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轟き照らすは金の龍  作者: 火蛍
リバース・アルケミスト
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マスター・オルフェウス

 アルムがかつてのオルフェウスの隠れ家の次に訪れたのはかつてオルフェウスが持っていた工房があった場所であった。

 しかしそこは更地になっており、錬金術の面影は感じられない。


 アルムが更地になった地面をおもむろに掘り返し始めると過去の遺物が次々と発掘された。

 それはかつて錬金術が栄えた時代の品であった。

 アルムはその中から金属製の箱を発見するとそれを開けて中身を確認した。

 箱の中には装丁が施された書物が一冊入っていた。

 箱の中に入った状態で土の中にあったことで雨風日光を避けてきたからか、保存状態はかなり良好であった。


 「これは……オルフェウスの日記だ」


 アルムは内容を読んですぐに書物の正体がわかった。

 それはオルフェウスがつけていた日記であった。

 その筆跡を見れば本人が書いたものであることはアルムにはすぐわかった。


 日記はアルムが生まれるずっと前から散発的に書き綴られている。

 自分も知らないオルフェウスの過去を読み解こうとアルムは夢中で日記を読み漁った。


 『妻も子も、流行り病で死んだ。 どれだけ祈ろうとも神は我々家族を救ってはくれなかった。 この世界に神は存在しない。 私はもう神を信じない』


 日記にはオルフェウスの悲痛な思いが書き残されていた。

 妻と子供を失ったことが彼を錬金術の道に進ませた元凶だったのである。


 『これまで神の奇跡と呼ばれたものは錬金術によって人の手で起こすことができることがわかった。 神の存在を信仰する人間のなんと愚かなことか』

 

 『この錬金術によって人はどこまで世界を変えられるか、それを試してみたい。 きっと新たな命を創造することも可能だろう。 動物の力を持ちながら人と心と言葉を通わせることのできる生物がいれば人間がより様々な場所へ進出することも夢ではない』


 『やはり命を想像することなど錬金術の前では容易いものだ。 これまで空想とされていたドラゴンを作り出すこともできるのだ。 この生物をキメラと呼称することにする』


 日記の中にはアルムを作り出した当時のことも書き記されていた。

 だがそこから先は日記の内容に変化が起きた。


 『何者かがキメラの製造方法を模倣したようだ。 ただ力だけを持っただけの程度の低いキメラを使役する錬金術師が大きな顔をして闊歩している』


 『程度の低いキメラたちが互いを攻撃し、街も人も壊れていく。 人間に錬金術は過ぎたる力だったのだ。 錬金術が齎すものは人間の進歩ではなく破滅だった。 錬金術によって引き起こされたこの惨事を治められるのは神の奇跡などではない、錬金術の力だ。 私は自ら作ったキメラの力を持ってキメラたちを制し、錬金術を終わらせることを決めた』


 オルフェウスはキメラ騒乱の中で人間の愚かさを嘆いていた。

 そんな中でアルギアに関する記述もわずかながら残されている。


 『キメラによる血みどろの争いが続く中でアルギアという男は頑なにキメラを作ろうとはしないようだ。 何かと鬱陶しい男だが高潔な意思には好感が持てる』


 オルフェウスは日記の中でアルギアのことを高潔だと評していた。

 そんなオルフェウスの評価を蔑ろにするような汚点をつけていたことにアルムはもの悲しさを覚える。


 『私のキメラに力を与えた。 キメラの気配を探る力、より多くの人の言葉を学び理解する力、あらゆる生物の息の根を止める雷の力。 だが、まだこれだけではいけない』


 『ドラゴンのキメラに人と同じ姿を持たせることができた。 これでこの騒乱が終わった後もこの子を人の中で生かすことができる。 私も愚かなものだ。 自らの作品に愛着を持ってしまうとは』


 日記はその一文を最後に途絶えていた。

 全文を読み終えたアルムは呆然としてしばらく放心してしまった。

 自分が元々オルフェウスのエゴのために生み出された存在だったことが信じられなかったのである。


 「でも、ボクに人間を愛することを教えてくれたのはマスターだ」


 アルムはしばらくして気を取り直した。

 たとえ自分がエゴから生まれた存在だとしても、オルフェウスが彼女に愛情を注いでくれたのは紛れもない真実であった。


 「やっぱり、ボクがやらなくちゃ」


 日記を読み終えたアルムはそれを焼き捨てた。


 『キメラから人間を守る』


 オルフェウスが見た錬金術が齎す未来像とマスターから与えられたその使命を再び胸にアルムは日本へと戻っていくのであった。

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