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『骨法探偵 草薙仁』 〜真実は歪みの中にある〜  作者: やはぎ・エリンギ


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第24話 草薙仁の傷

 六月十四日の夕方、道場に客は来なかった。


 稽古を終えたちひろが帯を解いていると、草薙が縁側に座って外を見ていた。


 いつもの眠そうな顔とは少し違う。


 道場の外を歩く人の声。商店街のシャッターが閉まる音。遠くで鳴く虫の声。


 草薙はそれを聞いているだけだった。


「草薙さん、今日は何かありますか」


「六月十四日だよ」


 草薙は外を見たまま言った。


 ちひろは少し考えた。


 事件の日。


 以前、草薙が一度だけ口にした日付だった。


 それ以上は聞かなかった。


 帯を畳み、縁側へ行く。草薙の隣へ腰を下ろした。肩が触れないくらいの距離だった。


 二人とも何も言わなかった。


 夕暮れの赤い光が道場へ差し込み、床板を長く照らしている。


 沈黙は重くなかった。


 ただ、静かだった。


「草薙さん」


「何」


「うち、ここにいますよ」


 草薙は答えなかった。


 けれど、張っていた肩が少しだけ下がった。


 ちひろはその変化を見て、それ以上は何も言わなかった。


 しばらくして、草薙が立ち上がる。


 道場の電気をつけながら、小さく息を吐いた。


「飯、食いに行こうか」


「焼きそばですか」


「今日はラーメンがいいよ」


 ちひろは呆れた顔をした。


「せめて定食食べてください。絶対栄養偏ってますやん」


「ラーメンにも野菜は入ってるよ」


「もやしだけで健康語らんといてください」


 草薙は少しだけ笑った。


 その顔は、いつもの眠そうな顔に戻っていた。


 ちひろはその顔を見て、少し安心する。


 六月十四日。


 草薙にとって消えない日なのだと思った。


 でも、話したくなった時に、きっと話してくれる気がした。

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