表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
539/598

閑話 ゆっくりと丁寧に

「知っての通り俺は独学で魔法を学んだ上に、魔力が体外に出た瞬間水に変換されてしまう特異な体質だ。認識に齟齬が無いか確認するためにカミールが知っている魔法の発動手順を教えてくれないか?」


 デミトリさんに質問されて、王家の影に迎え入れられた後指導された魔法学の基礎を思い起こす。


「土属性を扱う僕の場合だと制御した魔力を体から放出してから魔力を土や岩に変換します。土で防壁を作る場合はこの一連の流れだけで魔法の発動とされますけど、土球や土槍みたいな攻撃魔法を使う場合は更に魔力を込めて射出する手順が加わります」

「なるほど……魔力で生成した物体を維持する事は一般的に魔法発動の手順に含まれていないのか?」

「維持……? 射出した魔法の軌道を変えるための魔力操作の事ですか?」

「ちょっとだけ違うな」


 ヴィラロボス辺境伯邸の中庭にある、警備兵達の訓練場に向けてデミトリさんが手をかざしながらこっちに振り向いた。


「例えば俺が今カミールに説明して貰った手順で水球を放つとこうなる」

「えっ」


 それなりに距離があったはずなのに、デミトリさんが放った水魔法に射貫かれた訓練用の的が勢いよく弾けて木片が辺りに散らばる。


「……加減したつもりだったが、後でケイレブ殿に謝らないとな……」

「く、訓練用の的だから大丈夫だと思いますよ」

「そう、か……気を取り直そう。もう一度魔法を発動するが今度は放たずに維持する」


 今度は魔法を放たずにデミトリさんが掌の上で水球を浮かべたまま止まる。


「維持ってそういう――すみません! 僕もうろ覚えで申し訳ないんですけど、一応それは魔法の待機状態って教わりました」

「うろ覚えと言う事は、魔法の発動に置いてあまり重要な過程じゃないのか?」

「そう、ですね……戦いにおいて、魔法はとにかく威力と速さと発生速度が重視されますから」


 僕がアイリスさんに教える予定だった事をデミトリさんから聞いて、魔法の操作速度の上げ方に食いついた理由でもある。少しだけでも良いから、魔法を速く出来れば……。


「そうか……理に適ってるな」

「微妙な間がありませんでした?」

「いや、素人の俺が口出しする内容じゃない」

「そう言われると物凄く気になりますよ」

「……目的に沿って魔法が洗練された結果、斬り捨てられた技術があるのかもしれないなと思っただけだ」


 まだ教えて貰ってないから決めつけは良くないけど、独学って言いながらデミトリさんがここまで魔法に造詣が深いのは異世界人だからなのかな?


 『斬り捨てられた技術』って言うのも、多分デミトリさんが今見せてくれてる魔法の待機状態の事だと思うけど――。


「ちょっと待ってください、おかしくないですか!?」

「何がだ?」

「なんでそんなに長く魔法の待機状態を維持できてるんですか??」


 会話中、あまりにも自然とデミトリさんが維持してたから思わず水球の方を二度見しちゃった。


「カミールも今日、街中でアイリスに土魔法を見せる時に魔法を維持していたじゃないか」

「あれはほんの数秒だけでした! 魔法の精度が落ちるから待機状態は必要最低限にって教えられ――」

「カミールも出来るはずだぞ?」

「へっ!?」


 急に何を――。


「攻撃魔法の軌道を変える操作だったり、土属性なら作り出した土壁を維持するために魔量を供給し続けるだろう?」

「はい?」

「そしてカミールの場合、魔法を同時に二つ発動させられる程魔法の習熟度が高い。ようは『待機状態』と思わず『発動中』の魔法と認識して維持に必要な魔力を供給すれば良いだけだ」


 言ってる事は理解できてるはずなのに頭が追いつかない。


「そんな事をしたら魔力を徒に消費しないですか? その後発動する魔法にも影響が……」

「それは訓練次第じゃないか? 個人的な経験談しか語れないが、時間をかけてゆっくりと少量の魔力を供給する程度で魔力が急激に減る様な事はない」

「時間をかけて、ゆっくりと少量の魔力を……」


 ずっと、魔法学を教わってから目指してきた『一瞬で大量の魔力を込める』事の正反対だ。そんなことをして、何の意味が……あ。


「もしかして……それが浮く足場の魔法の秘密ですか?」

「秘密と言われると少し大袈裟だが……そうだな。足場を維持しながら、ゆっくりと魔力の供給を途切れさせずに移動させているだけだ」

「でも、人を支えられる程の魔力量の供給なんて僕には……」

「出来ると思うぞ? むしろ俺よりも得意な可能性がある」


 デミトリさんのこの絶大な自信は一体どこから湧いて来てるんだ??


「それは一体何を根拠に……??」

「土や岩の方が水よりも重いだろう?」

「え……? は、い?」


 魔法学とは全然関係ない問いに一瞬思考が固まって、ぎこちないけどなんとか返答する。


「さっきカミールが例に出していた土魔法の中に土槍が入っていたが、使えるのか?」

「は、はい!」

「込める魔力の量にもよるが、土槍の質量は数十キロだろう? 魔法を放つまでの僅かな間だとしても、無意識に土槍を浮かせた状態を維持出来ているのであれば……例えば人を支えられる程度に頑丈な石の板に、意識して魔力を込めたら人を浮かせられそうだと思わないか?」


 デミトリさんらしいと言うか、言ってる事は全部筋が通ってるから今まで習ってきたことと違うのに否定もし辛い。


 どうしよう……全然できる気がしない、けど――。


「挑戦してみたいです!」


 出来て当たり前って思ってくれてるデミトリさんを信じてみよう……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ