第490話 魔力の感じ方
わざと魔力を解放して揺らぎを発生させた直後、青ざめながら心臓の位置を片手で守ったカミールに詰め寄られた。
「デミトリさん……! 心臓に悪いから魔力を解放する時はせめて先に言ってください……!!」
「すまない、アイリスが変に身構えるよりも素の状態で魔力を受けた方が良いと思ったんだ……それに、大分魔力は絞ってるだろう?」
「それで絞ってるって……とにかく、デミトリさんは勝手に魔力を解放するのは禁止です! アイリスさんも怖がりますよ?」
「こわくないよ?」
あっけらかんとした様子のアイリスの返答を聞いてカミールが頭を抱える。
「……アイリスさん、魔法が使いたいからってやせ我慢をしてませんか?」
「やせ……?? だって、でみとりだよ?」
信頼されているのは嬉しいが、『そう言う問題じゃない』と言わんばかりの反応を示しているカミールの手前素直に喜べないな……。
「アイリス、俺の魔力を感じ取れたか?」
「うん」
「魔力は基本的に交じり合わない。俺の魔力に晒されて、体の中の何かが抵抗しているだろう? それがアイリスの魔力だ」
「……? ……!! ちからをいれるときに、ぎゅっとするやつ!」
良かった。最悪の場合魔力の感知ができないかもしれないと危惧していたが、アイリスはしっかりと自分の中の魔力を認識出来たみたいだな
「それがアイリスの魔力だ。魔法を使えるようになるためには、まず体の中にある魔力を認識した上で完全に制御する必要がある」
「せいぎょ?」
「自由自在に魔力を動かす事だ。魔力を認識できたばかりだから、ひとまずは体に流れる魔力を認識し続ける所から徐々に自分の意志で動かそうとするのを繰り返すのが良いだろう」
初めての魔法を使うという目標に向かって前進しているのが余程嬉しかったのか、早速魔力の制御を試み始めたアイリスを静かにカミールと共に見守る。
俺の感覚とアイリスの感覚が同じとは限らないので敢えて助言をしなかったが……相当集中しているのか自然と目を閉じて、微動だにせず魔力制御を行おうとしていたアイリスの表情が徐々に曇って行く。
「……せいぎょができてないとまほうはつかえないの?」
「そうだな」
「ぜったいに?」
魔力を認識できても、急に制御しろと言われて出来てしまえばだれも魔法の習得に苦労しないだろうな。余程苦戦したのか、魔力を制御せずに魔法を使いたがるアイリスにカミールが優しく声を掛けた。
「アイリスさん。魔法はちゃんとした魔力の制御が出来ていないと危険ですよ?」
「んー……」
過去に魔力が暴走した経験から、魔力の制御を出来てからではないと魔法を使うべきじゃないと考えていたが、カミールの反応でその認識が独学ではなくちゃんと魔法学を学んだ人間も同じだと分かり少しだけ安心する。
「アイリス、魔力を制御できないまま魔法を使うと危ないんだ。俺が魔法を教えたせいでアイリスが傷付いたら悲しい」
「!! まりょくのそうさをちゃんとれんしゅうする!」
「ありがとう。素直でいい子だ」
「……デミトリさんって意外と女たらしだったんですね??」
「今のやり取りを見て何をどう勘違いしたらそうなるんだ……アイリスの保護者としておかしな行動は取っていないだろう」
おかしなことを言い始めたカミールに近寄り、アイリスに聞こえないように小声で話し掛ける。
「俺の事はさておき、魔力の制御方法についてコツを知っていたりしないか?」
「難しいですね……魔力をどう感じ取るのかは人それぞれですから、無暗に自分の感覚を他人に伝えると逆効果になる事が多いんです」
「そうだったのか……」
「魔法を学びたい場合、魔力の制御は既に会得している事が条件になっている事も少なくありません」
困ったな……俺の場合は前世の記憶がよみがえる前から体内を巡る魔力を血流に見立てて制御していた。
記憶を取り戻してからは前世で習った人体の仕組みについてもある程度思い出したが、今思えば無意識に前世の感覚に影響されていたのかもしれない。
「カミールはどんな感覚で魔力を制御しているんだ?」
「僕ですか? 説明し辛いですね……一番近い表現は熱かもしれません。デミトリさんは?」
「俺の場合は元々血で、呪いの影響で水魔法が使えるようになってからは水だな。液体という点では大差ないかもしれないが」
「魔法を習得してから感覚が変わったんですか!? 初めて聞きました」
「俺は例外中の例外だろう。アイリスの参考にはならなそうだ」
「そうですね……人によって全然違うのは本当に不思議ですよね。珍しい感覚で言うと、『自分にとっては魔力は音に近い何か』って言ってた同僚がいますね」
音か……本当に十人十色らしいな。火属性ではなく土属性の魔法を扱うカミールが魔力を熱として捉えている時点で、法則性も無いだろうな……。
アイリスに助言が出来そうにないのは歯がゆいが、彼女が自力で感覚を掴む事を祈るしかないだろう。




