閑話 アムールはもうこりごり
「ごめんなさい!! わ、私ヴィーダ王国出身で、貴方の情熱には応えられません!」
「……」
アムール王国に来てから、逃げ去る女性の後姿を見せつけられたのは今日で何回目だろう……。
「エミリオなら分かるけど……マルコスだけ振られるの謎」
「ちょっと! ひどくない!?」
「マルコス……元気?」
「……この通り元気そのものだ、心配を掛けてすまない」
空元気なのが隠し切れなかったのか、兜の奥でイラティが眉を顰めているのが見える。
「この国の女がおかしいだけだから、気にするだけ無駄よ」
「ジェニファー……別に慰めてくれなくても大丈夫だ。俺が世間一般的に見て好ましくない容姿だとしても、冒険者業には支障は――」
「もう、やっぱり気にしてるじゃない! はっきり言うけど、私は別にマルコスの事を慰めてるつもりはないわよ? この国の女の感性がおかしいって事実を述べてるだけだから」
そうは言われても、別に口説くつもりもないのに毎回女性と話すたびに拒絶されてしまうと流石に堪える。
アムール王国に来た当初は気丈に振舞えていた自負があるが、今となっては……ジェニファーが力強く否定してくれるのも仲間だから気を遣っているだけなのではないかと、不安になってしまう自分が情けない。
「大体、デミトリもあなたと同じように拒絶されてたって言ってたじゃない? 自分を卑下する言葉はそのまま彼の評価を下げるわよ」
「そんなつもりは……!」
「それにしても不思議だよね? 何でマルコスとデミトリだけ女の子の反応が違うんだろ?」
「愛の女神に……好かれてるのかも?」
イラティが呟いた事の意味が分からなかったのは俺だけではなかったのか、不自然に会話が止まる。
「……どう言う事?」
「ジェニファー……そんな顔したら皺が出来るよ?」
「あのねぇ……」
「ははーん、そう言う事か! マルコスとデミトリは男前だから、愛の女神に気に入られたって言いたいんだね?」
「違うよ……エミリオは顔も頭も残念」
「だから僕の扱いが酷すぎるって! ちょっとこっちに来なさい!」
何を言い出すのかと思えば……。
「あの二人は本当に仲が良いわね……ああなったら、イラティが何を言いたかったのか当分聞き出せそうに無いわ」
「そうだな」
エミリオが羽目を外し過ぎないように気を付けているのか、アムール王国に来てからイラティが彼をからかう頻度が増えたように思える。
じゃれあう二人を眺めながら、先程のイラティの発言について今一度考えてみる。
「愛の女神に好かれて異性から拒絶される意味は良く分からないが……イラティの直感は当たるからな」
「……好かれてる、ね。確かにそうかもしれないわね」
「え?」
俺と同じようにイラティ達を眺めていたジェニファーがこちらに振り向く。
「エミリオは『僕にも春が来た!』ってこの国を楽しんでるけど、私とイラティが軟派野郎に苦労してるのは知ってるでしょ? 見方を変えれば、マルコスが妙な女に付き纏われないように愛の女神に守られてるとも言えるんじゃないかしら?」
「そう、なのか……?」
「繰り返し拒絶されてる身からしたら急にそんな事を言われても納得し辛いわよね。あくまで可能性の一つよ」
ジェニファーの言う通り余り腑に落ちてはいないが……そんな事が有り得るのだろうか?
「マルコスさん……! 先程はうちのモリーが大変失礼致しました!!」
雑談に花を咲かせてる内に、無人になっていたギルド受付に新しい職員が現れた。
「お待たせしてしまって本当にすみません!」
「いつもの事だから大丈夫だ……俺達当てに手紙が届いたと聞いて受け取りに来たんだが――」
「お預かりしてる手紙はこちらになります!」
「ありがとう」
職員から差し出された手紙を受け取り、差出人を確認する。
「個人じゃなくて私たちのパーティー宛てに連絡するなんて誰かしら?」
「……デミトリ殿からだ!」
――――――――
「私はマルコスの決定に従うわ」
「収穫期も終わったし……アムール王国で食べたい物は大体堪能した!」
「イラティは本当にぶれないね……元々例の件を忘れるための気分転換だったから、僕はヴィーダに帰国するのに賛成だよ! デミトリにあいつがもう居ないって教えて貰ったし」
エミリオがここまで辛辣な物言いをするのも珍しいな……それだけセイジの一件が酷かったとも言える。
「よし! 異論は無さそうだし、デミトリ殿の誘いを受けよう」
「長いようで短い滞在だったわね。それにしても……あっちの冒険者ギルドが困ってるからだろうけど、随分と魅力的な交換条件ね」
「そんなもの無くても――」
「マルコス、それ以上は言ったらだめよ。デミトリに失礼だわ」
手紙には本当に色々と書かれていた。
俺達の事を案じてか、デミトリが冒険者ギルドに掛け合って経歴の清算まで交渉してくれているのは本当に驚いた。
「……友として、見返りを求めないのは普通の事じゃないか?」
「親しい間柄だからこそ通すべき筋があるでしょ。それにあの交換条件の内容は、自分の評判に私達が関連付けられちゃう事で、私達に不利益があるかもしれないってデミトリが心配してる裏返しだと思うわよ?」
……ジェニファーの言う事も分かる。
無名の冒険者パーティーのトワイライト・ダスクが急に『幽氷の悪鬼』や『滅死の魔術士』の盟友扱いされ始めたら、その名声にあやかろうとしている風に捉えられてもおかしくない。
「それでも協力して欲しいって覚悟した相手が、準備してくれたものを受け取らない方が筋が通ってないわ。私達はその期待と思いに応える仕事を返せばいいのよ」
「……そうだな! ありがとう、ジェニファー」
――――――――
「マルコスにはジェニファーが居るから……女神が変な虫から守ってると思う」
「さっき言ってたのってそう言う事?」
「うん! デミトリにも……ヴァネッサがいる」
「んー??」
その理屈だと、マルコスだけ守ってジェニファーがナンパされまくってる意味が分からないような……。
「愛の女神は女の子は守らないの?」
「ジェニファーもヴァネッサも……守ってもらう必要ないくらい強い、色々」
色々に本当に凄い色んな意味が込められてそうだけど……確かにジェニファーはナンパなんて一切気に留めないでずっとマルコスを支えてるし、妙に説得力があるな。
「そっか~、じゃあさじゃあさ! 僕も守られる必要が無い位強い男って事?」
「それは……多分違う」
「そっかぁ……」




