と同じで霧の魔法を纏わせてる。脅したくはないが――」
「止めてくれ! あいつらは――」
「落ち着いてくれ、取引をしようと言っているだろう? 協力してくれれば仲間の安全も保障する」
「そんな美味い話があるもんか……」
「そういう意味ではヴィラロボス辺境伯邸に泊まらせてもらっていて、領主殿と面識がある俺が相手で運が良かったな? ただの冒険者だったら確かに交渉の余地は無かったかもしれない」
「運の尽きの間違いだろ……なんでよりにもよって滅死の魔術士と鉢合わせちまったんだ……」
俺がクリフ達の捜索依頼を請けたのは知らなかったのか。先程の口振りからして、男は俺がクリフ達を救うために廃坑の最深部で戦っている所を目撃している。
時系列を纏めると俺が廃坑に突入した後に男とその仲間が到着したのだろう。
屍人との戦闘痕を発見したため廃坑内に人が居る事が分かり、彼だけ斥候として安全を確保するために先行していたのであれば大体の辻褄が合うな。
「廃坑に人が居る事には気付いていたんだろう?」
「ああ……」
「予想だが、爆薬は仲間を待機させている廃坑の中層辺りまで仕掛けているな? 破壊工作が目的なら、なんでさっさと引き上げて俺達と邂逅する前に魔道具を起動しなかったんだ?」
「……らだ……」
「ん?」
「氷贋鉱が欲しかったからだ! あれさえ手に入れば金にはもう困らねぇ……そしたら、あいつらにこんな仕事もさせずに済む……」
人にはそれぞれの事情があるのは理解できるが……幾ら仲間の為に行動していたと言われても、俺を闇討ちしようとした事を水に流せる訳ではない。
仮にあの不意打ちが成功していたらこの男は躊躇なくクリフ達も殺めていただろう。
「仲間とお前の安全さえ保障すれば協力してくれるんだな?」
胸中に渦巻く複雑な感情に無理矢理蓋をしながら話を続ける。
「簡単に言うじゃねぇか……俺達を見逃しても、雇い主を売っちまったってばれたら裏社会じゃどのみち生きてけねぇよ」
「裏社会の信用か……昔俺を殺そうとした死体剥ぎも似たような事を言っていたな」
「どんだけ――いや、分かってんなら良い。もう俺達は終わったんだ……」
「その依頼主を潰してしまえば、お前達の不義理も知れ渡らないし問題ないんじゃないか?」
「はぁ?」
気の抜けた返事をした男が久しぶりに顔を上げると、困惑一色に表情が染まっていた。
「違うのか?」
「いや……は? ちが、わねぇけど?? そんな事出来る訳ないだろ」
エリック殿下やケイレブ殿に確認もせず下手な約束はしたくないが、自棄になって共鳴石を砕かれても困る。
この場をやり過ごす為に必要な嘘なら許されだろうと自分に言い聞かせながら男の説得を続ける。
「答えなくていいが、お前の雇い主は恐らく隣領の商会長か領主のどちらかじゃないか?」
「!?」
わざわざヴィラロボス辺境伯領の財源に成り得る鉱山を狙うのは、ヴィラロボス辺境伯領の財政状況が芳しくない方が都合の良い人間だと思い当てずっぽうに言ってみたが、男の反応を見るに的外れな予想ではなかったらしい。
「雇い主には何故廃坑を破壊して欲しいのかは説明されてないのか?」
「されてねぇな……」
「一方的に取引を持ち掛けて信じろと言われても難しいだろうし、公平じゃないから説明する。この坑道は廃坑とは言え鉱脈が尽きたと言う訳ではない。実際お前も氷贋鉱を手に入れようとしてただろう?」
「うっ……そうだな」
「幽氷の悪鬼が討伐された事でこの坑道が復活し、ヴィラロボス辺境伯領が経済的に潤うと困る人間がお前達を雇ったのは想像に難しくない」
「……」
「そしてそんな人間をヴィーダ王国が放置するわけないだろう? 幾ら長年友好関係を結んでいたとは言え、ここはアムール王国とヴィーダ王国の国境を守る要だ。ヴィラロボス辺境伯領の衰退を計画して、私利私欲のために破壊工作を画策した人間を放置すると思うのか?」
自分が加担しようとしていた事の大きさを今更自覚し始めたのか、男の顔がどんどん青ざめて行く。
「ヴィラロボス辺境伯領に敵対する人間の排除には、国が動くし勿論俺も協力するつもりだ。それも加味して取引に応じるかどうかもう一度考えてみてくれ」
「国が……」
「一応助言しておく。雇い主に義理を通そうと考えるのは自由だが、泥舟がどちらなのかは明らかだぞ?」




