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閑話 王家の影の年長者

「ニルさん大袈裟です! それに任務が――」

「大袈裟じゃない! 全く……今の状態のまま無理をしていたら本当に危なかったぞ? 今日は一日部屋で休むんだ」


 まだ外は明るいのに……ニルさんに担がれて、自室の寝台に置かれて無理やり毛布に包まれる。


「でも――」

「アイリスとの約束を破った罰を与えると言っただろう? 責任感の強いお前ならこれが一番堪えるのは分かっている。反省するつもりがあるなら甘んじて罰を受け入れるんだ」

「……はい」


 自覚は無かったけどそんなに酷い状態だったのかな? 確かに魔力枯渇症の予兆は出てたけど、無理をすれば何とかなると思ってた。


「デミトリに触発されてお前だけじゃなくリーゼも夜な夜な魔法を練習しているのは気付いていたが……一体何を練習してそんな状態になったんだ?」

「えっと、魔力の待機状態の維持です。どんなに頑張っても僕には四分程度が限界で……」


―――――――― 


「それはデミトリの発案か?」

「はい」

「なるほどな。悩ましいな……」


 カミールも何か考えがあって挑戦しているみたいだし、なるべく気持ちを尊重してあげたいが……。


「……デミトリが出来て当たり前だと考えている事を参考にするのは良いが、彼と同等の事をすぐにしようとして自分を追い詰めるのは駄目だ」

「やっぱり、高等な技術なんですか?」


 カミールも薄々気づいていたのか……下手に誤魔化すよりも、ちゃんと説明してあげた方が良さそうだな。


「魔法を発動したまま一定の時間維持するのは、宮廷魔術士になるための試験で試される魔法技術だ」

「え!?」

「宮廷魔術士基準で十分魔法を維持出来てやっと半人前らしい」


 驚愕したまま口を開き固まってしまったカミールが、少し時間を置いてから首だけ動かして部屋の窓に視線を移した。


「デミトリさんは練習する僕に付き合いながら、楽々と水球を一時間以上維持してましたよ? それに……以前反射の異能の対策についてお話を聞いた時、寝ながら魔法を維持してたって……」


 どうしても比較してしまうか……。


「……それだけじゃない。気付いていないかもしれないが周囲の警戒と索敵の為に、デミトリは見えない程微細な霧の魔法を常時展開している」

「え!? そんなに複雑な魔力の操作と維持を、水球を展開しながら同時にしてたんですか……!?」

「これで分かっただろう? 宮廷魔術士でも複数の魔法を待機状態で維持するのは難しいんだ。デミトリを参考にしながら練習をしていたら体を壊すぞ?」

「やっぱり僕は……才能が無いなら諦めた方が良いんでしょうか……」


 カミールの消極的な性格と良くない形で今は噛み合ってしまっているが、同年代のデミトリと関りを持って本当に良い意味でも悪い意味でも刺激を受けているな。


「あのなカミール、そんな事は言ってないだろう! 大体私も昔宮廷魔術士の試験内容について知った時、魔法の維持を試してみたが二分が限界だったぞ?」

「え、ニルさんが……??」

「そうだ。無茶をしたのは褒められた事じゃないが、一夜漬けで私の倍の結果を出したカミールに才能が無い訳が無いだろう」


 お世辞のつもりは一切ないのにカミールの瞳が不安に揺れているのが分かる。本当に、この自信の無さだけは何年経ってもなかなか克服できないな……。


「それに考えてもみろ。出来るはずがない事を教えるなんてデミトリがすると思うか?」

「……性格的に、絶対にやらなそうですね」

「だろう?」


 漸く納得してくれたのか、強張っていたカミールの身体から緊張が解けた。


「同じ道を通った先達からの助言だ。ゆっくりと時間をかけて、少量の魔力を完璧に制御する事を目標としているのに、気が逸って無理をする事自体がやろうとしている事と真逆の行為だろう? 焦らずゆっくりが答えだ」

「焦らずゆっくり……」

「それが難しいのは百も承知だがな……こればっかりは仕方がない」


 若さ故の焦り……危うくもあり、どこか羨ましくもあるな。自分の限界を見極めようなんて思ったのは最後がいつだったのかもう思い出せない。


 いつの間にか王家の影の中でも年長者になり、今の私の役目はこの子達が道を踏み外さないように見守る事だからな……。


「ニルさん、僕頑張ります!」

「前向きになってくれたのは嬉しいが、頑張る前にまずはちゃんと体を休めるんだ。部屋で待機しているからと魔法の練習をしたら今度こそお仕置きだからな?」

「は、はい!!!!」

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