中富ビル内でのバカ騒ぎー卵パン食べますか食べませんか?ー
ダブルピースを葬った結果、どういう仕組か分からないけどテツヲは感覚だけではなく身体運動の方も、「あんだーこんすとらくしょん☆」だかが一部消えたらしい。あたしをおぶったまま、ちょっとした馬並の速度と機動力を発揮しつつ、さりとて、あたしには負担を掛けない様に全力で走ってくれていた。
あたし達の最大目標はおじさん討伐だが、もしもシャロン王女を途中で見つけたら彼女を救い外へ逃げ出す事になっている。ちなみに、シャロン王女が途中におらず、やっぱりアナウンスの通り最上階におじさんと陣取っていた場合は、2つの選択肢があり得た。
1つはおじさんと対決して討伐した後に、シャロン王女を救出すること。2つ目はおじさんを放置してシャロン王女だけを抱えてトンズラするかである。テツヲ曰く、彼のお師匠が、9割がた最上階にまで先着しているはずなので、おじさんを彼に任せてシャロン王女を自分達が救い出すのが、あたし達のとりあえずの考えだった。
この塔の壁面を大爆発させたテツヲのお師匠......さて、一体どんな人なのやら......。あたし、アンナ・マロリーは、そんな事を考えながらテツヲの背中にギュッとしがみ付きつつ、目の前に出現するソニックブームを放つゴルゴムをテツヲが、ギリギリで回避するのを炎でアシストする。
そして……そんな時だった……! またも佐枝後輩の囁き声が聞こえた……! テツヲだけではなく、あたしにまで......!(ノД`)・゜・。
『......イケナイ人......。そんな風に力を込めてしまうなんて......』
佐枝後輩の手が、あたしの首筋にそっとあてられる。その瞬間、何故かあたしの中の何かが急にゾクゾクしてしまう。そのまま彼女はあたしにしなだれかかってきた。
『......この固い鎧の中にある貴女本来の今、戦いの中で火照り続ける......生まれたままの貴女が感じるそれこそが……最も正しい事を教えてくれるのに……』
ああ、気付くと佐枝後輩の手があたしの胸元に添えられ、そのままあたしの鎧から皮膚そして、肉と骨の中に入りこみ、陶然とした感覚が走った瞬間、あたしの中から塔の中にある壁がすべて消えた。こっちを狙うゴルゴムの団員が、テツヲが全て何をするのかが……見える......!
一瞬先が見えた。未来が、時が……すべて見える......! あたしの炎はかつてない程に自由だった。テツヲの動きに合わせ、そしてあたしの意志に合わせ、炎は踊り、あらゆるものを焼き尽くしていく......!
『ああ......イケナイ人。こんなに欲張ってしまうなんて。でも分かっているんですよ……? 本当はもっともっと先が知りたいのでしょう……? 人は人の限界を超えて更なる高みへと行けるのに。ああ、貴女も私と......深山先輩と......一緒に溶けあいませんか……? いいえ、そうすべきです……。もっとも原初的な気持ちに抱かれて......羽ばたきましょう......?』
あたしは誤解をしていたらしい。この佐枝後輩という少女はきっと人を新たな領域に羽ばたかせてくれる守護天使に違いないのだ。ならば、その手を掴む事に何の躊躇いがあるのだろう……? あたしは気づくと、彼女の手を取り、陶然と微笑んだ。
『そして、今の貴女なら分かるはず。フィーナ令嬢とミリア姫を見守り続ける優しい貴女は、人が不自由で苦しい事が何よりも可哀想に思ってしまう......そんな人。貴女がその身を預ける深山先輩......可哀想に、こんなに腹筋がきつく、きつく締め付けられて。
少し......少し脳をいじられるだけで、その苦しみから解き放たれるのに』
ああ、分かる。なんという不自由さだろうか。きっと恥ずかしいのだろう。手術が嫌だなんて、そんな事を言いだすのは。ああ、なんだかんだと言いながら、このテツヲという魔神は善性と羞恥心が感じられる人物でもあった。きっと脳等という最も敏感な部分を、人にさらしてしまうなんて耐え難くて泣いてしまいそうなのだろう。
しかも年下の少女の前でそんなになってしまうなんて、身悶えしているのだ。ああ、大丈夫だよテツヲ。あたしがあんたの不安を抱きしめる事で、この身に宿る熱を伝える事で癒してあげるから。、そうだ、あたしも一緒にそうなってあげる。2人で脳を......
「しっかりぃぃぃ! しっかりするんだ! アンナさん!? 君は今俺に対し......! 俺に向かって、『恥ずかしくないよ。佐枝様に2人で脳を捧げよう♡』とか、やべえ事を......! 俺の耳元に囁いていたんだぞ!?
桃色とか桃色じゃないとか、そんな事月まで吹っ飛ぶコズミックホラー世界だ! 息を! しっかり息をするんだ!?」
はっ!? あたしは急激に正気が戻ってきて、同時に羞恥心が死ぬほど湧いてきて、思わず呻き散らした。いつの間にか鼻血がえらい出ている。これは......こんなものと引き換えというのだろうか!?
佐枝様ってそもそも何だ! あたしの願いはただ1つ......! フィーナとミリアの安寧を守る事だというのに! なんでまたあんな魔物めいた少女に様付なんて! しかもバッタ男に! て、テツヲに......! 結婚もしていないのに、いや、結婚していようと脳は見せ合っことかしないとは思うが......!
恐ろしい……! 本当に恐ろしいぞSAN値ゼロシステム! 敵の10手先を見せるのと同時に、自分のコズミックホラーな癖の100手先すら見せる機械ってどんなんなんだよ!? 本当に、本当に最悪の場合は、あたしはテツヲに責任を取らせた上で、2人でフィーナとミリアを守る役に強制的に任命しようとかそんな事を思った。
「このシステムが危険である事は百も承知の上だったろう? それよりも今の俺の懸念事項は、このまま次に戦うのが、おじさんか、それともパジャマお肌けおじさんなのかは定かではないが......もしも勝利した場合は、あの濃い面子のどっちかをまた熱中症回復の名のもとに、捕食させられる羽目になるという事であり......。
それだけで、なんだか死にたく......死にたく......そうか......! そうなんだな佐枝後輩......! 死ぬくらいなら脳をいじられた方が……! 知らなかったよ! 吸血鬼になっても世界はこんなに綺麗だったなんて!
藤子先生の流血鬼は名作中の名作だっ☆\(^o^)/」
テツヲはまたどこか遠くを見つめつつ、楽しそうな声を上げ、迫りくる塔内を回るドルイドゴーストとクオックスをシバキ倒した。そのままとても愉快そうな顔で、あたしの手をドキッとする程の優しさで掴んだか思えば、クルクルとあたしを抱えて回りだす。
ああ、そういえばこんなダンス......昔、フォレスト領の結婚式で皆で踊っていたなぁ……。あたしはフィーナ達の幸せが1番ではあるのだけど、同時にそりゃあ、夢想した事もあって。ああ、そうだ、結婚式ではこんなダンスを踊りながら、旦那さんは佐枝様も許可して下さる方で......御主人様の佐枝様に一緒にフィーナとミリアを守る許可を頂いて、その上で人体を改造する永遠の幸せな場所へ行くんだ……☆
この際、相手はテツヲでも問題はないかなぁ……? あははは☆ お腹のパッツンパッツンが苦しくて、必死に我慢するテツヲの腹筋を、あたしと佐枝様で筆でくすぐってあげたら、きっと可愛らしい声で……♡
そういえば、あたしとテツヲは何でまた、草原の真ん中で2人ですっぽんぽんに……
「なってないわぁぁぁぁ!(テツヲに頭突き☆)」
「ぐばう!?(直撃を受け、地面を壁にめり込ませるテツヲ)」
あたしは、フィーナとミリアを守護する者! 衛士にしてフォレスト領一の炎の魔術師! 見返りなんて求めないし、佐枝後輩はテツヲの後輩であって、あたしの御主人様じゃないの! 御主人様じゃない! また何処からか......
『貴女も……パッツンパッツンなんですね……? 大丈夫。すぐにでも解き放ってあげます』
......という声がしたので、慌てて魔除けの護符をポシェットから取り出すのだが、すでに4割が消し炭になっていた。もう嫌だ、このシステム......! コズミックホラーなのかピンクなのかはっきりしろよぉぉぉ!?
そこにテツヲが幽鬼のように立ち上がり、呆然と呟いた。
「……い、今、アンナさんが……すっぽんぽんで俺の手を取り、俺もスッポンポンで。ああ、これは今度こそ念願の桃色夢時空かと思ったら......なんか、アンナさんの目が、やべえ感じの色に染まっていて。あれは......あれは脳内ファイルに焼き付けて良いのか……しかし、もう興奮以前に手を出せば戻れない何処かに連れて行かれる様で……」
「……忘れないと本気で、責任、取らせるからね!?」
「……なんか、本当にすまない。うちの後輩は天才という名の天災であり、最初は俺を超人時空へと招待したいだけだった様なのだが、いつの間にか戻れぬ場所へと......まさか、君まで巻沿いにしてくるとは思わなかった......」
全くである。しかし、このシステムが無ければ炎を搔い潜って最短距離にて最上階へ行けそうもない事もまた事実だった。現在到着階層はグダグダになってしまっているものの、丁度58階だった。話によれば、もうすぐ最大の戦いが待つであろう、おじさんと恐らくシャロン王女が拉致されていると……拉致というべきか......思われる59階だった。
システムの超反応で攻略自体も最速で行えていたし、まだタイムカウントはだいぶ残っている。しかし、このまま精神汚染が続いた場合、あたしとテツヲは最上階で2人揃って、脳内フルオープンをした挙句、おじさんにその模様を町中にアナウンスされる羽目になりかねない。
そうなった場合、フォレスト領の外聞的にもアレな事になるし、恐らく上に向かっているであろうテツヲのお師匠の足も引っ張る事になるだろう。
ちなみに、だったら此処で1度変身を解けば良いのではないかという見方もあるが、現在塔内はやたらめったら暑い。炎の魔術師のあたしは別にして、謎の超技術を有する『手からビーム出しちゃうおじさん』を除けば、変身解除はよろしくなかった。
そこで、あたしは時間ロスを覚悟して、テツヲに向き直った。
「ここで1度魔除けを改めて、あんたと......ついでにあたしに施すわ。あたしに逆流してくるのはアンタと近い距離にいる事と......その抱き着いてる事と、ついでにアンタに魔力を渡しているからでしょうけど、今ここで、魔除けさえしておけば。
きっとこれまた2人とも、それなりには守られると思う。後は、場合によってどっちかが1人残っておじさんの足を止める事とかも考えないといけないでしょうね」
「足止め役は俺が……」
「お師匠さんと此処まで会って無い以上、もしかしたらまだ階下って事もありえるし。なんにしても、あのおじさん、あたし達に対しては発言から考えるに戦うんじゃなくて、本当にチェキとやらが目的だけって事もありそうだから。だから、ほら。ちょっと手を出しなさい。魔除けの呪文を手足に改めて書くわ」
「……なんか、後輩の件で本当に手間をかけてしまっている」
「それはもう言いっこなし。じゃあ、ちょっと待......」
あたしがそう言いかけた瞬間だった。とっさにテツヲが絶句する気配が伝わる。同時にすさまじい瘴気があたし達に迫ってきた......! まさか……まさか新手の魔王怪異......!?
緊張しながら、そっちを向くとそこにいたのは......パジャマを色っぽくお肌けした「んあ♡」とか言っている謎のおじさんだった!
胸毛が、胸毛が無駄に自生している! おへその下にも! え、なにこれ魔王怪異なの!?
「信じてたのに……! 遠藤君との過去がまとめて新しい敵フラグではないと信じたかったのに!」
テツヲが何か親友に裏切られた悲劇の主人公じみた声を上げている。あたしは、あたしで敵なら敵で焼きつぶすまでと構えを取っていると、お肌けさんは、「ちっちっち」と指をさせた後、あたし達にそっと謎のいかにもヤベェ色合いの卵パンを差し出してきた!
「食べるとぉ……頭が冴えるよん♡」
「「味方なの!?」」
......最上階はもうすぐで、同時に卵パンを食べるべきか逃げるべきか。それが問題だ......




