知り得ない存在
エレメントキメラとの戦闘から一時撤退したアルムとアルジェはそれぞれ別行動を開始した。
アルジェは単身とある場所へと乗り込みをかけた。
半壊した足を引きずり、たどり着いたそこはシロガネ・レンの住居であった。
鍵が開いていた玄関を通り、当然のように上がり込んだアルジェはレンと久々に顔を合わせることとなった。
「シロガネ・レン。 あのキメラは何」
「知りませんよ。 私が作ったのではありませんから」
アルジェに問い詰められたレンは衝撃の事実を告げた。
なんとエレメントキメラはレンが作ったキメラではないというのである。
「じゃあ誰があんなのを」
「今私も調べているところです」
レンは様々な情報網を利用してエレメントキメラの出自を探っていた。
得体のしれない野望の成就を目論むエレメントキメラの存在はレンにとっても厄介なものであった。
「シロガネ・レンはどうやって錬金術を会得した。 アルムは錬金術は千年以上前に失われたはずだと言っていた」
「知りたいですか」
「知る必要がある。 あのキメラの出自の源がそこにあるかもしれない」
「……そうですね」
アルジェの主張にレンは納得する姿勢を見せた。
自身が錬金術の技術を得た経路が現代に存在する以上、エレメントキメラ誕生がルーツを同じくしている可能性はあった。
「取引をしませんか。 私が錬金術を会得したルーツをあなたに教えます。 今回の一件に関して貴方たちに独自に協力することも約束しましょう。 ですが、この件はどうかご内密に」
「……」
レンから持ち掛けられた取引にアルジェはすぐには答えを出さなかった。
エレメントキメラのルーツに迫れる可能性とキメラを作る技術を持つ男がバックに付くこと自体は非常に魅力的である。
しかしそれに対するこちらが支払う代償があまりにも安かった。
「何を考えている」
「あくまで一時的に手を組みましょうというだけのことです」
「……今はその言葉を信じさせてもらう」
底のしれないレンの態度に疑心暗鬼になりつつもアルジェは取引に応じることにした。
事態が事態であるため、今はあまり悠長にしていられる状態でもない。
「では。 貴方の錬金術のルーツを教えて」
「これを欧州から発掘してもらったんですよ」
レンは引き出しの奥底から古ぼけた書物を取り出すとそれをアルジェに提示した。
アルジェは書物の頁をめくり、思考補助AIの翻訳機能を利用して書物の内容を解読する。
「かつて衰滅したとされる錬金術を秘かに保存していた錬金術師がいたんですよ。 これだけ精密に記載されているとなれば、恐らく著者はあのオルフェウスに近しい技能を持った錬金術師でしょう」
レンの口から出た人物名にアルジェは反応を示した。
オルフェウスは千年以上前に実在した錬金術師であり、アルムのマスターである。
アルジェもアルムを通じてその存在は認知していた。
「欧州の錬金術師。 アルムなら何か知っているかもしれない」
「では貴方たちはあのキメラの出自を追ってくれませんか。 私はあのキメラの行動の真相に迫ってみます」
レンはエレメントキメラの謎を暴くための作戦を提案した。
現在のマスターであるカグヤに錬金術に関する知識は皆無であるため、今は有識者のレンの方が対エレメントキメラに関しては頼りになった。
「また来る」
「お待ちしていますよ。 最近は在宅勤務が多いのでいつでも対応できます」
アルジェは壁伝手に足を引きずりながらその場を後にした。
アルム譲りの回復力のおかげですでに地に足を付けている感覚は取り戻しており、歩行もできるようになっていた。
一方でレンはアルジェが受けたダメージの大きさを知り深くため息をついた。
「敵の力は金龍と同等かそれ以上、果たして現代の力で勝てるか……」
レンはまだ見ぬエレメントキメラの力に戦慄した。
相手はかつての自分の最高傑作ともいえる存在のアルジェにアルムですら成し得なかった深手を負わせたキメラである。
あくまで古代の再現に過ぎない錬金術で古代と渡り合える保証はなかった。
新たに現れた第三勢力のキメラと戦うため、レンはパソコンのマウスとスマホを手に暗躍を開始したのであった。




