第486話 フリー素材
「アムール王国で話題筆頭の第一王子の転落劇! 独占入手した注目の劇の演目表をお求めの方は――」
「幽氷の悪鬼が討伐された記念すべき年に収穫された、純ボルデ産のワインを買うなら今しかないぞ!」
「入荷ほかほか! 最新式の暖房の魔道具はいかがですかー!!」
商業区に近付くにつれて人通りが徐々に増えていたのには気付いていたが、ここまで盛況しているのは予想外だった。
はぐれないようにアイリスとカミールと肩を並べながら、ゆっくりと目的地である本屋に向かって歩き始める。
「あつい……」
「確かにボルデとは思えない熱気だな」
「肉の絨毯に押し潰されてるみたいです……」
俺の両脇に立って人混みに晒されているアイリス達の方が辛そうだな……身体強化を掛けながら人混みを少し強引に押し返して、アイリスを俺とカミールの間に移動させる。
「……あのまま屋根伝いに移動した方が楽だったか?」
「業務上そういう移動手段を多用してる僕が言うのもおかしな話ですけど、普通はそんなことしたら駄目ですよ」
「やねにのったらだめなの?」
「そうだな。さっきは緊急事態だったから良いが、基本的にはだめだ」
「きんきゅうじたい……」
「身の危険を感じたり、例えば――」
「ボルデを救ったガナディアの勇者と滅私の魔術師の姿絵、二枚組で買うとお得だぜー!!」
前方から聞こえて来た客引きの声を聞き全身が強張る。
声が聞こえて来た方向からして、俺が立っている側に店を構えているのでこのまま進んでしまったら店の目の前を通り過ぎる事になる。
「……カミール」
「さっきは周りに人が居なかったから良かったですけど、ここで魔法を使って離脱したら騒ぎになりますよ?」
「そうだよな……」
「いまはきんきゅうじたいじゃないの?」
「今回は緊急事態とは言えないですね……でもお気持ちは分かるので、折を見て僕と位置を入れ替えましょう」
「すまない、助かる」
声が発せられたと思われる店までまだ距離があるし、カミールの言うように位置を入れ替えてやり過ごすしかなさそうだな。
それにしても……勝手に姿絵なんて売っていいものなのか? この世界には肖像権という概念自体存在しない可能性はあるが。
「カミール、俺は許可を出していないんだが姿絵というのは勝手に売っても良い物なのか?」
「時と場合、人と立場によりますね……国民が一方的に搾取されたり良からぬ商売に巻き込まれないように、原則として販売目的に作成された姿絵や絵画は人物を特定できる場合、芸術ギルドを通して芸術家と被写体が契約を結ぶ必要があります」
「想像以上に厳しい条件が課せられているんだな……例えば友人に送る絵を描く場合でも契約が必要なのか?」
「個人的に贈呈する絵を描く分にはそう言った制限はありませんよ! あくまで商業目的で絵を描いた場合だけです。仕事柄ヴィーダ王国の法を全て把握する必要があるので知ってるだけで、法の成り立ちについては詳しくないんですけど……昔色々あったみたいです」
色々、か……駄目だな。今までの経験から、何となく異世界人が何かしらやらかしたのだろうと納得しかけてしまったが決めつけるのは良くない。
「逆に王族と貴族にはその法律は適用されません」
「意外だな」
「一般的な国民と比べて絵を描いてもらう機会が多いので、いちいち契約を結ぶのが面倒……というのは建前で、表現の自由を守るためにそう定められています」
表現の自由……??
「……言い方は悪いが、例えば領主が領民に圧政を敷いている場合それを批判したり、風刺する絵画を描けるようにか?」
「どうでしょう……さっき言ったみたいに、僕はそういう法律がある事しか分からないのでどういった背景でそう決まったのかまでは……」
「ふうし……?」
「批判……いや、もっと簡単に説明するとそれはいけないと遠回しに指摘する事だな」
「んー……」
遠回しの指摘自体が素直に思ったままの事を話すアイリスにとって良く分からない事だから説明が難しいな。
「でみとりは、ふうし?? されてるの?」
「確かに……今のカミールの説明だと、俺は国民として扱われるべきじゃないのか?」
「偉業を成し遂げたり、二つ名が知れ渡る程知名度を得た場合は例外として扱われます。デミトリさんの場合は更に第一王子殿下の賓客ですし……」
要するに、俺は王族や貴族と同じ扱いになるのか……。
「えっと、一応名誉を著しく失するような悪意を持った絵だった場合法的に対処できます!」
俺を元気付けようとしてくれたのかもしれないが……カミールが言う通り名誉棄損が成立する条件まで考慮されているとなると、益々異世界人の関与が疑わしくなるな。
「ガナディアの勇者と滅死の魔術士の姿絵を二枚組で買ってくれたら、先着十名には特典として二人の裸夫画のおまけ付だ!!」
「!?」
「らふが……??」
「デミトリさん落ち着いてください! 魔力が漏れてます!!」




