神を騙るキメラ
その日、アルムは朝から家を飛び出していた。
キメラの気配を察知したのである。
アルムがキメラの気配を追った先には例のカルト集団の姿があった。
それを見たアルムは気配の主であるキメラへの先制攻撃を躊躇することとなった。
キメラの周囲にいる集団はあくまでただの人間である。
人間を守ることを使命とするアルムには人間を戦いに巻き込むようなことはできなかった。
「失敬」
集団のリーダーと思わしき男が集団に待機を言い渡すとアルムを一瞥して歩み寄ってきた。
「あなた、私の正体に気づいてますね?」
「キミは何者なの?」
「私、こういう者です」
男はそういうと道のど真ん中でキメラへと変貌した。
男の正体は真っ赤な鱗に身を包んだドラゴンのキメラであった。
二本の禍々しい形状の巨大な角が頭部前方へと伸び、威圧感を放つ。
アルムは対抗して金龍の姿へと変身した。
二体のドラゴンのキメラが白昼の街中で睨み合う。
『まさか少女が金龍だったとは。 遅ればせながら、私はエレメントキメラと申します』
『エレメント?』
『ええ、いずれ万物を統べる神になるキメラです』
エレメントキメラのその言葉を聞いたアルムはエレメントキメラへと殴りかかった。
不意に殴られたエレメントキメラの身体は吹き飛ばされてアスファルトに叩きつけられる。
『ボクたちキメラが神を騙るなんてあってなるものか!』
『やれやれ、これだから古いキメラは』
エレメントキメラは起き上がると慇懃無礼な物言いをしながらアルムへと挑みかかった。
『キミもボクも、同じ錬金術から生まれたキメラだろう。 そこに古いも新しいもないじゃないか』
『それが古いと言っているんですよ』
激しい打撃の応酬を繰り広げながらアルムとエレメントキメラは問答をしあう。
程なくしてアルジェがアルムの増援に駆けつける。
『ほう。 貴方は現代に生まれたキメラですか』
『あなたがあの集団の元締め? 変な行進に私たちは迷惑している』
アルジェはエレメントキメラに対して不快感を露わにした。
ここ最近の連日に渡ってカルト集団はこの付近を練り歩いており、騒音にも等しい演説をしているせいで昼間に配信しにくい環境が形成されていた。
アルジェはそれが気に食わなかった。
『いいでしょう。 貴方たちをここで倒してしまえばこの世界を掌握したも同然。 まとめて相手しましょう』
エレメントキメラは余裕綽々な態度で戦闘に臨んだ。
アルムとアルジェは果敢にエレメントキメラに挑みかかる。
『キミの目的はなんだ?』
『さっきも言った通り、万物を統べる神になることですよ』
エレメントキメラはアルムたちと互角の戦いを展開しながら自らの目的を明かした。
神を否定する力である錬金術によって生まれたキメラでありながら神になることを標榜するエレメントキメラはアルムたちにとって非常に烏滸がましい存在であった。
『あまりこの手は使いたくありませんでしたが』
エレメントキメラは翼で全身を覆い隠し、それを展開すると同時にエネルギーを放出した。
エネルギーは周囲を禍々しい赤色に染め上げ、周囲の音がくぐもったように聞こえにくくなる。
エレメントキメラの体内のエネルギーの高まりを感じ取ったアルムは即座に危険であることを見抜いた。
『アルジェ、ここは一時撤退を!』
アルムはアルジェに警告すると即座にエネルギーが及んでいない領域へと退避した。
アルジェが離脱しようとした次の瞬間、エレメントキメラは高まったエネルギーを一気に放出した。
放出されたエネルギーによって周囲は一瞬で火の海と化す。
アルムはその余波から逃れることができたものの、初動が遅れたアルジェは足先と尻尾を余波に飲み込まれることとなった。
『身体が動かない』
着地しようとしたアルジェはその場に崩れ落ちた。
エネルギーを喰らった足先に感覚がまったくなかったのである。
アルムがアルジェの足元を見ると、それは焼けこげたように真っ黒にくすんでいた。
エネルギーに耐えきれずに彼女の足先は身体機能を破壊されてしまったのである。
『奴は危険だ。 アルジェは退がったほうがいい』
『そうさせてもらう』
戦闘の継続が困難であると判断したアルジェは戦線を離脱した。
アルムが単独でエレメントキメラの元に戻ると、そこには体表が青色に変色したエレメントキメラの姿があった。
アルムは目を疑った。
『銀龍の姿がないようですが』
『キミが知る必要はないよ』
『まあいいでしょう。 今日は私の力の一端を見せるに留めておきます』
エレメントキメラは勝ち誇ったように言い放つと変身を解いて悠々と去っていった。
アルムは追撃しようとするがどういうわけか身体がそちらへと向かわなかった。
アルムとアルジェは過去にない強敵との対峙することとなったのであった。




