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第495話 約束は守ろう

「おはようございます……」

「!? 大丈夫か……??」


 昨晩別れた時と比べて、カミールの姿がかなりやつれていないか?? 心なしか唇の色もおかしいような……。


「全然……! この通り、元気です……」

「かみーる、かおがへん」

「アイリスさん……そういう時は、顔色が悪いって言ってくれないと傷付きます……」


 平静を装ってカミールが必死に抑えている体の震えと、近寄って見て確信したが青み掛かった唇は魔力枯渇症の予兆にしか見えない。まさか……。


「……あの後一人で魔法の維持を練習したのか?」

「……! それは……」


 図星を突かれたカミールが、申し訳なさそうに俺から視線を逸らした。


「だいじょうぶ?」

「アイリスさん、心配をかけてすみません……ちょっと休めば治ると思います」

「要するに大丈夫じゃないんだな……焦らなくても良いと言っただろう」

「後もう少しで、何かが掴めそうで――」

「だったら猶更ちゃんと休むべきだろう! 取り敢えず魔力を回復させるのが最優先だな……今日は練習をしたら駄目だ」

「! すみません……でも――」

「本当に駄目だぞ? 最悪命に係る」


 一人で自習する程魔法の維持の取得に熱心になっていた事だけでも驚きだが、練習禁止に対してここまで食い下がってくるのは更に予想外だ。何故そこまでして――。


「いっしょにれんしゅうできないの? やくそくしたのに……?」

「アイリスさん……!」

「うそつき……」


 約束……? もしかして昨日俺がルークに呼ばれて二人きりになった時、明日も一緒に練習しようと約束し合ったのか?


 そうなると……対応に困るな。止むに止まれぬ事情があって約束を破るならまだしも、カミールの場合は完全な自業自得だ。


 変に彼の肩を持ってしまうと約束を重んじる性格のアイリスは悲しむだろう。とは言え、このまま成り行きに任せてしまったらせっかく仲良くなってきた二人の関係が拗れかねないな……。


「……カミール、これを飲め」

「えっ、なんですかそれ……え!? 駄目ですよ――」

「良いから飲んでくれ」


 押し付けるように収納鞄から取り出した瓶をカミールに渡すと、瓶を落とさないようにがっちりと両手で掴んだまま彼の顔色が更に悪くなっていく。


「ちょ、デミトリさん……! これ一本で幾らすると思ってるんですか!?」

「高級ポーションよりも希少で値が張るとしか聞いていないが、数百万ゼルはくだらないだろうな」

「最低でも一千万ゼルはします!! 魔力ポーションは本当に貴重なんです、ちょっと魔力枯渇気味の僕が回復するために気軽に飲んで良い物じゃありません!」


 一千万……!? アルフォンソ殿下に緊急事態用に渡されてからずっと収納鞄の肥やしになっていたため全く意識していなかったが、そんなに高価なものだったのか??


 数百万ゼルなら冒険者ギルドの口座に貯金している額に加えて、依頼を頑張ればなんとか補充できるだろうと踏んでいたが……。


「ちょっと……デミトリさん、まさか値段を知らないで渡そうとしてたんですか!?」

「一、一千万ならなんとかなる――」

「最低一千万です! 流通価格は供給が間に合ってないので大体五から八割増しです!!」

「細かい事は良い! 飲まないとアイリスとの約束を守れないなら仕方が――」

「ないはずないだろう! 全く」

「「ニル」さん!?」


 どこからともなく現れたニルがカミールの手から魔力ポーションの瓶を奪い、こちらに投げ渡して来たので慌てて受け止める。


「アイリス、カミールを許してやってくれないか?」

「でも、やくそくしたのに……」

「それは確かにカミールが悪い。だが、アイリスとの約束を守るために今カミールとデミトリは怪我をしようとしてる」

「えっ……!?」


 怪我か……確かにカミールは主に精神的に、そしておれは懐事情に怪我をしようとしていたが上手くアイリスにとって分かりやすい表現に纏めたな。


「アイリスは二人が怪我をしてでも、アイリスとの約束を守って欲しいか?」

「ふたりがけがするのはいやだよ!」

「そうか。デミトリはともかく、私はカミールは少し痛い目に遭っても良いと思うんだが」

「二、ニルさん!?」

「お前の場合は完全に自業自得だろう」


 どこから会話を聞いていたのか分からないが、ニルは大体の事情を把握しているみたいだな。


「かみーるもけがしたらやだよ??」

「アイリスはやさしい子だな。それじゃあ後は私に任せてくれないか?」

「にるに??」

「ああ。アイリスがカミールを思って許してあげたとは言え、約束を破った事には変わりないだろう?」

「うん」

「信頼を裏切ったからには相応のお仕置きが必要だ」

「ひっ……!」


 ニルの凄味に圧されてガチガチに固まったカミールを、難なく片腕で担いだニルがこちらに背を向けた。


「デミトリ、カミールを預かって行くぞ?」

「え、あ、あぁ……」

「デミトリさん……! たすけ――」


 凄い身体強化の練度だな……目で追うのがやっとの速度で走り去っていったニルの姿が、ヴィラロボス辺境伯邸の裏庭に消えていく。


「……」

「やっぱり、やくそくはやぶったらだめだね!」

「そ、そうだな……」

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― 新着の感想 ―
教育的指導………取り敢えず平和なひと時。
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