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第499話 若鳥と疑念

「シエル」

「! ピー……」


 ナタリアの部屋に招き入れられ、彼女の肩に乗ったシエルの名前を呼んでみたのだが反応が微妙だ。俺に気付いた途端、シエルは羽をきゅっと畳みながらナタリアのうなじの方へと頭を隠してしまった……。


 ずっと傍を離れてしてしまった事を怒っているのかもしれない。


「お久しぶりですデミトリさん」

「ナタリア様……本当に久し振りだな。元気そうで良かった」


 ぎこちない俺の返事を聞きながらナタリアが苦笑いする。


 よくよく考えてみればナタリアとはヒエロ山で別れてから会っていないので、シエル以上に久々の再会になる。


 シエルの事で頭が一杯で、開口一番彼女を無視するような形でシエルに呼びかけてしまった事を恥じながら頬を掻きながら、訪れた微妙な沈黙に耐えていると不意に背中を押された。


「ヴァネッサ……?」

「気にし過ぎたらだめだよ。シエルも恥ずかしがってるだけだから」


 物理的にも、精神的にもヴァネッサに背中を押されながら部屋の奥へと踏み入る。


「ヴァネッサの言う通りです。ほら、シエルさん――」


 平静を保っていたつもりだが、シエルに拒絶された動揺はナタリアにもヴァネッサにも隠しきれなかったらしい。


 優しい声色でそう言ったナタリアが俺から顔を隠してしまったシエルを肩から両手に移して、俺の目前までシエルを移動させた。


 隠れ場所が無くなってしまい、潤んだ瞳で俺を見上げるシエルを見て思わず言葉が溢れる。


「こんなに大きくなって……」


 シエルは体長が三十センチ前後まで伸び、成体のコルボに比べればまだ小さいが雛とはもう呼べない、記憶よりも逞しい若鳥へと成長していた。


「傍に居てやれなくてごめんな……」


 謝罪の言葉を呟きながら、ふと嫌な考えが頭をよぎる。


 アイリスは俺の傍を離れてセレーナと過ごした短期間で彼女と仲良くなれた。そしてシエルは俺と離れている間の方が顕著に体が成長した。


 以前、シエルの発育の速度について心配した事があったが……もしかすると俺の傍に居るせいで――。


「……!! ピ!」


 加速する不穏な思考を掻き消すように鳴いたシエルがナタリアの手から飛び立ち、俺の肩の上に停った。


 記憶よりも重みが増した肩の感覚に少し戸惑いながらシエルの方に手を伸ばすと、撫でてあげられるよりも早くシエルが全身を俺の手に預けて甘えて来た。


「飛び方も凄く上手になった……頑張ったんだな」

「ピー!」

「ナタリア、シエルを預かっていてくれてありがとう」

「そんなに畏まって感謝されると困りますわ。シエルさんも仲間だから、私としては特別な事をしたつもりはありません」


 シエルを片手で撫で続けながらナタリアに一礼すると、安心しきった様子で傍に立っていたヴァネッサが話始めた。


「シエル、デミトリと会えてよかったね」

「ピ!」

「ナタリア様だけでなく、ずっと見守ってくれていたヴァネッサとセレーナにも感謝しないといけないな」

「仲間だから当然だよ! 私達に感謝する位ならシエルとの時間を作ってあげて」

「ピ?」


 首を回転させながらシエルと無理やり目を合わせると、期待に満ちた表情でこちらを見返すシエルの姿が移った。


「そうだな。前回はとんだ邪魔が入ってしまったから……また一緒に市場に行こう」

「ピ!」

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