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第487話 かちこち

「デミトリさん……!!」

「大丈夫、だ……」

「らふがってなに?」

「ぐっ……」


 ……勝手に裸の絵を売られるのは名誉棄損に値するんじゃないか?


「アイリスさん、また今度説明しますから! とにかくデミトリさんは僕と入れ替わって、早く先に進みましょう!」


 魔力が漏れ出てしまった影響か、先程まで次の一歩を踏み出す足場を探すのにも苦労した人混みが晴れたのを良い事にカミールが俺と立ち位置を交換して、そのままカミールに先導される形で強引に人の波を押し分けて進み始めた。


 魔力の揺らぎを発生させてしまうまでは賑やかだった市場に訪れた、急な静寂に居心地の悪さを感じる暇も無く足早に先へと進むカミールの歩幅に合わせて前へ前へと進んでいく。


 急な魔力の揺らぎを感じて呆けていた人々の隙間を縫いながら動いていたため、数秒もしない内に姿絵を売っている店に差し掛かり、顔を片手で隠しながら姿絵を売っている店を通り過ぎる。


「にてない……」


 俺は手を上げていただけでなく店から顔を背けていたので確認できなかったが、アイリスの呟きからして姿絵は俺に似ていないらしい。


 実際、城塞都市ボルデで出会った人間は限られているので俺の人相を知っている画家などいるはずもないので、似てなくて当然なのだが。


「合ってるのは髪の色位でしたね」

「はだかもちがったよ」

「!? デミトリさん……?」

「アイリス……! カミールが勘違いするような事は言わないでくれ!! 後で説明する」


 慌ててアイリスの発言を訂正しながら姿絵を販売していた店先から数十メートル離れた頃には、市場が元通りの賑やかさを取り戻し始めた。


 違和感を感じていた静寂も、市場で買い物をする客と必死に呼び込みをする店員たちの喧騒で埋められていく。すぐに魔力を収めたかいがあったのか、魔力の揺らぎを感じた人々が大事ではないだろうと片付けてくれたのかもしれない。


 とにかく大きな騒ぎにならくて良かった……。


「でみとりはもっとかちこちだよ」

「かちこち……」

「カミール! 極寒の森の中で道具も無しに水浴びはできないだろう?」

「は、はい!?」

「代わりに清潔さを保つために水魔法を使った時に上半身を見られただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「そ、そうだったんですね」


 一体どんな絵だったんだ……知らない方がましだと思いつつ、内容次第では野放しにしておけないな。


「俺は絵を見てないんだが『名誉を著しく失する』内容だったか?」

「それは……人によるとしか……」


 曖昧なカミールの答えに嫌な想像が膨らむ。


「でみとりはあんなにひょろひょろじゃない」

「僕もそう思いますけど、法律的に女性の裸体に関しては厳しい条件があるんですが男性は……」

「嘘だろう……? 裸体の扱いに性差なんてないだろう?」

「これは有名な話だから僕も知ってるんですけど、元々芸術としての裸体の扱いについては男女平等の条件を設けるつもりだったらしいです」


 そんなの当たり前としか思えないが、何故女性だけ守る様な内容になったんんだ……?


「明らかに男女平等の方が良いだろう?」

「裸体は芸術だから変な制限を設けるべきじゃないって、当時の男性の画家達が猛反発したらしくて……」

「……その画家達が主に描いていたのは?」

「女性の裸婦画ですね……」


 ……嫌な予感がするな。


「『男性は裸体を描かれても気にしないのですか?』と問われた画家達が『げ、芸術だし減る物じゃないから当たり前だ』と主張したので、そのまま男性だけ法律の対象外に――」

「……いくら何でも馬鹿過ぎないか?」

「女性の裸を好んで描いてるとは言わずに、裸体は芸術だって主張してしまったから引き下がれなかったんでしょうね」


 昔の画家達の下心と、無駄に張った意地のせいでとばっちりを受ける身としては全く納得できないが……法律で定められているなら仕方がないのか……?


「全部取り締まれるとは約束できませんけど、デミトリさんの名誉を失するような裸夫画が出回らないか、念のため監視が必要だって報告しますね」

「止めてくれ、俺のせいで誰かがそんな業務を請け負うのは流石に心が痛い」

「その、デミトリさんだけでなく王家や貴族もその辺には敏感なので王城に専門の部署があります。一人調査対象が増えた所で大差ないので、お任せした方が良いと思います!」


 前世の法的機関や画像を取り扱っている事業にも、法に触れていたり公序良俗に反した不適切画像を監査する部門があったが、まさかこの世界に似た職業があるとはな……。


「でみとりがかちこちじゃないえは、ふうしだからだめ?」

「アイリス……ちょっとだけ風刺の使い方が違うな」

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