第508話 無意識にフォローする付き添い人
「ッ!? メェ――」
「大人しくしてくれ」
濁流に攫われ、その巨体ごと近くの木々に叩きつけられ瀕死になりながら尚も立ち上がろうとしたチュパカブラの首に剣を突き立てる。
肉を割き、骨に達した切っ先から鈍い衝撃が伝わって来たのとほぼ同時にチュパカブラが全身を痙攣させ、程なくして絶命した。
収拾が付かなくなる前に事態を収めようと動いたが、ここまで滅茶苦茶にされてしまったら焼け石に水だな……。
先程とは打って変わって静寂の訪れた森の中、周囲に他の魔獣が居ない事を霧の魔法で確認してからゆっくりと背後の惨状に振り返る。
「……酷いな」
アヴリルは氷壁で守り、地面に伏していたベンは彼を守るために纏わせていた水魔法を凍らす事でなんとかあの水魔法を凌いだが……急な水魔法に晒されて森はかなり酷い状況だ。
おまけに濡れた木の樹皮がすでに凍り始めてる……地面の濡れた雪もこのまま放置してしまったら凍ってしまい、この一帯が草木の生えない凍土と化すだろう。
「ベン、しっかりしてよ……!」
「っ……」
……本当に対応に困るな。彼等なりに必死なのは分かっているが……。
「……帰る準備をしてくれ」
「待って! 下さい、治療しないと――」
「これを飲ませてやれ」
常備しているポーションを収納鞄から取り出しアヴリルに渡す。
躊躇なくそれを受け取ったアヴリルはそのまま瓶の封を開け、ポーションをベンの口元に運んだが何を思ったのかベンが飲むことを拒否した。
「……要、らない」
「ベン!? 変な意地を張らないで! その傷じゃ死んじゃうわよ!?」
「だい、じょうぶだ……!」
大した根性だな……あれだけ暴れていたチュパカブラにしがみ付け続けられたのも、今こうして生き長らえているのも、恐らく治癒魔法を自分自身に掛け続けていたからだろう。
治癒魔法程効果的ではないが、自己治癒を行いながら似たような事をした経験があるから分かる。
傷は治せても痛みは緩和出来ない……今も脂汗を滝のように流しながらアヴリル相手に強がっているが、死ぬほど苦しいに違いない。
「お前の仲間を殺した俺の施しを受けたくないと考えているなら好きにすればいいが、俺が渡したポーションを飲んだところで今回の依頼の評価は変わらないぞ」
「……!」
意地を張っていたのは、やはり依頼の評価を気にしていたからか。俺の発言を聞き、素直にアヴリルからポーションを飲ませて貰ったベンの呼吸が少しずつ落ち着いて行く。
「なんであんな無茶をしたの……!」
「ごめん……」
ベンがあの調子だと出発できるのは早くても数十分後だろうな……彼の事はアヴリルに任せながら、水魔法に荒らされた森の方に視線を移す。
このまま放置してしまったら何も育たない土地になってしまう上に、他の冒険者達が知らずにこの一帯に足を踏み入れたら、凍った地面の上まともに動けず事故に繋がる可能性がある。
――地面と木々に染み込んでしまった水はどうしようもないが、せめて雪が氷に変わる前に除去しなければ……。
魔力を練り、水魔法を地面に這わせながら雪を絡めとって雪玉を作る要領で纏めて行く。徐々に巨大化していく雪玉をゴロゴロと転がして雪を巻き込みながら、先程の出来事を振り返る。
アヴリルのあの魔法は一体なんだったんだろうか?
意味不明な呪文の様な物を唱えた後、急に魔法が発動したがそんな現象は今まで遭遇したことが無い。確か、幽氷の悪鬼と戦った時奴も呪術を発動しようと詠唱のような事を試みていたが――。
「え、なによ――ですか!?」
作業をしながらアヴリルの方を見て警戒してしまったのを、本人に気付かれてしまった。
魔王や魔族の関係者だとは思わないが……似た系統の術? を使っているのは気になる。勇者のユウゴも魔法の名を叫んでいたが……あれともまた別物なのか?
答えの出ない疑問について考えている内に地表の処理が完了してしまった。この巨大な雪の塊は……転がらないように水の台を作って、そのまま凍らせてしまって地面に固定すればいいか。
「あの、えっと……準備出来、ました」
「……」
「そうか、それじゃあギルドに報告に戻ろう」
「俺達どうなるんだ?」
俺の作業が終わったのを見兼ねて話し掛けて来たアヴリルに続き、これまで沈黙を貫いていたベンが急に声を掛けて来た。
「……ギルドの判断次第としか言いようがない」
「デミトリ、さん……俺は良いからアヴリルの評価は上げてくれないか?」
「ベン、何を言ってるのよ――」
「それは出来ない」
「な、なんでだよ!」
身をより出しながら声を荒げたベンをアヴリルが止めているが、彼等の評価を今更変えるつもりは――。
「依頼を切り上げようとしてたアヴリルをここまで連れて来たのは俺だ! ずっと止めてくれようとしてたし、結局俺が無茶をした後チュパ・カブラを倒したのもアヴリルだ。せめて俺よりも――」
「馬鹿!! 仲間なんだから連帯責任でしょ!? 大体パーティーのリーダーなのにベンを止められなかった時点で私の責任よ!」
「違う――」
「二人共そこまでだ!」
無理やり割って間に入ったがこのままだと埒が明かないな。
このままギルドに戻ろうとしても揉め続けるだけなら、ここで一度話をさせてやった方がいいのか……?
「もういい……結局ベンも私の魔法の腕は認めてくれても、パーティーのリーダーとしては認めてくれてなかったって事でしょ」
「なっ!? 違う!!」
「何が違うのよ!!」
「あー、一つ良いか?」
再び話の腰を折られた二人が立場を忘れてこちらを不満げに見て来たが、これ以上話が渋滞してしまっては何も進まないので無視する。
どうせすぐに移動できないのであればあの件に付いて聞こう。
「あの魔法は何だったんだ?」
「……? 普通の魔法だけ――ですけど?」




