第505話 大惨事
「ピ~」
「あまり遠くに飛んでいったらだめだぞ」
リカルドとの話し合いから二週間程経ち、今更ながらフォーレと呼ばれている事を知った森の中を自由に飛び回るシエルを追って歩く。
冒険者不足は依然として解決されておらず、意地を張るのももはや限界だったのかボルデの住民達からもちらほらとギルドに依頼が発注され始めた結果、より多くの依頼を処理するためにヴァネッサ達とはしばらくの間別行動している。
そんな人手不足の状況で無駄な時間は取られてくないのが本音だが――。
「「「「……」」」」
ぞろぞろと無言で後を付いて来る冒険者達の、刺すような視線を背に感じながら深い溜息を吐く。
このまま黙って付いて来られるだけでは話が進まない為適当な空き地で足を止め、ふてくされた様子の冒険者達の方へと振り返りる。
「この依頼に俺が付き添っているのは、お前達の減刑と冒険者証剥奪の取り消しの為だろう? 黙ってついて来るだけのつもりなら俺はこのまま散歩して帰るぞ
?」
「「「「!?」」」」
俺を襲った件で崖っぷちの状態のアヴリル達が動揺しているが、一体何を考えてたんだ? 指摘されなければそのまま黙ってついてくるつもりだったのであれば……いや、一応被害者の俺に強く出れなかった可能性も無くはないが……。
「どうして私達の為に動いてくれるの――ですか?」
慣れていなさそうな敬語で沈黙を破ったのは、恐らく彼等のパーティーのリーダーであるアヴリルだった。
「何故、か……」
説明する義理も無いが、仮に説明しようにも事情が複雑すぎて面倒だな。
俺を襲って謹慎処分になった後、本来であればそのまま冒険者冒険者証を剥奪されてもおかしくなかった彼等だが、その処分に待ったを掛けたのは意外にもケイレブ殿だった。
ヴィラロボス辺境伯家が冒険者ギルドとより密に連携するようになり、俺と関わったアヴリル達の件も耳に入ったらしいが――。
「アヴリル、どうせ何か企んでるんだからあいつに気を許すな」
「俺を殺しかけといて何が付き添いだ! こんな奴と一緒に居て仕事なんかできるかっつうの」
「……」
悪態を付く余裕があるのは結構だが、四人中二人がこの態度では話にならないな……。
『デミトリ……数少ないボルデに残った冒険者がボルデを救った滅死の魔術士を襲って冒険者を辞めさせられたという事例は、冒険者ギルドと領民の関係に決定的な亀裂を入れかねない。一方的な被害者である君が配慮しなければならない憤懣は推し量るに余るが、協力してくれないだろうか?』
ケイレブ殿にそう請われ、イーロイからも個別に懇願された為、渋々アヴリル達の更生の立会人擬きを引き受ける事になったが――。
「ったく、なんで俺達がこんな目に――」
「ギルマス命令じゃなきゃ――」
「二人共いい加減にして!!」
「なんだよ」
「ちぇっ……」
ぐちぐちと文句を垂れ始めたラルフとカイルをアヴリルが一喝したが、この二人は駄目だな……俺が相手だったから未遂で済んだものの、暴走した彼等が行おうとしたのはれっきとした殺人だ。
罪の意識の欠如と自分達が置かれている状況に対する理解力のなさ……今後冒険者を続けても、確実にまた似たような問題を起こすだろう。
イーロイが拘束されていた彼等に一から十までどこを間違ったのか説明したと聞いているが、その上でこの有様なのだから救いようがない……。
「わ、私達は本気で償おうと思ってる――ます!!」
拙い敬語だが、アヴリルからは反省の意思が伝わってくるのが逆にやりにくい。
全員が反省するか、全員が反抗してくれた方が遥かに楽なんだが……無い物ねだりをしても意味が無いか。
立会人を引き受けた以上彼等の為に時間を浪費するのは不本意だとしても、向き合う努力をする義務が俺にはある。
「ラルフとカイルは反省の色無し。アヴリルは自分の状況が分かっているみたいだが……ベン、お前はどうなんだ?」
「……! 俺達のした事は……最低だった。それなのに、付き添ってくれてる事に感謝してる」
「はぁ!?」
「ベン、お前もかよ!?」
本心ではなさそうだが……あの二人と違って取り繕えているだけましか。
「……分かった。ラルフとカイルはもう帰って良いぞ」
「「はぁ!?」」
「真剣に依頼に取り組むつもりが無いならお前達は邪魔だ。それとも、お前達はアヴリルとベンも減刑されないように足を引っ張りたいのか?」
「てめぇ……!」
依頼中のみと言う条件付きで帯刀を許された剣を抜いたカイルと、魔力の制御が甘いのか分かり易い揺らぎを放ち始めたラルフに思わず眉をしかめる。
「この前は運が良かっただけなのに調子に乗るんじゃねぇぞ? 四人がかりで戦ったらお前なんて――」
「やめて!! 私達はそんな事するつもりないわよ!?」
「二人共落ち着いて――」
「しゃらくせぇ!!」
ラルフが魔法を発動しようとした瞬間、あらかじめ空気中に漂わせていた霧の魔法に魔力を込めてラルフとカイルの首から下を氷塊の中に埋める。
「冷たっ!?」
「なんだこ――」
「ピー!」
「シエル? ……何を!?」
頭上を旋回していたシエルが鳴いたのと同時に、周囲に展開していた霧の魔法が無数の線状の何かの侵入した。
そして何が起こったのかを頭で処理出来る前にそれは起こってしまった。
身動きが取れない状態のラルフとカイルがシエルの魔法に襲われ、二人を閉じ込めた氷塊に無数の切り傷が刻まれる中、晒されていた彼等の頭部が夥しい数の透明の刃に切り刻まれて行く。
「ピ!」
「いつの間に魔法を……!?」
俺の肩に着地して満足げに羽を広げるシエルに気付く余裕も無く、唖然としながら一部始終を見ていたアヴリルとベンが負傷した仲間の元へと駆け寄る。
「酷い!? 血が――」
「傷が治らない!?」
本当は拘束だけしてギルドに引き渡すつもりだったが、身動きを取れない状態でまともにシエルの魔法を受けたラルフとカイルは――。
「し、死んでる……」
「嘘……嘘でしょ!?」
……やってしまったな。
「ピ! ピ~??」
「……俺の事を守ってくれたのか?」
「ピ!」
「……ありがとう」
本当はシエルに感謝の言葉を送るよりも前に、目の前の惨状をどうにかするべきなのは分かっている。平静を保とうと努力しているが、想像以上に俺自身この状況に動揺してしまっているみたいだ。
反抗された場合の処分は任されていたが、完全に俺の監督不行き届きだな……。




