カグヤの引越し
夏休みシーズン真っ盛りのとある平日。
カグヤたちは朝から慌ただしく動き回っていた。
引っ越しの日取りがあっという間に決まり、ついにその日がやって来たのである。
「カグヤー、これって引っ越し屋さんに持ってってもらうやつだっけ?」
「いや、それはあーしらが自分で持ってくやつ」
アパートの一室でカグヤたちはバタバタと動き回る。
荷造りがまだ終わっていなかったのである。
約一時間ほどダンボールに荷物を詰め込む作業をしたカグヤたちは一息つきながら業者の到着を待つ。
朝十時ごろになってカグヤの部屋の呼び鈴が鳴った。
カグヤが玄関を開けると作業着姿の屈強な男たちが中に入り、家具や荷物を次々に運び出す。
数十分程度で荷物のほとんどが外に運び出され、室内がさっぱりと片付いた。
「この部屋ってこんなに広かったんだね」
「あーしがここに引っ越してきた時を思い出すなー。スッカスカだけど案外広くてさ、ここ全部あーし一人で使っていいんだって思ったらワクワクしたわ」
カグヤはしみじみとしながら語った。
だが引越しはまだ終わっていないため、カグヤたちは少しの荷物を持って新居の方へと向かった。
カグヤたちが新居に到着するとそこにはすでに引越し業者が家具の運び入れをしていた。
カグヤは先に来ていたカグヤの父と合流する。
父から家の鍵を受け取り、業者に家具の配置を指示する。
午後十二時を少しすぎた頃にはダンボールを除いたほぼすべての家具の設置が完了した。
業者が撤収するとカグヤはアルムとアルジェを連れて二階へと上がった。
「すごい!家の中に階段がある!」
「今時の一軒家だったらだいたいあるよ。あーしの実家にもあるし」
アルムは階段を見てはしゃいだ。
アルジェも慣れない空間をキョロキョロと見回している。
「ここがアルムの部屋ね。で、こっちがアルジェの部屋。あーしの部屋はあっち」
カグヤが部屋の割り振りをアルムとアルジェに伝えた。
アルムとアルジェはそれぞれの部屋を確認すると中に各々の私物を運び込んだ。
「この後はどうするんだ?」
「昼過ぎからネット工事の人が来るからその前に大家さんに最後の挨拶してアパートの鍵返すかな」
アルムたちが初めての自室を堪能する裏でカグヤは父とこの後の予定を確認した。
ネットの開通工事が控えているため、まだ安息の時間は来ない。
「あーしは大家さんに挨拶してくるから、ネット工事の人来たらよろしくー」
カグヤはアルムたちに一言残すと自転車を駆って一人アパートへと戻っていった。
その自転車は彼女が高校時代に乗り回していたものであり、今後の移動手段として父に持って来させたのである。
「というわけで、短い間でしたがお世話になりました」
「ええ。こちらこそ」
「ところで、壁の修繕費についてなんですけど……」
「ああ、それでしたらこちらに」
カグヤが要件を切り出すと大家は一枚の紙を手渡した。
それはアルムが傷をつけたアパートの壁の修繕費の見積書であった。
それを見たカグヤは思わず表情を引き攣らせる。
「うわ……今週中に雁首揃えてお持ちいたします」
「いえいえ。今月いっぱいは待ちますから余裕のある時にどうぞ」
カグヤが頭を下げると大家は謙遜するようにそう言った。
大家に挨拶を済ませ、ネット工事への立ち会いを終え、その他諸々を終えた頃にはすっかり日が暮れていた。
バイト以上の忙しさにカグヤは肩を落として項垂れる。
「カグヤ、これは父さんからの餞別だ」
カグヤの父はリビングに足の長い大きなテーブルと六つの椅子を設置した。
カグヤたちカナメ一家にアルムとアルジェを加えた全員が座れる分を用意したのである。
費用はすべて父の自費負担であった。
「お前が家を出た時、俺は何もしてやらなかったからな。今回でその分も合わせて清算したつもりだ」
「別にそこまでしなくてもよかったのに」
「いいんだ。俺がそうしたかったんだから」
「ありがと」
家具を贈ってくれた父にカグヤはお礼を言った。
その夜、カナメ一家が揃ってカグヤの新居にやって来て食卓を囲むこととなった。
デリバリーを取り、初めての食卓に宅配寿司がズラリと並ぶ。
「それじゃ、あーしのマイホーム記念ってことで。かんぱーい」
カグヤが音頭を取り、夕食会が始まった。
アルムとアルジェは寿司に舌鼓を打ち、それをカナメ一家が微笑ましく見守る。
こうしてカグヤたちはアパートから一軒家へと住居を移したのであった。




