異世界に召喚されたと悟った男子高校生はサーヴァントの夢を見るのか?(癖微増版)
フォレスト領を秘密裏に出立したのが3日前だった。そして、必ず魔神を呼び出してみせるという事で、決意と共に封印遺跡に突入したのが今朝。
あたしがなさなければならない事は、ミリアから預かった魔王怪異の媒体になりかねない時と空を超え炎の魔術師に共鳴する力を持つ魔法書。あたしに何かあった場合は、ミリアに施した細工が強制的にこの本を地面の中へ引きずり込んで、最悪の事態は回避してくれる。
でも、あたしは絶対に死ぬ気はなかった。王子をシバキ倒す事はおじさんにしてやられたけど、でもまだ戦いは終わってなどいないのだ。あたしはフォレスト領とそしてあの2人を守る……守らなけれならない!
率直に言って地獄そのものだった。封印遺跡の中は事前情報にもあったが、ずっと昔に遺跡の中に押し込まれた生き物の成れの果てである魔物が闊歩しており、魔術の他に剣術や体術を使う事を強いられる場面も多くあった。
あたしの使う剣術は、アーミングソードによる防御術の類であり、上段は斬り下ろし、中段は刺し、下段は弾くの3つの動きだけに固定し後は必要に応じて組み合わせ相手が隙を見せたら剣に込めた炎で相手を包むという4段構え。
達人と戦うようなものではなく、ただ只管に時間を引き延ばしてフィーナが逃げる時間を......彼女がいないならば、自分が脱出する時間を見出すためのものだ。だから今回の様に短期決戦しつつ、延々と遺跡中央を目指すような戦いには都合が良かった。
ついであたしは......そのなんだ。色々と内緒で動く事が多かったもので。こう、魔王怪異相手だろうと隠密でスーッと行けちゃうのですよ。アレデスネ。まさに日頃の行いが物を言ったという所ですか!
ミリアがあたしを選んだのも、きっとその為だろう。でも、それでも楽な場面は1度も無かった。炎の力があるとはいえ、魔術で軽減できない熱気もあり、血反吐を吐きながら進む。
そして……6時間死に物狂いで戦い遺跡中央へ辿り着いて、追手の蝙蝠の様な怪人を通路の壁を焼き溶かす事で阻止した時にはもう満身創痍だった。そんな中......フィーナとミリアとフォレスト領の平和の為にと魔法書を使ったのだ。
魔法書に書かれた呪文を最初は、ただ唱える。延々と唱える。続けるうちに通常の魔術とは違って意識が自分の体から離れていくのを感じる。意識が離れてもこのまま放置してはいけない。離れてはいくけれど持ってはいかれない。絶妙の距離を持ちながら、唱える事だけは止めない。
すると、その内に呪文は「唱えている」のではなく「唄」になる。誰も知らないでも、絶対にこの唄になるであろう不思議な旋律。きっと、この向こうにいるはずなのだ。あたしを、あたし達を救ってくれる力が……! 魔神が!
いないなんて許さない……! そんな理不尽があっていいはずがない。あの2人に幸せを! 2人が守ろうというフォレスト領にも幸せを! ついであたしにもちょっとだけお裾分けを......!
だから万感の想いと焦燥感を込めて、叫んだ......!
「あたしに力をよこしなさい!!」
『力がほしいっ!』
「『あれ?』」
被った……!? あれ、なんでこんな事とかってあるの? 魔神ってあたしのイメージ的には魂の奥深い所にいてあたし達を見守る高位存在みたいなものであって、あたし達の事なんかすべてお見通し的なそんな畏怖すべき存在......とかじゃない?
さっきの声は、なんかこう、あれだ。狭い道で向こうからくる人とウッカリ克ち合っちゃって、お互い照れ笑いしながら違う方へ行こうと画策するも間違えてまた被っちゃった......みたいな、ないよね。そんな「ウッカリさんだ、てへー♡」みたいなのあっていいはずがないよね?
きっと、これは極度の集中の中であたしが垣間見てしまった幻視みたいなもので、いけないいけない、もっと集中をしなければ......!
『更新! 更新ボタンを連打! ボタンが何処にあるかは分からないが……!おーい! どういうシステム&支払方法も分かりませんがぁぁぁ! あーたーれぇぇぇぇ!? ちーかーらーっ!! くれてやると言えぇぇぇ!!』
向こうも勘違いしてるぅぅ! 向こうも同じように力をくれと言っているって、あたしに言ってるの!?え、なに、ひょっとしてこれかなり残念な魔神なんじゃないの!? ちょwww
「だから、あたしが力を下さいって言っている魔術師なんだってばぁぁぁぁ!? ああ、じゅ、術式が完璧じゃなかったの!? 時間が時間が無いのっ! 魔神! 聞いてるの魔神!? 声が聞こえてるのは分かってるんだからね! この呼びかけに応えなさいってば……まぁぁじぃぃぃん!!」
心の中であたしは、かすかに声が聞こえる場所をがったんがったん叩いた。昔見た借金取のイメージだ。此処で逃がしてなるものか! 魔神は魔神なんだものね! きっと何とかドア......なんのドアかは分からないけど、こじ開ける事に成功すれば、きっと力が手に入るはず!
待ってて! フィーナ! ミリア! あたしは貴女達の友人として守護する者とて、相応しいように......!ピンチの時に救ってあげられる英雄になってみせるよ! そんなあたしの死に物狂いが通じたのか、音の向こうで何かが動く。よっしゃぁぁぁぁ! ほら見ろぉぉ! 人生最後は馬力よ馬力! 魔力がなんだド根性よ! やっふぅー\(^o^)/
『……繋がっているだろうか!? どこのドナタかは存じませんし、あげられる力があるのでしたら、ご提供してさしあげたいのは山々なのだが、そもそも俺には君にあげられるものに心当たりがないんだ! だけど、俺にはピアノが無いし、君に聞かせる腕も無いという事で、改めて違う方法での連絡を……!』
野郎! ブッコロシテヤル!?(涙)あげられる力に心当たりが無いんだったら、魔神召喚の儀式の向こう側とかにいるんじゃないよ! ええ、でも、それでも......! あんな魔法の本の向こう側にいるのがこんな間違い配達に困ってる人みたいなわけない。あたしはくじけないわ!
「.....繋がってる時点で出来る事はあるのっ! 言って……! 貴方の魂の底から浮かんだ言葉……! それには魔力が宿っている……!」
さあ、どうだ! 言ってやったわ! 魔神である以上魂とか大好きでしょう!? 本当はウダウダ言いつつ召喚されたくてウズウズしているんでしょう! さあ、どう来る......! どう返す......!?
『ネフェルピトー怖い!脳髄ほじるの止めて!NTRショック! 新しい扉開通5秒前……!』
誰だよぉぉ!? ネフェルピトーって誰だよぉぉぉ!? え、なにそれ、NTR......寝取られの隠語って事で新しい扉っ!? なんだろう! 嫌な予感がする! 魂からの言葉ならぬ色町で身持ち崩した人の世迷言漏らしてないか!
コイツ......おじさんと双璧をなすダメ人間なんじゃあるまいか!? 脳髄を抉られながら、友人を寝取られる魔神。前世でどんな悪い事したらそうなるのさ? ええい、忘れろ弱気! がんばれあたし!
「どこの誰よネフェルピトーって!? 脳髄ほじられるとか魔神のくせにどうなってるのアンタ! そうじゃなくて……! 時と空の壁を超える言葉よ! 魂からのそれをアンタとあたしが一緒に叫ぶの! そうすれば飛べる……!」
意識の集中が切れそうだ。もう相当に魔力を使ってしまっているからもはやフラフラなのだ。だから全てを言葉にする事は出来ない。この短い間で何とか伝わってくれる事を祈るしか......ん、今、「らめぇ☆」とか男の子の......破廉恥な断末魔が……!?
え、魔神ってエロイ魔神とかじゃないよね!? 信じて良いんだよね!? ミリア! 今のままだと「脳髄をネフェルピトー?だかに抉られながら、友人を寝取られる姿を見せつけられ、更にその友人が今「らめえ☆」とか言っている魔神」って事になっちゃうよ!?
しかし、そんなあたしの祈りを嘲笑うかのように……あたしまで恥ずかしくなってしまう様な情欲と色香を濃厚に濃厚に圧縮して、同時にネットリとした怖いを通り越して呪いと化してそうな艶やかな少女の声が聞こえた。
『さあ……深山先輩……2人でイキマショウ……? 何処までも何処までも深い深淵の中へ……♡』
確信した……! コイツ......情事の最中についでにあたしの心の声を聞いている!? 情報が更新されたよ! 『らめえ☆』をなんか色っぽい少女にきっと股がられたりしながら......最悪だ! 破廉恥というか猟奇にも程がある! ひっぱたきたい!今すぐ、ひっぱたきたい......! でもそれでも、今は必要だから……!
「.....ちょ、他の魔神もいるの!? えらくシッポリしたなんか理性がヤバイ感じの……! だから! 時と空の壁を超える言葉……!」
失敗するかもしれない。そして予想の斜め上を行くことばかりで頭がパンクしそうだった。自分の失敗のせいで、あの優しい人たちが破滅するなんて。しかもこんなしょうもない事で。もう泣きそうだった。しかし……その時だった。
『…時を越えろ空を駆けろこの星の為……?』
呪文だ……! 間違いない! 確信した心なしか吟遊詩人だったり芝居小屋で入る主題歌っぽいけど、これは間違いない! このチャンスをつかんでみせる! みんな、あたしに力を! やり遂げる勇気を下さい!
「なんかの主題歌っぽい!? でもいいわじゃあ分かった! もう1度あたしも唱えるからアンタも言って! せーの……!」
「『時を越えろ空を駆けろこの星の為♪』」
世界が輝いた。何かが繋がったのが分かった。やった……! 成功したよ! なんかフシダラな魔神とか来そうだとか泣きそうな気持だったけど、魔に属する試練とかならそういう事もあるのだろう。全身が焼けそうだった。
魔法書が力を失い、ただの紙束になっていく。まだ通路の向こうには蝙蝠の怪人がいるけれど……まだ、戦う必要があるけれど、今だけはこの一瞬だけは脱力感と充足感に浸らせてほしい……!
そして目の前に光が集中し、最後に弾けた……! 強力な炎の力を感じる! 間違いない! これはこれこそは魔神だ! 周りは煙に満ち凄まじい熱を帯びている。やがてその煙が収まっていく毎に見えてきた......!
テカテカした黒いボディ、腰についている騎士の物と違い中央にやたら大きい石が入っていて、なんかパッツンパッツンなイメージの腹筋&真っ赤な目......!これは違うよ!? ええと、なんでそう思ったのか分からないけど、でも叫ばずにはいられなかった!
「世界観違うのが来ちゃった!?Σ(゜Д゜;)」
しまった……! この言葉が彼を怒らせてしまったらマズイ! 従わせるための何かの戦闘儀式でもあろうものならもうどうする事も出来ない……!
しかし、その言葉を聞いた魔神は「ふっ」と謎のドヤ顔をしたような感じがした。なんだろう引っぱたきたい。そんなあたしの心中を知ってか知らずか彼は不思議なポーズをとった。腕を大きくグルっと回し、ビシッと決める。その瞬間、お腹の石が謎の灯をペカーっと放つ。ポーズの意味は良く分からないけど、コイツ......?
「召喚に応じて惨状したっ! サーヴァントライダー......と言いたい所だが! 残念! 俺には免許がない! ではチャリダーなのかと言えば自転車通学でもない……! 故に敢えて俺はこう名乗ろう......!我が名はテツヲ! 後輩にライダーにされ時と空を超えた男だ!」
何もしていないのに背後で大爆発が起こった。あたしは確信した。あ、これ「手からビーム出しちゃうおじさん」と話が合うタイプのヤツだ。とりあえず、あたしは「どちくしょう!?(涙)」とつぶやいた。
そして漠然とこんな事を思った。
「脳髄をネフェルピトー?とかに弄ばれつつ、少女とピンクな行為に耽りつつ、眼前には「らめえ☆」という親友がいる黒いテカテカフォルムの魔神」……理解をしようとした場合、あたしはきっとコズミックホラー的な何かに蝕まれてしまうに違いない……! ある意味、『手からビーム出しちゃうおじさん』よりもヒデエよ!
しかし、あたしは完全に油断していたのである。このテツヲと名乗るコズミックホラー桃色魔神はまだ究極の一手を残していた事を......あたしは気づけなかったのだ……!
「問おう。君が俺のマスターか!?(カッコイイポーズ!)」
契約する......のか!? あたしが……!? コズミックホラー桃色魔神の齎すそれに、あたしは何を見てしまうというのか......!?




