第514話 廃坑の最深部
「ここもか……」
氷贋鉱の鉱脈があったのか、移動用の通路よりもはるかに掘り広げられた空間。その地面に無数の屍人だったものが転がっている。
ここに至るまでも何度か似たような光景を目の当たりにしたが、幽氷の悪鬼は廃坑内のある程度開けた空間に屍人を溜め込んでいたらしい。
何度か地下へと通ずる道ではなく、行き止まりになってしまっている空洞に繋がる分岐点の先を確認してみたが、そのすべてが夥しい数の屍人で埋め尽くされていた。
刺激を与えない限り動き出す様子が無かったので放置したが、捜索中の冒険者達も同じ考えだったのだろうか? 今の所廃坑の最深部へと通ずる道を塞いでいる屍人達としか戦闘していない様だが……。
松明の明かりを頼りに、依頼票に記された簡易的な廃坑の図面の写しを確認する。読み方を間違えていなければ、中層を突破して最深部の手前辺りまで到達しているはずだ。
「それにしても酷いな……」
足元に転がる乱暴に首を削がれた屍人の亡骸は、周囲の状況と比べるとまだましな方だ。
俺が探している冒険者達は剣士と治癒術士と魔法使いの三人組だったはずだが……彼等の残した戦闘の跡が廃坑の深部へと至れば至るほど荒々しくなっている。
廃坑の上層では一撃で屍人の首を仕留める事が出来ていた剣士の攻撃が、疲労が原因か分からないが剣筋がずれて関係のない個所を大きく裂かれた屍人が増えている。魔法で攻撃された屍人も、制御が甘くなっているのか致命傷にならない四肢や胴体に攻撃された上で、魔法を乱打された個体が多くなっている。
討ち漏らされて廃坑内を徘徊している屍人も増えているし、冒険者達がかなり無理をしているのが明らかだ。捜索の素人の俺でも彼等が疲弊しきっているのが戦闘の痕跡から伝わってくる。
「なぜそこまでして……」
捜索中の冒険者達が、なぜ上層である程度廃坑内の状況が把握出来た段階で引き返さなかったのかがずっと引っ掛かっている。
この坑道が廃坑になったのは、氷贋鉱を採掘しきった事が原因ではなくヒエロ山に幽氷の悪鬼が封じられたからだと聞いているが……まさかな。
氷贋鉱目当てで無理をしていると決め付けかけたのを反省しつつ……他に適当な理由が思い浮かばない為悶々としながら探索を再開した。
「……?」
あれがこの廃坑の最深部に繋がる道か? 図面通りに進んでいたら、ここで間違いないはずだが――。
「落石……?」
これが廃坑の老朽化が原因の崩落ならすぐにでも引き返すべき所だが、良く見ると壁や天井に罅も無いしそれを支えている木製の支柱も健在だ。
松明の明かりで判断するのは心許ないが、道を防いでいる岩が廃坑の岩肌と少し違う色にも見える。
――土魔法で塞いだのか……?
微かにだが、道を塞ぐ岩の隙間の先から屍人の呻き声が聴こえる。冒険者達はこの奥に進んで、待機している屍人達を覚醒させてしまったのだろう。
外に屍人達を逃がさないために道を防いだのかどうか分からないが――。
「聞こえているか分からないが、救助に来た金級冒険者のデミトリだ!! 道を塞いでる岩をどかすから、近くに居たら避難してくれ!」
「……! …………し……! ………………だ……」
良かった。
返事が返って来たと言う事は彼等はまだ生きている。声は全く聞き取れなかったが、今は生存確認が出来ただけで十分だ。
返事が無ければ無理やり道を切り開くつもりだったが、入り口付近で冒険者達が待機している場合を考慮して方法を変える必要があるな。
一応落石の隙間から侵入させた霧の魔法ですぐ傍に誰もいないのは確認できているものの、吹き飛ばした岩が冒険者達に当たってしまう危険がある以上あまり手荒な真似は出来ない。
とは言え安全に岩をどかす方法か……力任せに解決出来ればだいぶ楽だったのだが……。
岩で塞がれた通路を水魔法で隙間なく満たし、一気に凍らせる。魔力を込めながら、岩を取り込んだ正方形の氷塊をそのまま強引に俺が立っている広場の方向に向かって引き抜いて行く。
でこぼこの地面に何度か引っ掛かりながらも無理やり作業を進め、氷塊が通路から完全に脱したのを確認してすぐに先に進む。
「これは……」
「助けてくれ!!」
通路を潜り広場に出ると、数百体の屍人に群がられながらぎりぎり攻撃が届かない岩場の上で必死に耐えている冒険者達が見えた。
一体何をどうすればあんな状況に――。




