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閑話 栄転?

「イムラン? こんな時間に珍しいな」

「マルク……ちっと、顔を貸してくれねぇか?」


 冒険者ギルドの営業が開始した直後に来る冒険者達は両極端だ。


 前日の受付終了に間に合わず、依頼の完了報告を待ちきれないか……早急にギルドに報告しなければならない問題を抱えているか。


 らしくない緊張を纏った旧友を見て、彼が後者ではない事を祈る。


「何かあったのか? まだ始業して間もないから時間は取れるぞ」

「あったっちゃあったであってるのか?? とにかく、相談してぇ事があって――」

「分かった。会議室に移動しよう」


 普段からは考えられない位要領を得ないイムランの返答を聞いて、心配よりも安心が勝る。


 何か大きな問題が発生していたら、イムランなら素早く正確に報告する事を最優先するはずだ。今回の訪問は、個人的な悩みか何かだろう。


 気が楽になったのも影響してか軽い足取りでギルドの階段を上り、何回足を踏み入れたのかとうに忘れた二階の会議室の扉を開け入室する。


「適当に座ってくれ、茶でも淹れるか?」

「いつも言うけどよ、俺みたいな大男に紅茶は似合わねぇよ」

「どうせ私の分を淹れるから二人分作るのも同じ手間だぞ?」

「……じゃあ、俺も……」


 紅茶が好きな癖に本当に素直じゃないな。このやり取りも何回したのかもう覚えていない。


 淹れたての紅茶の香りを堪能してから、満足そうに一口目を味わった友人を少し呆れ気味に観察していると、急に何かを思い出したかのようにイムランが懐から一通の手紙を取り出した。


「それは?」

「デミトリからの手紙だ」


 デミトリ……! 久しぶりにその名を聞いたとは言えない位色んな噂が耳に入って来るが、元気にしているだろうか?


「宛先が私になっているが、何故イムランが持っているんだ?」

「その手紙と一緒に俺宛てにも手紙が届いた。そこに、俺が手紙を渡しても良いって判断したら渡してくれって書かれてた」

「随分と回りくどいな……??」

「俺の手紙と似た内容が書かれてるなら、多分読めば理由が分かる」


 テーブルの上に置いた手紙を、すっと私の方に寄せてからイムランが腕を組んでしまった。自分の口から説明するよりも私が手紙を読んだ方が早いと言う事か。


「確認するぞ?」


――――――――


「根回しと言うか、気遣いの仕方が貴族みたいだな……」

「最初の感想がそれかよ?」


 城塞都市ボルデで起こっている問題については私も把握していたが、まさかデミトリがその解決に乗り出しているとは思わなかった。


「まずはイムランに打診して、お前が納得する内容なら私に手紙を渡してもらい、職員の私が問題ないと太鼓判を押したら今度はメリシアのギルドマスターのジゼラに連絡するつもりなんだろう?」

「みてぇだな……」


 そこまで気が回る新人冒険者は普通いない。


 この短期間で金級に達している事もそうだが、話題に欠かないデミトリがここまで几帳面だと彼の噂で盛り上がっている冒険者達が聞いたらどう思うだろう。


「全く、そこまでする必要はないのに……個人間でのやり取りに留めて、双方の合意が無い引き抜きのような形にならないよう良く気を付けている」

「デミトリがすげぇ気を遣ってくれてるのは俺も分かってるつもりだ、だけど気にする所はそこじゃねぇだろ??」

「引っ掛かってるのは『滅死の魔術士を育てた冒険者』としてボルデに召集したい所か? 事実じゃないか」

「あのな……! 俺が教えてやったのは冒険者としての基礎の基礎で、育てたなんて口が裂けても言えねぇよ」

「そこについてはデミトリも補足していただろう」


 信頼を失った冒険者ギルド側の責任とは言え、住民達の信頼を得るために聞こえの良い誇張をせざるを得ない事について、デミトリ自身もかなり気に病んでいるみたいだった。


 そのせいでアイアン・フィストが不利益を被らないように細心の注意を払うとも書かれていたし、後は当人の判断次第だ。


「それに、手紙を読んでそう言う形で求められるなら力になりたいと思ったんだろう?」

「……確かにデミトリが俺を呼びてぇ理由も、筋の通し方も理解できたからマルクに手紙を渡した。でも俺が相談してぇのは――」

「他に適任はいないぞ?」


 イムラン率いるアイアン・フィストは腕っぷしだけでなく後進の育成に精力的で、その仕事ぶりと人柄の評価もギルド内外で高い。本人達がその気なら銀級で燻らず、とうの昔に金級に昇級出来ていたはずだ。


 実力に加えて、今回肝となるデミトリ……正確には『滅死の魔術士』との関係性がある冒険者なんて、イムラン達位しか私も思い浮かばない。


「……けどよ、こんな大役を俺らが任されて本当に大丈夫なのか……?」

「仲間には相談したのか?」

「あたりめぇだろ!」

「それで? オスカー達はなんて言っていたんだ?」

「……俺の判断に任せるって……」


 デミトリも可能な限り補助すると手紙に書いていた。引き受けて結果さえ残してしまえば、今までの実績と合わせて金級に推薦出来る明らかな栄転だ。


 そこまで悩む必要は無いと思うが……イムランの性格的に仕方が無いか。大柄な風貌に見合わず慎重派の友人に発破をかけるとしよう。


「よし! それじゃあ決まりだな、俺は後でジゼラに話を通しておく」

「えっ!?」

「前々から言っているがお前はもっと活躍出来る。それに、デミトリの誘いを辞退する事も辞さない姿勢だったのに、わざわざ手紙を私に見せに来たのは困っているデミトリを助けたいからだろう?」

「そりゃ、そうに決まってるだろ」

「それならアイアン・フィスト以外に適任が居ない以上、イムランが何とかするしかない。どんなに悩んでも答えは変わらないぞ」

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