表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
541/598

第493話 存在しない冒険者

「カミール、すまないがアイリスの事をお願いできるか?」

「あ、はい! 任せてください」

「……どこかにいっちゃうの?」


 一応ルークの方を確認すると静かに頷いている。


「昨日と同じですぐに戻る」

「アイリスさん、待ってる間もう少しだけ練習しましょう!」

「……分かった!」

「二人共、無理だけはしないようにな」


 アイリス達と別れてルークの後を追うと、丁度訓練所と厩舎の間に位置する小さな小屋に辿り着いた。鍵がかかっていない扉をルークが開けて、そのまま薄暗い小屋の中に案内される。


「ここは?」

「元々ヴィラロボス辺境伯邸の専属庭師用に建てられた小屋だ」

「勝手に入ってもいいのか?」

「幽炎騒ぎが起きた時、逃げ出したのは冒険者達だけじゃなかったって言えば伝わるか?」


 命が惜しくなって逃げ出したのか……その庭師については何も分からないが、元々城塞都市ボルデの出身じゃなかったのかもしれないな。


「こんな広大な敷地を手入れせずに放置していたら問題になるんじゃないか?」

「今の所俺達が対応してるから問題ない。長期間お邪魔させてもらってるお返しみたいなもんだ」

「慣れない作業で大変だろう」

「そうでもないぞ? 仕事柄庭師を偽る機会もあるから、デミトリが思ってる以上に経験豊富な人材が揃ってる」


 話しながら小屋の奥で何やら作業をしていたルークの動きが止まったのと同時に、部屋の明かりが一斉に点いた。


 魔石を使う灯の魔道具まで完備した小屋……ヴィラロボス辺境伯邸では油を燃料にした灯火具や蝋燭で明るさを確保していたのに、やけに贅沢だな……?


 流石にエリック殿下が泊まっている客室は灯の魔道具が設置されていたが……厳しい財政状況下で切り詰められるところは切り詰める工夫をしていたのに何故――。


「急に黙り込んでどうしたんだ?」

「あー、いや、大した事じゃない」

「俺に答えられるか分からないけど、気になってる事があるなら溜め込まない方がいいぞ?」

「……少しだけ、小屋の内装と設備の質が高いと思っただけだ」


 明るくなった今なら良く見えるが、小屋の中の家具もセコーヤ製のもので揃えられていて決して安くはないだろう。


 別に使用人の小屋はみすぼらしくなければいけない等とは思っていない。だが、本人を前にして言ったら失礼に当たるので口が裂けても言えないが、先日であったケイレブ殿の礼装やバーバラ夫人のドレスは質の高い物だったが、装飾は比較的少なく二人共宝飾類は着けていなかった。


 二人がヴィラロボス辺境伯領の財政状況を理由に節制しているのに、言い方は悪いが部下が利用する施設に資金を投資している理由が分からない。


「そうか? 確かに家具の質も良いし作りもしっかりしてるけど、辺境伯の使用人の小屋ならこれ位があたりまえじゃないか?」

「そう、だな……」


 言われてみれば、爵位に見合った待遇を部下に提供できなければ後ろ指を指されたり悪評に繋がるかもしれない。そう言った見栄を張るための必要経費、か……本当に貴族は大変だな。


「すまない、関係ない話で時間を取らせてしまった」

「凄く急に自己完結するな! 疑問は晴れたのか?」

「ああ」

「それじゃあ座ろうか」


 小屋の中心に置かれたテーブルの席に、ルークと向かい合う形で着席する。

 

「それで、話というのは??」

「一週間ほど前、市場で冒険者にちょっかいを掛けられてただろ?」

「あー……」


 あの、メリシアでも会った冒険者の事か。


「すまない、すぐにその場から離れたから報告するまでも無いと思っていた。あの後何か問題が発生したのか?」

「問題と言うか……一から説明した方が良さそうだな。俺は基本的に情報収集を担当してる。あの日は偶然デミトリが居た市場近辺で仕事をしてて、偶然デミトリ達がちょっかいを掛けられるところから追われるまでの一部始終を見た」


 物凄く恥ずかしい所を見られてしまったな…‥。


「俺が今日デミトリを呼び止めた理由は……デミトリの知り合いについて聞きたい事があるからだ」

「申し訳ないが、あの冒険者については名前すら知らない。一応所属してるパーティー名なら――」

「ちょっかいを掛けて来た冒険者じゃなくて、一緒に居た女性の事だ」


 あの時はたまたま出会ったミラベルと行動を共にしていたが、彼女がどうかしたのか?


「彼女も冒険者だ」

「デミトリとの関係を教えてくれないか?」


 真剣な表情でそう問われ、俺もしっかりと答えるために背筋を伸ばす。


「正直に言うとそこまで親密な間柄ではないな。ボルデの冒険者ギルドで請けたクリク草採取の依頼中、ヒエロ山近辺の森の中で出会った。薬草学に詳しくない俺を見兼ねて、自分も依頼中なのにクリク草採取を手伝ってくれた」

「依頼中ね……本当に彼女とは出会ったばかりなのか?」

「ああ。あの冒険者にちょっかいを掛けられた日に偶然再会したから、二度しか会った事が無いな」

「そうだったのか……」


 依頼について何か引っ掛かってるみたいだが、一体……。


「……何かあったのか?」

「さっきデミトリはミラベルも依頼中って言っただろ? ……冒険者ギルドにも確認を取った結果、少なくとも過去数カ月間はミラベルって名前の冒険者に依頼を発注してる記録が無かった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まあ魔王様の部下だものね。 デミトリとは因縁の糸が繋がってそうだから、この先ちょくちょく出会いそうであるが
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ