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第494話 知らない振り

「それは……ボルデではなく、別の街のギルドで依頼を請けてからボルデに来た可能性はないのか?」

「一応確認して貰ったが、そう言う訳でもなさそうだ」


 ルークは皆まで言わなかったが……俺についての情報共有の速さ然り、冒険者ギルドは公にされていない情報伝達の技術を持っている節がある。


 王家の影に所属しているルークからの依頼なら協力は惜しまないだろうし、ミラベルについての情報は確かな物だろう。


『……俺は依頼を請けてこの森に来てるんだが、もしかして同業者なのか?』

『そんなところ』


 初めてミラベルと出会った時の記憶をなんとか手繰り寄せるが、冷静になってみると彼女は一度も自分が冒険者だとは言わなかった。


 薬草学に詳しく、似たような依頼を請けているのだろうと勝手に思い込んで――。


「ルーク、後出しで本当に申し訳ないんだがミラベルは冒険者じゃないかもしれない」

「おっと? 急にどうしたんだ?」

「わざわざミラベルについて調べたという事は、彼女が調査に値する何かの条件を満たしてたんだろう? 俺の勘違いで誤情報を掴んだルークに迷惑を掛けたくない」


 対面に座るルークが表情を緩め、ぽかんとした後急に笑い出した。


「……どうしたんだ?」

「くく、そんなに深刻そうにされるとは思わなくてびっくりしただけだ。出会ったばかりなら情報の精度が低くても仕方がないから、そこまで気にする必要はないぞ?」

「だが……」

「落ち着いて、分かる範囲で良いから知ってる情報を教えてくれ」


 また誤った情報を伝えてしまわないように、一度思い出せる全ての情報を頭の中で整理してから改めて話始める。


「ミラベルと出会った時、ルークも知っていると思うが俺は別の冒険者達に絡まれた直後だった。それを言い訳にするべきではないが、武器を手に取ってかなり警戒していた」

「話が脱線しそうだからあまり深くつっこむつもりはないけど、時間を作って一回お祓いに行った方がいいぞ?」

「そう言われたのも初めてではないな……とにかく、出会い方は主に俺の気が立っていたせいで険悪だった。襲われたりちょっかいを掛けるつもりが無いと判明した後、俺の方から自分が冒険者だと開示してミラベルにも同業者か確認したが、彼女からは曖昧な返事しか貰っていない」


 あの時は俺の対応が良くなかった上に森の中で二人きりだった事もあり、ミラベルがはっきりとした答え方をしないのもまだ俺に対する警戒を解いていないからだと勝手に納得していたな。


「あの時期にあの森に居る人間は冒険者か賊位だろうし、その後のやり取りで賊じゃないって思ったなら冒険者だと勘違いするのも納得できるな」

「ルークの言う通りだ。薬草採取の依頼で困っている俺を見兼ねて採取方法を教えてくれたり、薬草学の基礎を学んでいないと採取依頼が難しい事など教えて貰った過程で勝手に彼女も冒険者だからだと思ってしまった」


 思えば冒険者ではなくても、依頼を発注する側の薬師や薬師ギルドの職員でも把握している情報だ。


 いつもならミラベルが冒険者だと勝手に断定するような事は無いと思うが……あの時は慣れない採取依頼で想像以上に一杯一杯だったのかもしれない。


「ちなみにミラベルが森に居た目的は……?」

「一応聞いてみたが探し物をしているとしか……それ以上話すつもりはなさそうだったので、追及はしなかった」

「なるほどな……」


 ミラベルの職業について訂正は出来たものの、ルークが求めていそうな情報が一切無く申し訳なさが募る。


「色々と教えてくれて助かった。今度は俺の番だな! 俺がミラベルを警戒してる理由は、魔力量を考慮すると下手したら街の一画が吹き飛ぶ規模の魔法を発動しかけたからだ」

「な……!?」


 ミラベルはあの冒険者に絡まれた時、市場でもかなり重苦しい魔力の揺らぎを発していた。彼女ならルークが警戒する規模の魔力の揺らぎを放てるのは事実かも知れないが……理由も無くそんな事をするだろうか?


「ルーク。付き合いは浅いが、ミラベルは理由も無くそんな事をする性格では――」

「あー、状況を説明するとデミトリにちょっかいを掛けてた冒険者に襲われそうになったのが原因だ」


 またあいつか……そもそも俺を探していたみたいだし――。


「それは、俺のせいでもあるんじゃ……」

「馬鹿な事を言うな! 非があるとしたらあの失礼な冒険者だけだ。ちなみにあの場は俺が仲裁して事なきを得たから心配するな……ミラベルも俺が名乗った後デミトリの仲間だと言ったら、『デミトリの仲間なら安心』って言って矛を収めてくれた」


 『デミトリの仲間なら安心』か……そう評してルークに協力してくれたのであれば、感情に釣られて魔力が暴走しかけていただけの可能性もあるな。


「纏めると異常な魔力量の不明人物だからミラベルは警戒対象になってる。デミトリに話を聞きたいってお願いしたのも、情報収集のためだ」

「そうか……何か、俺が協力できることは――」

「少し難しい事をお願いしたい。もしまたミラベルと出会ったら普通に接してくれないか?」

「普通に??」


 そこまで警戒するのであれば、てっきり俺にも情報を集めて欲しいと願われると思った。


「極端な話をするぞ? 最悪の場合ミラベルは希代の大悪人かもしれない。けど、逆にどこそこの貴族様のお抱え魔術士が身元を伏せて、ボルデの森で薬草を探しに来ただけかもしれないだろ? 後者の場合変な対応をしたらそれこそ面倒だからな」


 色々と知った上で普通に接するのか……少し難しそうだな。

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