第516話 男達の攻防
「えっと……デミトリ、さん?」
「さん付けは止めてくれ、同じ冒険者だろう」
「そんな! 二つ名持ちの人を呼び捨てなんて――」
「勝手に呼ばれているだけで俺はそんなに大した人間じゃない。そんな事を言うなら俺もシェリルさんと呼ぶぞ」
「え!?」
少し強引だが、早めに釘を刺しておかないとずっと敬称を付けられそうだったので有無を言わさず言い切った。
これからボルデの冒険者達と関わる機会も増えるだろうし、早めに俺の呼び方を是正しておきたい。正直な所、二つ名呼び含めこれ以上変に気を遣われるのは俺の心が持たない。
「それは止めて!?」
「はは、滅死の魔術士殿にさん付けして貰えるなんて大出世だな」
「クリフ!?」
「クリフもだぞ? 呼び捨てで構わない。それとも、クリフ殿と呼ばれたいのか?」
「すまない、調子に乗った! 普通にクリフって呼んでくれ……流石に恐れ多い」
他愛もない会話をしながら屍人の海を渡り切り、帰り路へと通ずる通路を潜った所で一旦足場を止める。
「何をしてるんだ?」
「屍人達が氷から脱した後、廃坑内で徘徊されたら困るだろう?」
通路を塞いでいた岩を取り込んだ氷塊を水魔法で包み込み、無理矢理通路の中へとまた押し込む。なんとか捻じ込み終わった所で、通路と氷塊の隙間を埋める様に水を満たしてから改めて凍らせ、完全に通路を封鎖する事に成功した。
「これで当分は大丈夫なはずだ」
「後始末までさせてすまない……」
「気にしなくても良い。だが――」
申し訳なさそうに頭を下げたクリフとシェリルの方に振り返る。
「尋常じゃない数の屍人を三人では倒せないと判断したからこそ、ここに至るまで無駄な戦闘を避けていたんだろう? 戦力不足だと分かっていたのになぜ無茶をしてまで廃坑の最深部まで行ったんだ?」
「それは……」
倒れたままのエリーの方をちらりと見てからクリフが黙り込んでしまった。どうやら無茶な探索は彼女が原因らしいな。
「ある程度状況を把握出来た段階で応援を呼ぶ為に引き返すべきだったと思うが……何があったんだ?」
「「……」」
何かを言いたげなシェリルと目を合わせながら、クリフが静かに首を横に振る。どうして彼等がこんな行動をしたのか気にならない訳ではないが、これ以上詮索するのは止めておくか……。
「……分かった、話し辛いのであればこれ以上無理には聞かない。だがギルドに戻ったら事情を聞かれるはずだから、心の準備はしておいた方が良いぞ?」
「ご忠告痛み入る……」
「クリフ、助けてくれたんだからデミトリには説明した方が良いんじゃない? 救助に来てくれたから良かったけど、あのままだったら私達死んでたわよ?」
「シェリル……気持ちは分かる。デミトリにも本当に申し訳ないと思ってる……けどエリーに断りも無く勝手に話すのは違うだろ?」
相当込み入った事情がありそうだな。シェリルが看病しているエリーから目を離してまで視線でクリフに訴え掛けているが、クリフも頑なだ。双方意見を譲るつもりは無いらしい。
「エリーに付き合ったのは私達の責任だから死んでも仕方がないって覚悟を決めてたけど、その行動の結果救助されることになったんだから、救助してくれたデミトリにきちんと説明するのも私達の責任じゃない??」
「シェリル――」
「二人共そこまでにしてくれ! 興味本位で聞いてしまって悪かった。ギルドでちゃんと報告するのなら俺がわざわざ聞く必要も無いし、今重要なのは全員が無事な事だろう」
「「……」」
口論に発展しそうだったので無理やり割って入ったが、クリフとシェリルが無言を貫き何とも言えない沈黙に神経がすり減って行く。
「……どれだけの期間あの足場の上で籠城していたのか分からないが、疲れていると気が立つと言うだろう? 平気を装っているが二人共かなり疲弊しているのは分かっている。氷の上はあまり心地よくないかもしれないが体を休める事に専念してくれ」
「気を遣わせてすまない、そうさせて貰う」
「私はエリーを看ないと――」
「シェリルも休んでくれ。魔力枯渇症に関しては俺も経験があるが、休むしか回復の術がないだろう? 無理をしながら見守って、逆にシェリルが倒れたらエリーも悲しむんじゃないか?」
「……そうね」
口ではそう言ったものの、クリフとシェリルが休む気配が一向にしない。
彼等を乗せた足場を制御するために、視界に収まる自分の前方に足場を保ちながら移動を開始してしまった事を今更ながら後悔する。
せめて後ろから足場を引く形であれば、この気不味い光景をずっと見続ける羽目にはならなかったはずだ。
「「「……」」」
クリフ……シェリルが怒っているのは分かるが、そんな目で俺を見ないでくれ。対人能力の低い俺なりに、精一杯この場を収める策を先程講じたんだ。これ以上は何も出来ないぞ……。
「デ、デミトリはずっとソロで活動してるのか?」
何故そこで俺に話を振るんだ……!? 俺が幾ら喋ってもこの状況を解決する糸口は見つからないと言うのに……。
「……冒険者としてはそうだな」
「その口振りだと仲間はいるんだな?」
「ああ。今も別行動で依頼を請けている。逆にクリフ達はパーティーを組んで長いのか?」
「そ、そうだな。俺達は青銅級の頃からずっと一緒だ……それにしてもソロで金級、しかも二つ名持ちなんて凄いな? デミトリは誰かとパーティーを組もうとは思わなかったのか?」
だから、何故話題の中心を俺の方にずらそうとするんだ……! クリフは彼女から目を背けているが、シェリルもあからさま過ぎて呆れているのが表情で分かるぞ。
「それこそ、俺もお前達と同じで色々と話せない事情があってソロで活動している。冒険者ならそういう事情の一つや二つ抱えている物なのかもしれないな」
「はっ、はは、そうだな……」
気不味い……まさか、これがボルデに帰還するまで続くのか……??




