第492話 僅かな進歩
魔法を二つ同時に発動出来る位精密な魔力の制御と操作が出来るカミールは、俺の想像通りすぐに魔法の維持のコツを掴んだ。
魔力枯渇証の症状も出ていない為、魔法の待機状態を保つ必要最低限の量の魔力だけを供給し続ける事に成功しているように見えるが――。
「カミール、無理をしていないか? 限界なら――」
「だ……大丈夫です!」
元気よく返事をしてくれたが、幾らコツを掴むのが早くても慣れない魔力の制御をいきなり長時間続けるのは辛いらしい。荒くなった呼吸と彼の額に溜まった汗が、空元気で隠そうとしたカミールの疲弊を物語っている。
「アイリスにも言ったがすぐに達成できなくても良いんだぞ?」
「ま、まだ! 余力があります……! それに、!!」
話し掛けたせいで集中が途切れたのか、カミールが掌の上に浮かべていた岩が落ち始めたが瞬時に魔力の制御を取り戻して元の位置に戻った。
「やはりカミールは魔力の制御が上手いな。この調子ならすぐに魔法の待機状態を維持するのに慣れそうだ」
「ありがとう、ございます……!」
――――――――
「丁度終わった所か?」
「ああ。二人共よく頑張ったぞ」
「「……」」
丁度日が暮れ始めた頃に再び現れたルークが、地面の上でへたり込んでしまったカミールとアイリスを交互に見る。
「そんなに厳しい特訓だったのか?」
「そう言う訳では……二人共落ち込みすぎだ。アイリスは自分の魔力の感覚を完璧に掴めて、少し動かすことに成功したんだろう? カミールも一時間近く魔法を維持出来たんだ。毎日コツコツ練習を続ければ絶対に出来るようになる」
「まいにちこつこつ……」
「確実に、進歩はありましたけど……」
不味いな……一応焦る必要は無いと伝えていたし、一朝一夕で新しい技術を習得する事は難しいと俺は割り切っていたが、二人とその認識をもっとしっかりと共有するべきだったかもしれない。
俺が何と言葉を掛けるべきか思案していると、ルークがカミールの横でしゃがみ軽くカミールの頭を叩いた。
「いたっ」
「何情けない顔をしてるんだ。そんなに辛気臭い顔をしてると運が逃げてくぞ?」
「ルーク……!」
「……だれ?」
「お嬢ちゃんと話すのは初めてだったな。デミトリとカミールの仲間のルークだ!」
「……わたし、アイリス」
「良い名前だな。よろしくな、アイリス!」
「うん」
ルークと直接話したのは今日が初めてだ。
アムール王国からヴィーダ王国に向かう旅路の途中、ちょくちょくカミールやリーゼと話している所を見ていたので顔と名前だけが一致していたが――。
「褒められてるのにしょぼくれてたらデミトリも教えがいが無いぞ?」
「でも……」
「どんなに小さな成功でも大成功、失敗は仕方ないって割り切った方が楽だ!」
「しっぱいはしかたない??」
「アイリスさん、ルークはいい加減な所があるから言ってる事を全部真に受けちゃダメです!」
場の空気を変えるのが上手いな……先程までどんよりとしていたカミールとアイリスが、いつの間にか調子を取り戻している。
二人の変化に満足したのか、ルークが立ち上がりこちらに歩み寄って来た。
「すまない、助かった」
「俺は何も……見透かされてるなら隠しても無駄か。気にしないでくれ、こう見えて先輩風を吹かすのは得意なんだ」
「ニルと言い、王家の影は面倒見の良い人間が多いな」
「流石にニルさんと比べられたら困る! まぁ、任務の都合でカミール達と比べてデミトリと絡む機会は少ないけど何かあったらいつでも頼ってくれ」
照れくさそうにそう言った直後、緩んでいたルークの表情が一気に引き締まる。
「早速で悪いんだが、昼頃約束した件について話す時間を貰えないか?」
「分かった、場所を移すか?」
「ああ……ついてきてくれ」




