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第517話 背氷の陣

 慣れない会話で早々に切り出す話題が尽きてしまい、クリフからの質問攻めに遭う事数十分。


 廃坑の中層を抜けて、出口までの折り返し地点を超えた辺りでとうとうクリフも質問が尽きたらしい。


 何やらまた俺に聞く内容を考えている様子のクリフに隙を与えないために、久々に訪れた静寂破る。


「一つ聞いても良いか?」

「勿論だ。むしろ、こちらからずっと質問してすまない」

()()は成功したみたいだし、もう無理に話を膨らませようとしなくても良いんじゃないか?」


 俺の問いを受けて、クリフが未だに眠るエリーと彼女の傍で静かに寝息を立てているシェリルの方を見た。


 巻き込まれたのは癪だが、焦っていた様に振舞っていたが案外クリフは冷静だったらしい。


 不機嫌そうに俺とクリフの話を見守っていたシェリルだったが、途中からクリフも話のネタが尽き始めたのか俺の好物や趣味についてまで聞き始め、その辺りで延々と繰り返される無意味な問答に疲れ切った状態で耐えられなかったのかシェリルは眠りについてしまった。


「そうだな……ポーションを分けて貰って助かった」

「気付け薬の代わりにはなるがちゃんと休まないと倒れるぞ?」

「後少ししたらお言葉に甘えさせてもらう。正直、あの状態のシェリルより先に寝たら後で何て言われるかおっかなくて気が気じゃなかった」


 恥ずかしそうに頬を掻いたクリフが氷の足場の上で居ずまいを直し、綺麗に伸ばした背筋を直角に折り曲げてこちらに頭を下げる。


「デミトリ、本当に助かった……ありがとう」

「気付いていたと思うが、シェリルの視線に射殺されるのではないかと冷や冷やさせられたぞ? 二度と巻き込まれるのは御免だからな?」

「ちが――さっきの会話の事じゃなくて救助してくれた事だ……! ちゃんと礼を言えてなかっただろ?」


 シェリルたちを起こさないように小声だが、力強くそう反論されて視線を逸らす。面と向かって感謝されるのは慣れないな……。


「……当然の事をしたまでだ。それにギルドに報告するまでが依頼だ。倒れられたら元も子もないから、クリフもそろそろ休――」

「わっ……!?」


 俺が突然停止させた足場の上で体勢を崩したクリフが、両手を氷につきながらなんとか転倒せずに持ち堪える。


「どうかしたのか?」

「通路の先に人が居る」


 緩んでいたクリフの表情が引き締まり、一気に目付きが変わる。


「魔力感知を使えるのか?」

「似たようなものだな」

「何も聞こえないな……屍人じゃないのか?」

「恐らく違うな。徘徊せずに採掘用に切り開かれた空間の中、わざわざ通路から出た人間の死角になる位置で待機している」


 俺の霧の魔法は制止した物体が生き物なのかどうかの判別が出来ない。身じろぎをしたり、忙しなく足踏みをしている人間が居て助かった。


 得られる情報は魔力感知と比べると限られるが、逆にそういう隙があると言う事は隠密に長けた集団ではない可能性が高いのが分かっただけ良しとしよう。


「待ち伏せか……」


 絶対にそうとは言い切れないが俺もクリフと同じ見解だ。


 俺にクリフ達の捜索を依頼した冒険者ギルドが、廃坑の危険性を把握できていないのにこの短期間で応援を送るとは思えない。


 仮にヴァネッサ達や王家の影の人間が俺を追って来たのであれば……屍人との戦闘痕を廃坑の上層で見つけた後に立ち止まるならまだ分かるが、わざわざ廃坑の中層に位置する空間で隠れるような真似はしないはずだ。


 フォーレの森とヒエロ山への入山が許可されているのは、今の所調査依頼を請けている冒険者だけだと聞いている……そうなるとこの先に居るのは氷岩鉱目当ての賊か、考えたくはないが希少鉱石を得られる機会に欲が出た冒険者かもしれないな。


「面倒だな……」

「どうする? 本調子じゃないけど俺も戦える」

「クリフにはシェリルとエリーを守るのに専念して欲しい。三人を人質に取られるのが一番厄介だ」


 話しながら通路の前方を氷の壁で塞ぐ。


「急にどうしたんだ?」

「この狭い通路で一番避けたいのは挟み撃ちだ。それに俺が索敵に使ってる霧の魔法には色々と制限がある……注意はしていたが、先程通り過ぎた空間の屍人達の死体に紛れて隠れていた人間が居たら、その存在に気づけなかった可能性がある」


 開けた空間の大雑把な物の位置しか分からないのがここに来て悔やまれるな……魔法の制御と操作に全神経を注げばより細かい隙間にも霧を忍ばせる事も可能だが、そうなると氷の足場を維持できなくなってしまうし何より俺の空間把握能力では処理しきれない。


「一旦引き返してあの空間に人が居ないか確認させてくれ。後方の安全が確保出来たらシェリルとエリーの回復を待つために休息しよう。二人が意識の無い状態で戦闘になったら――」

「危ない!!」


 足場から飛び出したクリフが剣を振って防ごうとした矢が、纏わりつかせた霧が氷に変わった事で浮力を保てず丁度俺の足元で地面と衝突する。


「気付いてたのか! 余計な事をしてすまない」

「守ってくれようとしてくれたのには感謝しかないが、その話は後だな」


 シェリルとエリーが乗っている氷の台を囲むように氷を伸ばして、ついでに先程作った氷の壁も少しだけ分厚くし、左手にずっと持っていた松明は邪魔になるので氷の台に生やした壁に凍り付けた。


「逃げ道を塞いで申し訳ないが、後方から刺されるよりはましだと思ってくれ」

「問題ない、退路の無い場所での戦いには今回の依頼で慣れた」


 クリフは不敵に笑い余裕を装っているが、ポーションで傷は治っても体力は回復しない。気力だけでなんとか立っている状態のクリフの前に踏み出る。


「さっきも言ったがクリフは仲間を守る事を最優先して欲しい」

「迷惑ばかり掛けてるんだ、『背中は任せろ』位言わせてくれ」

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