怪しい存在
その日、カグヤはバイト先であるシロガネ館にて他のバイトスタッフから奇妙な噂を耳にした。
「カナメさん。最近路上で変な集団が出るらしいですよ」
「変な集団?どんな」
「なんでも『近い未来、神によって世界がー』どうとか言ってるみたいです」
「うわー、胡散臭ー」
噂の内容を聞いたカグヤは冷笑を零した。
今時珍しいぐらいのカルト的な存在が現れるとは思いもよらなかったのである。
バイト中暇な時間ができたカグヤはスマホを取り出すとSNSでエゴサーチをかけた。
するとそれらしき情報がちらほらと引っかかった。
だがその集団はこの近辺に限らず発生しているようであり、どうも全国的に存在しているようであった。
「宗教ねぇ……」
バイトの帰り道、カグヤはその集団について考えていた。
彼女は宗教や信仰といったものには無頓着であり、高校までの教育で習った程度の知識しか持ち合わせていない。
家まであと少しというところでカグヤは奇妙なものを目にした。
「神の加護の下にいざ行かん、新たに作られる世界へ!」
珍妙な被り物を被った男が高らかに謳いながら道路のど真ん中を行進していた。
男の背後には彼と同じ被り物を被った集団がぞろぞろとついている。
(うわ、近寄らんとこ)
嫌な気配を感じ取ったカグヤは引き返して回り道をして帰ることにした。
普段より十分ほど余計な時間を食いつつも接触を避けて帰宅した。
「ただいまー」
「おかえりー」
カグヤが玄関を開けるとアルムがリビングから顔を覗かせた。
「さっき変なもの見てさ。神がどうとかいいながら集団で行進してんの」
「神ねぇ……」
アルムは神という単語に対して微妙な表情を浮かべた。
普段朗らかな彼女にしては珍しい反応にカグヤは首を傾げる。
「昔何かあった?」
「ボクを生み出した錬金術と神とかいう存在にはちょっとした因縁があってねー」
アルムは自身の出生について触れた。
これまで聞いてこなかった錬金術の話題にカグヤは興味をそそられる。
「どういう関係があるの?」
「そもそも錬金術は神の存在を否定するために研究されたものなんだ」
アルムは錬金術がなぜ生まれたのか、その理由をカグヤに明かした。
アルムが生まれた時代こと千年ほど前は宗教の権威が非常に大きかった時代である。
そんな宗教の偶像たる神の存在を否定するために作られた錬金術によって生み出されたアルムも神の存在について完全な否定こそしないものの懐疑的であった。
「なるほどね。じゃあ神を信じてる人についてアルムはどう思ってるの」
「神の存在を信じてたとしても人間を卑下したり嫌ったりはしないよ。でも、ボクは神の存在を信じられないや」
「ところでアルム。ここ日本には八百万の神っていってさ、この世のあらゆるものに神が宿ってるって考えがあるんだけど」
カグヤが茶化すように口を挟むとアルムは絶句した。
「まさかカグヤもその神を信じてるの?」
「はははっ。まっさかー」
カグヤはアルムの疑念を一蹴した。
カグヤにとって神は身近な存在ではあるものの思想に根付くようなものではない。
「でもまぁ、この辺にもへんな集団が出るから気をつけなよ」
カグヤは怪しい集団の存在に対してアルムに注意喚起するのであった。




