閑話 王子の謝罪①
「僕の身勝手な考えで迷惑を掛けちゃって、本当に――」
「エリック殿下、それ以上は発言してはなりません」
「でも……」
「幾ら非公式の場とは言え、家臣にそう簡単に頭を下げるべきではありません……それに結果は伴わなかったかもしれませんが、我々の事を思って不和を正そうと行動なさったんですよね? 安易な謝罪はその思いすら否定する事になります」
謝罪を受け入れてくれないのは覚悟してたけど、手厳しいな……。
「このように話し合いの場を設けて頂いて、謝意を示して頂いただけで私は満足です」
「……僕の立場を慮ってそう言ってるなら遠慮はいらないよ?」
「そんな事はありません。ですが、何も出来ないとなると逆に居心地が悪いのも分かります。私はエリック殿下が余暇を利用してリカルド様を手伝って下さってるだけで十分なので、引き続きご協力頂ければ何も言う事はありませんわ」
「……分かった。ボルデに滞在してる限りは協力を惜しまない」
――――――――
「えっと……」
「きんぴかだね?」
「アイリス……! エリック殿下、ちょっと待ってて下さい!」
ナタリアとの話し合いが終わって、入れ替わる様にヴィラロボス辺境伯邸の応接室に入室したヴァネッサとセレーナが、慌てた様子で付いてきていたアイリスを連れて部屋の扉に引き返していく。
「セレーナ、アイリスの事をお願いできる?」
「金ぴかさんとヴァネッサちゃんが先に話すみたいだから、アイリスちゃんは私と一緒にこっちに行こうね~」
「セレーナ……!?」
「んー? わかった」
金ぴか……確かに僕の髪は父上譲りの金髪だけど、もしかして服装の事かな……?
「あのお方が……」
「! イバイ、デミトリが保護してる事情のある子だからさっきの事は咎めないで上げてね?」
「承知致しました」
イバイと話してから少し間をおいて、今度はヴァネッサだけが応接室に戻って来た。
「すみません。デミトリからも説明があったと思いますけど、アイリスはまだ貴族制度と王権について理解出来てなくて! セレーナは――」
「そんなに畏まらなくても大丈夫だよ、話は聞いてるから。セレーナも、多分アイリスが分かりやすいように言っただけ……だよね?」
そうだよね……? 今まで話す機会なんて幾らでもあったはずなのに、アムールでデミトリと稽古をしていた時以降まともに話してないから、僕も距離感がいまいちよく分からない……。
「謝罪と言うのは……」
「気付いてると思うけど、ヒエロ山でデミトリと少しぎくしゃくしてたよね? 余計なお世話だったと思うけど、ヴァネッサ達の――」
「あー、すみません。王族を相手に話を遮っちゃうのはあり得ないと思いますけどそこで止めさせてください。私は何もなかった事にするつもりなので気にする必要はありませんよ?」
何もなかった事って……。
「デミトリと話して解決しましたし、何よりエリック殿下が悩んでたらデミトリが心配します」
なんだか、言い方が悪いかもしれないけどヴァネッサはデミトリの事しか気にしてなくて、僕個人との関係については一切気にしてない様子だけど……無理も無いか。
思えば今までデミトリとは何度も話して来たけど、セレーナと話すのが気恥ずかしい事もあって彼女と一緒にいる機会が多かったヴァネッサともほとんど話してないのに今更気づく。
「えっと……分かったよ。ありがとう」
ナタリアに続いて、ヴァネッサとのやり取りでも感じた壁を意識して胸が締め付けられる。
イバイと相談して、ヴァネッサ達の好みを確認してお詫びの品を用意しようとしてたのが馬鹿みたいだ……。
そもそもデミトリは兄さんの賓客で、かなり特殊な立場だから対等に話す機会を得られてたけど、ヴァネッサ達は違う。
関係性を築いてたならまだしも、今の状態で謝罪を受け取って貰えると考えてた事自体、僕が王族と言う立場に胡坐をかいた傲慢な考えだったのかもしれない。
「……そんなに分かり易く暗い顔をされたら困りますよ」
「! ごめ――」
「謝らないでください! 心臓に悪いです!」
「ご……うん、迂闊だった」
「私のこういう反応も良くないのかな……立場が邪魔して気軽には難しいかもしれないですけど、話してくれたら今回みたいな件は今後起こらないと思います。だからこれからは何かあったら声をかけてください」
今まで、対応をずっと間違えてたんだな……。
「えっと……お詫びの代わりに一つだけ発言を許してもらえますか?」
「?? 良いよ? エリック・ヴィーダの名において、この場の発言は一切咎めないと誓う」
「伝わってないと思うから言うけど、平民とか王族とか関係なくデミトリと仲が良い殿下となら私は仲良くなれると思ってるよ? だから、何かあったら話してくれると嬉しいな」
「……! ありがとう、これからはそうするよ」
ナタリア嬢と言い、ヴァネッサにも気を遣わせちゃったけど……王族の僕相手に難しいだろうにここまではっきり言ってくれたんだ、心を入れ替えて今後に活かそう。
「それじゃあ、セレーナを呼んできますね!」




