第27話 盗聴器の家
依頼人は三十代の女性で、家の中の会話が漏れていると言い、声が小さかった。依頼人の名は松下由香で、夫と別居協議中で、弁護士と自宅で話したことが翌日には夫側の弁護士に知られていたという。
草薙が自宅を確認すると、リビングのコンセントカバーの内側に小型の機器があり、寝室と玄関にも同型のものが合計三箇所で見つかった。ちひろがスマートフォンで全箇所を動画で撮影した。
「証拠として触らずに写真を撮ってから警察に届けてください。盗聴器の設置は違法だから」
その日の夜、夫が自宅に押し込もうとしたところを警察が取り押さえようとしたが、夫が草薙に向かって上段に蹴りを入れてきた。
草薙は後ろに引かなかった。蹴りの軌道に対して体を斜めに開き、上がってきた足を両手で外側から受けた。足を取った瞬間に草薙が体を回転させると、蹴り足が支点になって夫の体が横に回転した。夫が背中から地面に落ちたところを
警察に連行された。
帰り道、ちひろが言った。
「草薙さん、蹴りを受け止めてそのまま投げましたよね。蹴りの力を使うって、うち思いつかへんかったですわ」
「上段蹴りは足が上がりすぎると軸が不安定になる。その瞬間に足を取れば、蹴った力が自分に返ってくるよ」
ちひろは少し歩いてから、草薙に聞いた。
「草薙さん、昨日言ってた証拠が綺麗すぎる案件って、具体的にどの依頼のことですか」
草薙がちひろを見た。
「いくつかある。でも一番引っかかってるのは、うちに来る前に解決されてる案件があることだよ」
「解決されてる、というのは」
「依頼人が来るときに既に証拠が揃ってる。俺が調べる前から。それがいくつか続いてる」
「誰かが先に動いてるってことですか」
「かもしれない。俺より先に」
ちひろは少し黙った。誰かが先に動いている。草薙より先に。
「草薙さん、それって味方ですか。敵ですか」
「分からないよ。どちらでもないかもしれない」




