第511話 新たな行方不明者
時系列的には「閑話 二人のその後」の前のお話になります。前後してしまって恐縮です。
「ラルフとカイルは駄目だったか……」
「すまない。状況については報告した通りだが死なせてしまったのは完全に俺の過失だ。罰があるなら受け入れるつもりだ」
ベン達に付き添った依頼の顛末を報告するために訪れた、冒険者ギルドの執務室が重い空気に包まれる。
ギルドに帰還した時点でイーロイは三人しか戻ってこなかったのを見て色々と察していたみたいだが、改めて報告を聞き苦渋に満ちた表情を浮かべながら押し黙ってしまった。
「っ、アヴリルとベンにも、経緯を聞かれたら素直に答えて欲しいと伝えている」
沈黙に耐えきれず補足を口走った所で、イーロイが片手を上げた。
「……過剰防衛だったのか気にしてるのか?」
「当たり前だろう……俺がしっかりしていれば二人は死なせずに済んだはずだ」
「あいつらが反抗的な態度を取ったら処分は任せるって事前に説明しただろ? 冒険者ギルドとして今回の件は不問にする」
上げた手を弱弱しく横に振り、この話は終わりだと言わんばかりの態度で座っている椅子の背もたれに深く身を預けたイーロイが、短く息を吐く。
「別に特別扱いじゃないからな?」
「そうだとしか思えないが……」
今回の付き添いは冒険者とボルデの住民間の溝が深まらない為の施策だと言うのは事前に説明を受けている。
二人の冒険者が滅死の魔術士と呼ばれた俺を攻撃して死亡すると言う、最悪な結果になってしまったが……過剰防衛が成立するにも関わらず俺が無罪放免にされてしまったら、『ボルデの英雄』扱いを受けている俺を無暗に罰せられないからと勘ぐってしまっても仕方がないと思う。
「今回あいつらが依頼の受注を許されたのも、デミトリが付き添う形になったのも、ヴィラロボス辺境伯殿の要望があったからこそ実現した特例だったのは事実だ」
「それとこれとは関係が無くないか?」
「その通りだ。特殊な状況だったのを差し引いてもあいつらが殺人未遂で勾留された罪人で、処罰が下る前に更生の機会を与えられたのに、被害者であるお前を襲おうとする蛮行を犯したんだ」
「そう言われるとそうだが――」
「『そう言われると』とかじゃなくて、どうこねくり回しても事実は変わらねぇ。お前の事を襲おうとした時点で、あいつらが生き残る道はお前に温情を掛けられるしかなかったんだ」
俺が報告している間纏めていた調書を持ち上げながら、内容を速読しているのかイーロイの目が左右に素早く動き始めた。
「現にお前は拘束するだけで済ませようとしたんだろ? ご主人様が傷つけられると思った従魔に襲われて死んじまっても、あいつらは文句を言えねぇよ」
「ピ?」
「シエルもお咎めなしって事だ」
表情をやわらげ、優しくシエルにそう語り掛けたイーロイがこちらに視線を戻す。
「とにかくあまり気を落とすなよ? 無理言って付き添いまでしてもらって、他の依頼でも散々世話になってるのに……これ以上デミトリに迷惑を掛けちまったら流石に俺も心労で倒れるぞ?」
実際過労で日に日に体調が悪化している様子のイーロイにそう言われると圧があるな……。
「……分かった。反省はするが、引きずらないように努力する」
「そうしてくれ。ちなみに、ラルフとカイルが死んだ後……ベンとアヴリルはどうだったんだ?」
羽ペンを再び手に取りながら、イーロイが記入途中だった調書に改めて視線を落とした。
「依頼の評価は最低だが、二人共反省していたし個人的には減刑されても良いと考えている」
「ギルドとしては厳粛に処罰すべきだと考えてたが、異論があるんだな?」
「事の発端となった事件でも二人共褒められた態度は取っていなかったが、実際俺を攻撃してきたのは今回と同じくラルフとカイルだった。連帯責任で彼等が罪を背負うのは可哀想だ」
「そうか……ふぅ……」
空いた手で目元をごしごしと揉み解しながら息を漏らしたイーロイが、こちらに弱弱しい笑顔を向けて来た。
「すまないな。ギルドマスターの俺がこの件に付いて私情を挟むのはお前にとって気持ちの良い事じゃないのは分かってる。だけど、正直に言っちまうとかなりほっとしてる……根は悪い奴らじゃないんだ」
「それは俺も依頼に付き添って思ったが……」
話してみれば案外素直な性格をしていたし、ちゃんと反省する事が出来ていたアヴリルとベンは更生の機会さえあればなんとかなるはずだ。
そう言う意味では、なぜ彼等の様な人間がラルフやカイルの様な粗暴な輩とパーティーを組んでいたのかが疑問だが……。
「ラルフ達の事が気になるのか? アヴリルとベンがあの二人と組んだのは最近だからな……故人についてあまりとやかく言うのは行儀が悪ぃから一つだけ言うなら……あの二人はベン達にとって良くねぇ見本になってたかもしれねぇ」
魔法使い二人と戦士と治癒術士という組み合わせは少し後衛に偏り過ぎではないかと思っていたが、元から組んでいた訳ではないのか……。
「取り敢えず、報告を纏めるから説明を続けてくれないか?」
「分かった」
――――――――
「よし……これで良いだろう」
「アヴリル達の処分は――」
「今回の依頼は特殊だったからな。滅死の魔術士と冒険者達が関わる事件をどう公表するのか、ヴィラロボス辺境伯殿と相談してから沙汰を下す予定だ。でもデミトリの進言も考慮するし、悪いようにはしねぇ」
「そうか……任せた」
ラルフとカイルの件はどう処理するのか想像が付かないが、冒険者ギルドとボルデの住民の溝をこれ以上広げないために恩赦とまでは行かずとも、アヴリルとベンが冒険者を諦めないで済むような形で着地する可能性が高そうだ。
「ああ、任せてくれ!」
イーロイの意気込み方から察するに、彼も気に掛けていた冒険者達の未来が閉ざされるような決着を望んでいないだろう。取り敢えずは安心して任せられそうだ。
「ちなみに、依頼を終えたばかりで悪ぃんだけど……手は空いてるか?」
「当分は依頼をこなすのに集中するつもりだったから特に予定は立てていないぞ?」
「すまねぇ……連日で申し訳ねぇけど、頼みたい依頼がある」
俺が付き添いから戻って着次第共有するつもりだったのか、書類が散らばった机の上からイーロイが素早く一つの依頼票を拾い上げた。
「ヒエロ山の旧氷贋鉱坑道の調査と人命救助?」
「廃坑のはずなんだが、幽氷の悪鬼の脅威が無くなった今氷贋鉱を狙う人間が真っ先に訪れるであろう場所だ。警戒の意味も込めて調査に向かわせた銀級パーティーが帰って来ねぇ……」




