第504話 冒険者ギルド信頼回復作戦
あの時はアルフォンソ殿下の指示で演技をしていたとは言え、アルケイド公爵邸で初めて出会った時を彷彿とさせる若干固めの口調はリカルドが個人としてではなく、宰相令息として俺の発言を見定めるつもりだからかもしれない。
一旦呼吸を整えて、考えていた事を頭の中で整理してから話し出す。
「本人達の了承はまだ得ていないが、アムール王国に滞在している冒険者パーティー、トワイライト・ダスクをボルデに招きたいと考えている」
「トワイライト・ダスク? アムール王国のお知り合いですか?」
「いや、彼等はヴィーダ王国出身だ。移動していなければアムール王国の王都にまだいるはずだ」
静かに俺の発言を聞くリカルドが新たに質問をする様子を見せない為、そのまま説明を続ける。
「俺達がアムール王国を発った時点で初冬だったが今は立冬だ。安全に彼等がヴィラロボス辺境伯領に移動出来る手段を確保できるかが一番の懸念点だ。下手すると年明けまでこちらに到着しない事態になりかねないから出来れば早めに招集したい」
「……移動手段については王家の影が預かっているスレイプニルのそりの使用許可を得られれば解決します」
ここまであまり感触が良くなく、重い口を開いたリカルドが何を言い出すのか若干冷や冷やしたが……あのそりの話題が出て来るとは驚いた。
「あれは王家の所有物だろう? 言い方は悪いが、一介の冒険者達を回収するために利用する許可が降りるとは思えないが」
「そこはデミトリさんの案次第ですね。まだ自覚が薄いようですが、ルフォンソ殿下の賓客である貴方の提案が、私に任されている国境付近の安定に繋がるのであれば、ある程度融通は利くと思います」
案の内容次第、か……。
「なので、もう少し詳しくご説明して頂く必要があります。何故彼等が必要なんですか?」
「トワイライト・ダスクとは、俺がメリシアで冒険者になった時に出会った。その後、アムールの王都に向かう途中偶然再会して一緒に旅もした仲だ」
「一緒に旅を……?」
「俺の知り合い程度なら住民達も外部の冒険者を受け入れ辛いかもしれないが、『滅死の魔術士と共に冒険』した事があって『ヴィラロボス辺境伯令嬢の命の恩人』なら、文句を言う住民もいないだろう?」
「ナタリアの命の恩人と言うのは??」
「!?」
驚いた……! 一気に感情が爆発したリカルドに肩を掴まれ、その気迫に圧されて魔力が乱れかける。
「お、落ち着いてくれ、言葉の綾だ! 旅の道中魔物や魔獣との戦闘も確かにあったがナタリア様に危険が及んだことは無かった!」
「ほんとうですか……?」
「ナタリア様を含めた女性陣が寝ている間、俺とアルセ殿と一緒にトワイライト・ダスクの面々も夜番をしていただけ! だが、嘘ではないだろう?」
やっと落ち着きを取り戻したリカルドが、バツが悪そうな表情を浮かべながら俺の肩を掴んでいた手の力を緩めた。
「早とちりしてしまいすみません……それにしても、確かに嘘ではないですけど事実を歪曲し過ぎな気も……」
「『幽氷の悪鬼』や『滅死の魔術士』と言う二つ名が勝手に独り歩きしてしまったせいで事実無根の事を吹聴された事もある。事実に基づいている分これ位許されるだろう」
姿絵しかり、散々二つ名には困らされて来たんだ……今まで迷惑を被った分存分に有効活用させて貰う。
「それに、これ位の情報操作は貴族からしてみれば日常茶飯事だろう?」
「あまり我々の考えに毒されて欲しくはないんですけど……仰る通りですね。それだけの理由付けがあれば如何様にも出来そうですけど、トワイライト・ダスクを招いた後はどうするおつもりですか?」
「一番重要なのは、早急にボルデの住民が持っている外部の冒険者に対する不信を払拭する事だ。褒められた方法ではないのは理解しているが、今は俺の異名に付随している信用を利用してでも、外部の冒険者がボルデで活躍して住民に認められたという実績を作るべきだ」
異名を利用するのは諸刃の剣だがな……逆に俺との関係性を明示されたトワイライト・ダスクのマルコス達が、理不尽な期待を持たれたり住民達の関心を不用意に集めてしまう事にもなる。
それも可能性として明らかにした上で、協力して貰えないか交渉する必要があるが……。
彼等はセイジの件で経歴に理不尽な傷を付けられた為、今回俺達に協力して貰う代わりにその件を清算して欲しいと、冒険者ギルド側に掛け合おうと考えている。
そうすれば、何のうまみも無く一方的にトワイライト・ダスクに負担を掛けるような事にはならないはずだ。
「デミトリさんの狙いは何となく見えてきました。けど、そのやり方だと冒険者ギルドへの不信は残り『滅死の魔術士が認めた冒険者』だから信頼できると片付けられてしまいませんか?」
「『滅死の魔術士が認めた冒険者』だから信頼できると住民が思ってくれたらこちらの物だ。そうなってしまえば、他の冒険者も『滅死の魔術士に認められた』体でボルデに呼べるし、彼等の活躍次第だが時間が経てば冒険者に対する信頼も回復していくだろう」
「……全てがデミトリさんの前提通り上手く言ったとして、『滅死の魔術士』に認められてるはずの冒険者が粗相をしたらどうするおつもりですか?」
結局そこが一番の問題点なのは早々にリカルドに見破られてしまったな。誰彼構わず俺の名を使ってボルデに呼んでしまったらいずれ問題は起こるだろう。
大体人選に注意していたとしても、不慮の事故や冒険者のせいではない依頼の失敗だって普通にあり得る。
「その時はその時としか言いようがないが、一応考えはある。大前提として俺がボルデに滞在している間は冒険者達と住民の間で何か摩擦が生じたら矢面に立つ覚悟はしている」
「……デミトリさんの負担が恐ろしい事になりませんか?」
「う、上手くいけば負担はないから大丈夫だ……」
上手くいかなかったらの事はあまり考えてく無いな……。
「それに、問題の発生を最小限に抑える策も考えている」
「と言われますと?」
「ボルデに招く冒険者の人選は、『滅死の魔術士を育てた』先輩冒険者に協力を仰ごうと思っている」




