閑話 有名人に間諜は難しい
話し合いが終わってそりの方に戻るデミトリを見送っていると、背後から誰かが近寄って来た。
「ご苦労だった」
「ニルさん……本当にあんな説明で良かったんですか?」
「過剰に警戒されたら困るが、敵対勢力の人間かもしれないと意識して貰えただけ良しとするべきだ。これで不測の事態に陥ってもデミトリなら対処できるだろう」
ニルさんの言う通りデミトリの実力ならこれで不意打ちを受ける事は無いと思う……だけどあの魔法はかなりヤバかった。
デミトリにとって一番安全なのはミラベルと一切関わらない事なんだけどな……。
「そんな渋い顔をするな。デミトリに伝えた内容は私の指示だし、デミトリもある程度我々の思惑を汲んでくれているはずだ」
ミラベルの事を警戒しつつ普段通り接してくれなんて矛盾したお願いをされたんだ。
伝えた時一瞬首を傾げてたしデミトリはニルさんの言う通り、自分がミラベルの情報を引き出すために敢えて泳がされてるのに気付いてる。
嫌な顔の一つもせずに即了承してくれたのは、俺達を信じてくれてるからだと思うと心苦しいな……。
「……同じ王家の影ですし、遠回しにじゃなくてちゃんと説明した方が良くないですか?」
「はぁ……私も出来ればそうしたい。デミトリとヴァネッサはかなり特殊な立場だからな……今は王家の影に籍だけ置いて、アルフォンソ殿下から直接指示を受けた時だけ王家の影として動いているだろう? あまり我々の業務に巻き込むとその線引きが曖昧になる……」
折を見てデミトリの事を俺達に紹介するってニルさんが言ってたけど、中々実現しないのはデミトリが色々と面倒事に巻き込まれて時間が取れない事だけが理由じゃないのかもしれないな。
それにアルフォンソ殿下やニルさんがどう考えてるのかは分からないけど、二つ名を二つ得て姿絵まで出回っちゃった時点でデミトリは隠密活動は出来ないに等しい。
他の系統の任務を引き受けるにしても、俺達とあまり連携しない表の活動になる可能性が高いからどこまで王家の影の面々とデミトリを繋げるのか慎重になっててもおかしくない。
「ちなみに、あれ以降ミラベルの足取りは掴めてないのか?」
「はい」
「分かった。警戒だけ続けて、発見しても尾行はせずに退却するように徹底してくれ」
「……ニルさんはミラベルについてどう思ってるんですか?」
「ルークが敵わないと判断した時点で王都に緊急で連絡する位には警戒している」
俺の実力何てたかが知れてるし大袈裟だな……。
「俺の事を買いかぶり過ぎだと思いますけど」
「馬鹿言うな。王家の影の中でも武闘派のお前が、拘束する事すら断念する時点で相当な実力者だろう? どこに所属しているのかは分からないが、デミトリと友好関係を結んでいる事だけが救いだな……それも演技かもしれないが」
少なくとも俺が見た限り演技には見えなかったけど……無暗に信用は出来ないか。本当に、デミトリは厄介な人物と知り合ったな……。
「デミトリは本当にお祓いを受けるべきだと思いますよ?」
「……それで解決すれば楽だろうが……」
「まぁ、ヴァネッサとセレーナだけでも両手に花なのに、アイリスも保護して謎の美女のミラベルと繋がりを持ててるのを見ると、変な奴に絡まれてる分得してるかもしれないですけど――」
「ルーク……!」
物凄い形相のニルさんに頭を掴まれたそのまま体が硬直する。
「絶対に本人の前でそれを言ったら駄目だからな??」
「ちょっ、ニルさん、冗談――」
「冗談でもだ!! お前だって真面目に情報収集をしてるだけなのに『女と遊べて良いご身分だな』と言われたら腹が立つだろう?」
「す、すみません。軽率でした……」
デミトリが全然女遊びをしてないのを分かった上で軽口を言ったつもりだったけど、確かにあれだけ苦労してる相手に軽々しく言ったらいけない言葉だった。
「お前が本気でそんな事を思ってないのは分かってる。問題は受け手がどう思うかだ……ルークはあまりデミトリと絡む機会が無かっただろう? もう少し関係性があればそう言った軽口を叩いても良い……とは言わないが、とにかく距離感を見誤るな」
カミール達ともうまく付き合えてて、実際に話してみてほぼ初対面の俺の仕事の心配までしてくれたし、良い奴だと一方的に思ってるけどニルさんの言う通り、一方的に知ってるだけで気軽に冗談を言い合える仲じゃないのは事実だ。
余計な事を言わないように注意しよう。




