親愛と憎悪
アルムとエレメントキメラは激しい格闘戦の応酬の中、テレパシーを通じて問答を繰り広げていた。
その内容は人間に対する考え方に関するものであった。
『キミはどうして人間が憎いの?』
『人間は醜い! 自分の都合で私を生み出し、必要が無くなれば言葉一つなく捨てる! 命を作り出したことに何の責任も感じない連中だ!』
エレメントキメラは自らが抱える人間への憎悪をアルムにぶつけた。
問答の間にも戦闘は続き、両者の激突によって町は次々に壊れていく。
『それは違うよ! 人間は君が思っているよりも善良な存在だ!』
『黙れ! 貴様は人間に求められ、それに応えることができた存在だからそう言える!』
アルムが人間の善性を説くとエレメントキメラはアルムの思想が彼女の立ち位置によって形成されたものであることを指摘した。
エレメントキメラが人間に捨てられた理由は千年前にアルムが先んじてキメラの殲滅を実行できたからであり、彼女の存在がエレメントキメラを歪めた理由そのものであった。
『たとえ千年前にキメラを滅ぼしたのがボクじゃなくてキミだったとしても、それでもきっとボクは今みたいに人間を信じるし、人間のことを愛するよ!』
アルムはエレメントキメラの主張を否定し、自分が人間を愛する存在であると主張した。
彼女の中にはそう言えるだけの確かな根拠があった。
『なぜそう言える!』
『ボクの使命は”人間を守ること”だから。 もし千年前にキミが先に目覚めてキメラたちを倒していたとしても、マスターはボクにそう命令したはずだよ』
アルムが人間を愛する理由はかつてマスターであるオルフェウスの善性を見たからであった。
もし歴史の何かがズレてエレメントキメラが先に目覚め、キメラたちを倒していたとしてもアルムはその抑止力として目覚め、人間を守ることを命令されていただろうと確信していた。
エレメントキメラはアルムを弾き飛ばして地上に叩き落とすと空中で青い光を纏った。
最初の戦いでも見せた形態変化の予兆であった。
(マズい!? このままだと人が巻き込まれる!?)
アルムは危機感を覚えた。
形態変化に伴う衝撃波はアルムなら容易に回避できるがこのままでは町の人々が巻き込まれてしまう。
それを阻止しなければならなかった。
アルムは妨害の一環として放電を繰り出すとそれをエレメントキメラへとぶつけた。
するとどういうわけかエレメントキメラの周囲を渦巻いていた青い光の挙動が乱れるように不規則になった。
アルムか放電を続けると青い光はエレメントキメラの外側へと入り乱れ、光そのものも弱まっていく。
十数秒程度の予兆の末、エレメントキメラは形態を変化して体色を赤から青へと変化させた。
だが前回とは異なり衝撃波はかなり弱く、地上までその余波は届かない。
エレメントキメラが形態を変えたのと同じタイミングでアルジェが到着した。
『ここは私が引き受ける。 アルムは回復に努めた方がいい』
アルジェはアルムに代わってエレメントキメラの相手を引き受けた。
アルムは長時間の強化状態の使用によってかなりの負荷がかかっている状態であった。
途中何度かエレメントキメラの放った雷を吸収してエネルギーこそ確保していたが肉体の限界がいつ来てもおかしくはない。
『ここは任せたよ。 アイツが光を纏ったらとにかく冷気を浴びせてみて』
『わかった』
アルムはアルジェにアドバイスを残すと強化を解いて元の状態に戻り、一度戦線を離脱した。
エレメントキメラはそれを追おうとするがそこにアルジェが立ちはだかり、エレメントキメラと組み合いになる。
『貴様も金龍の同類か! なぜ人間の味方をする!』
『勘違いしないでほしい。 私は人間がどうなろうと知ったことではない』
『ではなぜ私の邪魔をする!?』
『私の使命はマスターを守ること。 マスターに害なす貴方は私の敵、それだけ』
アルジェはエレメントキメラに敵対する理由を簡潔に言い切るとエレメントキメラを地上へと投げ落とした。
アスファルトが陥没し、二体の戦いは地上戦へと移る。
『貴方は間違っている』
『黙れ! 私が受けた屈辱などわかるまい!』
『人間から捨てられた経験は私にもある』
アルジェはエレメントキメラに対して自分も人間から屈辱的な仕打ちを受けた経験があることを示した。
『貴方は人間を憎むあまり人間を理解しようとする意志に欠けている。 それで絶望して人類を抹殺しようなど片腹痛い』
アルジェはエレメントキメラの野望を冷笑し、真っ向から否定する姿勢を見せた。
エレメントキメラは逆上してアルジェの首を掴みにかかるがアルジェは容易くその手を掴み返す。
その動きはすでに冷静さを欠いていた。
『哀れな貴方に忠告しておく。 たとえどれだけ優れた力があったとしても、貴方に人類を滅ぼすことはできない』
アルジェは人類が持つ可能性を提示し、エレメントキメラの野望が果たされることがないことを突きつけるのであった。




