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『骨法探偵 草薙仁』 〜真実は歪みの中にある〜  作者: やはぎ・エリンギ


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第15話 燃やされた女

依頼人は二十代の女性で、目が赤く腫れており、スマートフォンをテーブルに置いたまま触ろうとしなかった。

「SNSで炎上してます。わたしは何もしてないのに」

 ちひろはその言葉を聞いて少し前に出た。


 依頼人の名は福田真奈で、フリーランスのイラストレーターをしている。一週間前から、真奈のアカウントが他のクリエイターの作品を無断転載しているという情報が拡散されており、真奈のアカウントそっくりだが微妙に違うアカウントだという。

「そのスクリーンショットを見せてもらえますか」

 草薙がスクリーンショットを確認してちひろに渡すと、ちひろがアカウント名を見た。

「偽アカウントですね。うちでも一瞬本物と見間違えそうでしたわ」

「同業者で最近トラブルになった方はいますか」

「三ヶ月前に同じ案件で競合したことがあります。結果、わたしが仕事を取ってしまって、相手がかなり怒っていたと聞きました」

 草薙は相手のアカウントを確認して投稿日時と偽アカウントの作成タイミングを照合した。偽アカウントが作られたのは競合のトラブルから二週間後だった。

「偽アカウントの投稿パターンを見ると、真奈さんが活動していない深夜に集中して投稿している」

「深夜に集中してるということは、真奈さんが起きてないと思って動いてるってことですか」

「そうなるよ。真奈さんの生活リズムをある程度知ってる人間だと思う」

 ちひろがスマートフォンで偽アカウントと競合相手のアカウントを並べて動画で撮ってから言った。

「草薙さん、コメントを止めた直後に偽アカウントが動き始めてます。感情の流れと行動が一致してる」

 草薙がちひろを見た。眠そうな目が少しだけ変わった。

「今回はちひろが組み立てたよ」

「たまたまですわ」

「たまたまじゃないよ」

 真奈が「ありがとうございます」と言って、目がまだ赤かった。


 草薙が相手に直接話を持っていくと、相手はIPアドレス開示の話を聞いた瞬間に青くなり、翌日には偽アカウントを削除して謝罪の連絡を真奈に入れた。


 その翌日、相手の男が道場に怒鳴り込んできた。大柄な男で、草薙を見るなり「余計なことをするな」と言いながら腕を振り上げてきた。

 草薙は動じなかった。

 振り上げた腕が下りてくる軌道を読んで、体を半歩斜めに開いた。腕が空振りして男の重心が前に流れた。その瞬間に草薙が一歩踏み込んで丹田から体重を滑らせ、男の脇腹に掌の根元を当てた。骨法の徹しで、表面を叩くのではなく衝撃を体の深部に届かせる打ち方だった。

 男がよろめいた。バランスを崩した体に草薙がそのまま体重をかけて四方に流すように崩すと、男が足から崩れた。ちひろが素早く男の後ろに回り込んで両腕を取り、押さえた。

「落ち着いてください。話があるなら聞きますよ」草薙が言った。

 男が力を抜いた。草薙は離れた。



「草薙さん、さっきの打ち方、前と違いましたね。当てたのに相手の内側に響いてる感じで」

「掌の根元を使って体重ごと流し込んだよ。腕の力じゃなくて体重そのものを乗せる打ち方だ」

「それが骨法の徹しってやつですか?」

「よく知ってるね」

「草薙さんの技を見てたら、だんだん分かってきましたわ」

 草薙は何も言わなかった。前を向いたまま歩いていた。


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