ある癖をこじたせた人の日記より抜粋
急に天啓が降って湧いたので、大幅改修します。話の筋自体は変わっていないのですが大幅に癖が増すようにがんばってみました('◇')ゞ
このリンディア王国は古い王国であり、他国の侵略であったり古代存在の跳梁跋扈等色々なトラブルに何度も襲われたが、悉く打ち破ってきた。そもそも自然が険しい地形だった事もあって、あたし達はそれと共生する為に魔術の力を深く研究していたことも大きい。
魔術は適性のない人に説明するのは中々に難しいのだが、この世界の住人の一部に発生するもう1つの感覚だと思ってほしい。例えば、テーブルの上にあるコップを掴もうとするなら、別に頭の中で考えたりもしないで「ひゅーひょい」ですぐ終わってしまうだろう。
改めて説明しろと言われる方が、困ってしまうのではないだろうか。実はそれとほとんど大差がない。竈で燃えている火があったとして、あたしには、「その中に掴める炎」が見えるのだ。だから「ひゅーひょい」で、竈の中から炎をガバっと掴み出すことが出来るし、場合によったらバックにしまっておいたりも出来る。
当然手は焼けたりする事は無いし、消そうと思えば手をピッピと2回くらい振りでもすれば消えてしまう。
ちなみに、この特性は訓練によって伸ばす事も出来、熟達すれば何もない空間から炎を掴み出したり、より大きい炎を生み出す事も出来なくはない。
当然、それは難しいし、「特定の用途に基づいた魔術を行使したい場合は呪文の詠唱もいる」。
水面に石をピッピとなるように投げられる王都の友達がいるが……あれを上手くやるのに、「手首を投げる瞬間、キュっとやる」みたいに自慢げに語っていたが、呪文とは、トドのつまりはそれ。
例えば、あたしは炎の魔術師だけど、長い間多くの炎の魔術師たちが「ひゅーひょい」をやっていく中で、「これを謡うと、炎がギューンってなった!」というコツとして、いつの間にか成立したものが呪文なのだ。
だから、肝心要の所ではあたし達、魔術師とそれが使えない人に大きい差はない。さしあたって、「近所のあの子ピアノが上手なんですよ」ならぬ、「あの家のお子さんは、炎使うの上手なんですね」みたいなものに過ぎない。
実際、あたしは炎の魔術が大好きだったのと、近所に隠遁してた先生が教え上手だった事なんかもあって魔術でご飯を食べられるようになったりはした。
でも魔術の感覚があっても、そっちに興味が湧かないであるいは食器洗いの隠し玉に使ってみたり、洗濯物を早く乾かすときに風をちょっと起こすみたいな使い方をして、普通に暮らしている人もいる。
ただ……このリンディア王国に関しては、魔術の才能を持っている場合、結構真剣に学ばないと深刻にマズイ事情があった。魔王怪異が非常に発生しやすい土地柄なのだ。
魔術の研究が盛んだった事の裏返しなのか、それとも違うのかは今もって議論百出で答えは出ていない。だが、この世界には時々、魔王怪異と呼ばれる現象が発生する。
何が原因で発生するのかは、シチュエーションによって様々だ。道具かもしれないし家かもしれない、はたまた人かもしれないが、それは間違いなく発生する。この世界の外側……しかも酷く深淵じみた場所から、信じがたいほどの汚染がこの世界へ吹き上がるのだ。
自然そのものへの深刻な汚染であり、人間もその例外ではない。直撃を受けてしまった場合は、心無い怪物へと成り果てて2度と人へは戻れない。人間の心を維持出来ている場合もあるのだが…...考え得る中でこれは最悪のケースだ。
動くだけであらゆる存在を汚染する怪物に成り下がってしまったそれは、あたし達にはもうどうする事も出来ない。始末するか、異界の彼方へ追放してしまうしか策はない。
リンディア王国第4王女ミリアが魔王怪異の処刑人と呼ばれて畏怖されているが、彼女が迅速に怪異を始末したり回収したりしている為に大災害こそ起きてはいない。
そんな怪異の討伐には、どうしたって魔術の力が必要で…...だからこそリンディア王国では、魔術の才を持った人間に自然に特権が集まるようになってしまった。
その結果......門閥貴族が発生する事となり、王家も王家で例外ではなくなった。
実は前からその兆候が無かったわけではない。「王都を魔王怪異対策の本陣としつつ、危機が発生した地域に可及的速やかに増援を送る」という事で、魔王怪異が強力であったが故に、皆ピリピリしていたのだ。
つまる所......門閥貴族でドヤっている時間が無い。実際、全力で戦う訳であり、その分だけ報われたいやら特権が集まるというのは道理そのものはあった。
しかし、今から200年前程に、この世界に勇者が出現してしまった。
魔王怪異の世界汚染の真逆を行く、対魔王怪異特攻の決戦兵器じみた存在で女神の導きで現れた彼が、多くの魔王怪異を討伐し、平和な時代が一定程度続く事になった。
そしてまた時代が不穏な気配を見せ始めたのだが……そこに登場したのが、ミリアだ。
カクンと首を傾ける無表情な人形の様なお姫様。母親が魔王怪異であった......言うなれば忌み子中の忌み子な彼女は、魔王怪異をかぎ分ける能力が尋常な程高かった。
更には「自前で軍隊を作れる」という意味が分からない権能を有していたため、まさに......忌み子でありながら、平和の象徴と化したのだ。
そして此処まで語っておいて唐突に思われるかもしれないが、そんな彼女と彼女を補佐するフォレスト家の一人娘にして、あたしアンナ・マロリーの友達であるフィーナ・マーレイユ・フォレストがあたしの最推しトップだったりする。
実のところ、ミリアに対しては「偉い人なんだー。いつもお疲れ様ー」位に思っていたし、フィーナに対しても、その御付の偉い人くらいな印象でしなかったのだが。
ある日……その、ふふふふ。そのこの日記だけに書いておく事だけれど、フィーナがこっそり1人でアイスクリームを食べている所を目撃してしまったのだ。
あれは……ヤバかった……! エロ……いや、そんな生易しいものじゃあない! やっていた事は大したことじゃあない。単にスプーンでアイスを掬って食べていただけの話。でも、色っぽかったのだ。
あの綺麗な手がスプーンを握るときの手つきの艶めかしさ、そしていざ、アイスに到達し、バニラにその無骨なそれが突き刺さる時には……「ああ、そんな……! 白い雪の様な肌面に優しく銀の匙が繊細に入ってしまうなんて! 嗚呼!」等、一体自分でも何を言っているのかさっぱり分からない背徳感を感じてしまった……!
そして……あの瞬間なのだ……! スプーンに乗せられたアイスがあの可愛らしい口に吸いこまれる……あの瞬間、白い歯と微かに艶めかしく見えた舌先っ! あたしは己がバニラアイスでない事を深く深く後悔した。そして最後に、嗚呼……ウットリと上気し夢見るように幸せそうに微笑んだあの顔……!
あたしは……雷に身を焼かれたような衝撃を覚え、気付けばいつもフィーナを目で追う様になっていた。あたしだって、アイスくらい食べた事はあるけれど、あたしは自分が人間だったと錯覚したモンキーだったのだ。ちょっと真似もしたけど……あたしに……あたしにあの色気は出せない! あれは間違いなくR18だった……!!
いやね、いつも彼女は偉い人だから、仕事はいつもテキパキしていますよ? 辺境な分だけ陳情も数多いですし、彼女は大きい水魔術の使い手で、開拓の為に大きい力を使うために出かけなければならなくて、でも、体が丈夫ではないから血を吐いてしまう様な事も少なくなくて。
そんな時……誰もいなくなったと確認した時に……かすかに、「痛いよぅ」と漏らしたあの子供の様な声……! 当然、当然本音を出しにくい立場だし、きついのだろうなとか、色々思う事はありました。でも、なによりも……! あたしは……気づいていたら、鼻血を流していた。
これは......推そう! 推さなければいけない! その日からあたしの彼女への推し活は始まったのだ。見返りなんか求めない! でも、少しでも貴女がコッソリ、バニラアイスを食べてまたあの日の様な……その、ふふふ、滾ってしまう様な姿をして、それをあたしだけがコッソリ見つめる事が出来るように!
あたしは彼女の懐刀へと昇り詰めるべく、1日48時間の勢いで動き回った……! この当時のあたしの最大の怨敵は……! 今では大事な友人なのだけれど、間違いなくフィーナに一番構われるミリアだったと言っても過言ではない……!
だってズルイのである!?(涙)あたしは、お付きの立場でフィーナは「小さい頃から知っている貴女の事は頼りにしていますよ?」とか笑ってくれるけど、でも、そんな彼女が余所行きではなく、内向きな視線を向けるのは……二人きりになった時に、こうプライベートで……いや、その、なんだ。
ふへへ……そんなになったら、きっとあたしが吐血して、辛抱堪らなくなってしまうに違いないから無理なんだけど。そんな視線を向けるのは、ミリアだけなんて……許し難かった!
仕方がない事であっても納得は出来なかったのだ。そんな悶々とした心を抱えていた、そんなある日の晩……2人が2人だけが寝室で何かを話している様子があって、その、胸のドキドキが抑えられなくなったあたしは、懐刀として当然の責務として、隣部屋からコップで中の音を確認してみる事にしたのだ。
その時……その時、聞こえた声が……! 嗚呼っ!
『大丈夫ですよミリア。貴女は人の心が理解できない、それが申し訳なくて仕方がないと言うけれど。そこに呪いは確かに影響しているのでしょう。でもね? それを哀しく感じているその事だけで人の心を持っている証だと、わたくしは思っております。
貴女のお母様も貴女を愛していましたし、それはフォレストの者も、わたくしも同じです。誰が何を言おうと関係などないのです。貴女が眠るまでこうして抱きしめています。わたくし達は最期まで貴女を御支えしますから』
目で見たわけではない。見たわけではないのだ……! でもね!? 嗚呼でもね……!? とっつきにくいとか、特別な人だからその辺仕方ないよねぇとか思っていたあたしは……なんという愚か……!
人の心が理解できないと人形の様な瞳の中で悲しむ少女を、そっと抱擁する気高き侯爵令嬢……! やめろやめてくれ……! どこまでアンタらは、あたしの癖を串刺しにしようとするのだよ!?
あたしはバブミというものを理解しつつも、出血多量で死にかけて、炎で痕跡を隠ぺいしたあたしは、翌日からミリアに絡むことにした。
「推し対象に声をかけるなど、貴様はどうなっているのだ!」ああ、そんな罵声も甘んじて受け入れよう。ああ、でもね!? なんか……同じ相手に色んな意味でお世話になっているあたし達なのだから、きっと、必ず……話とか合うに違いないじゃないかと思っちゃったのよ!
そして……嗚呼、出来るなら深夜のお茶会とかにあたしを特別ゲストで招待し、あたしを幸せの中で撃ち滅ぼしてくれぇぇぇ! ちなみにそんなウザがらみのお陰か、ミリアはあたしの事もいつの頃からか、服の袖をそっと掴んだり、「この言い方で大丈夫と思うか」とか他人と会話前に、こっそり聞いてくれるようになったりもした。
ふへへ。あたしは……幸せだった。あのロクデナシが……! 赤い服着て金髪な王子が推しに婚約とか持ってくるまでは……! 全てはミリアに対する嫌がらせから端を発していた。
彼女が忌み子である事を理由に事あるごとに、彼女の足を引っ張り、ついでにミリアのサポートをしているフィーナを引き抜こうと色々な意味で邪魔ばかりをしてきていたのだ。
王家で無ければ……王族でなければ「野郎!ブッコロシテヤル!」で何度始末しようと思ったか分からない。トドメが……トドメが自分と結婚するならば、ミリアの立場を良くしてやるとか言って……あの腰回りに手をやってくる所! 胸元に……胸元を覗き込むあの……目!
あの子がアイツがいなくなった後に本気で泣きそうな顔をして嘔吐をしているのを……見たときには……ああ、処さなけば……! 処さなければ......!
何度ミリアに「いつ処すのか言ってくれたら速攻よ♡」と語ったか分からない。ミリアはミリアで「……今はまだダメ。でもこのままでは済まさない」と言っていたし、婚約はおぞましい事に成立する事となってしまったが何故かミリアが「それ自体は受けても構わない。
名前ばかりになる事に何の意味があるのか」と意味深な事を言っていたので、あたしも敢えて何もしなかった。ただ、その意味は後日明らかになる事になる。




