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閑話 感謝の形

 ――ティシアちゃん、少し時間を貰えるだろうか?


 デミトリから呼んでくれるなんて珍しいわね。


 アイリスの件で呼ばれた時は、念話越しでも凄く焦ってるのが伝わったけど……今回は緊急事態ではなさそうだし、どうしたのかしら……?


 繋がりを頼りにデミトリの傍に転移の影を展開して移動すると、こじんまりとした部屋に到着した。記憶が確かなら、デミトリが泊まってるそりの個室のはずだけど――。


「急に呼び出してしまってすまない」

「愛し子なんだから、いつでも呼んでくれても良いのよ?」


 くしゃっと顔を困り顔に歪ませたデミトリを見て不意に笑みが零れる。私の発言が社交辞令かどうか判断がつかないみたいだけど、余程の事が無い限り呼んでくれたら会いたいのは本心なのに。


「……もう少し気軽に呼んでみる」

「ふふ、そうしてくれると私も嬉しいわ」


 ……らしくないわね? デミトリが何かを背に隠しながらもじもじしてるけど、一体どうしたのかしら――。


「今日呼んだのは、本当に大した理由はないんだ。ただ――。


 隠していた何かを持ったまま腕を前に回したデミトリが、赤茶色の木の器を両手で丁寧に持ちながらこちらに差し出して来た。


「日頃の感謝を伝えたくて贈り物を用意したんだが……受け取って貰えるだろうか?」

「これは……?」

「セコーヤの木で作った器だ。既製品だと味気ないと思ったものの仕上げは工房に任せだが……一応俺が素材を削って一から作った」


 自信なさげに掲げられた器は、職人が施した仕上げによって暗い部屋の中でも分かる光沢を纏いつつ、手製故の粗削りな個所の目立つ素朴な出来をしてる。


「手作りって、私の為に……?」

「ああ。だが、その……不要ならこちらで預かるから無理して受け取る必要は無い。神に贈る物なんて想像もつかなかったし、もう少し上手く出来れば良かったんだが……」


 滝のように保険を掛け始めたデミトリの腕が微かに震える。そんなに自信がないなら、なんで――。


「なんで……」

「? ティシアちゃんには出会ってからずっと助けて貰っているだろう? 感謝の気持ちを贈り物で表すのもどうかと思ったんだが、そんな事で悩むよりまずはお礼をするべきだと思ったんだ」

「……ありがとう……」


 ちょっと過干渉になってないか不安だったけど、感謝の気持ちを形で表してくれるなんて夢にも思は無かった。大体、私はいつも――。


「そ、その、器を貰っても困るというのであれば遠慮せずに言ってくれ」

「ふふ……せっかく作ってくれたんだからあまり自分を卑下しないで? 私への供物は……大体血生臭い物ばかりだったから少し驚いただけよ」

「血生――いい迷惑だな……別にティシアちゃんが求めた訳ではないだろう?」


 真っ直ぐこちらを見つめる、一片の曇りもない瞳に思わず息を呑んでしまう。


「……悪い神様だから分からないわよ? 私が求めた可能性もあるわ」

「ティシアちゃんはそんな神様じゃないだろう」


 こんな私の事を少しも疑う様子もないなんて……私は、そんな信頼に値する神じゃないのに……。


「ちなみに今度氷菓子を作るんだが、忙しくなければ誘ってもいいだろうか? 器を使う機会になれば良いんだが……」

「ええ、誘ってくれたら嬉しいわ。楽しみにしてる」

「良かった! 口に合うか分からないが……ヴァネッサと一緒に腕を振るって作るから、期待していてくれ」


 慣れない台詞を照れくさそうに言うデミトリを見て、無意識に彼から渡された器を持つ手に力が入る。


 ……シャーナ(運命神)は無理って言ってたけど、デミトリを守るためなら――。


――――――――


「けほっ……」

「トリス……? ちょっと、大丈夫!?」

「ミネア……平気よ」


 頭がくらくらする……体調が元に戻るまでゆっくりするつもりだったのに、領域にミネアが居るのは計算外だったわ……。


「ちょっと待って!? かなり神力が乱れてない? 本当にどうしたの?」

「心配しなくても……大丈夫だから気にしないで。探求神を始末するのに、想像以上に力を使っただけよ……」

「それだけじゃないわよね?」


 ……相変わらず鋭いわね、今は放っておいて欲しいのに……。


「トリス、何をしたの?」

「……本当に何でもな――っ……!!」

「ちょっ、トリス!?」

「だい、じょうぶよ……ちょっと、デミトリの運命の糸を正常にしただけだから……」

「は!? 何やってるの!?!?」

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