家族会議
カグヤ一行と残りのカナメ一家が顔見知りとなったところでカグヤは食卓を使って会議を切り出した。
カグヤはアルムたちのおかげでもう普通に会話ができるところまで復活していた。
カナメ家のリビングには椅子が四つしかないため、アルムとアルジェはそれぞれカグヤの両脇に立つ。
二人はカグヤの家族を前に正体を隠す必要がなくなったことで角と尻尾を露出しており、二体のドラゴンを従えているように見えるカグヤの姿は両親に威圧感を与える。
「あのね。今あーしはアパートでアルムとアルジェと三人で暮らしてるんだけどさ、狭くなっちゃったから近々引っ越しをしようと思ってるんだ」
「カグヤが一人で引っ越しを?」
カグヤの口から飛び出した単語に母が真っ先に驚きを示した。
「うん。引っ越し先の物件もある程度考えててさ」
カグヤは持参した物件の資料を両親にも見せた。
カグヤの両親とハルヒは一緒になって資料を覗く。
「この家を買うつもりでいるの?」
「今のところはそのつもり。今住んでるアパートより広いし、ハルヒが志望校受かったらここから通えば通学時間短くなるし」
カグヤは引っ越しを考えたきっかけとその物件を選んだ動機を明かした。
父は一瞬ハルヒの方に視線を向ける。
「確か北谷志望だったか」
「うん」
父が確認を取るとハルヒは素直に答えた。
地理的な事情で鑑みればカグヤが大学進学後のハルヒの住まいとしてそこを選んだのは合理的であった。
「お金は大丈夫なの?」
「今ならなんとかできると思うよ。あーしね、アルムとアルジェのおかげで配信でも稼げるようになったからね。でもあーしだけじゃローンが組めなくてさ」
金銭面を懸念する母に対してカグヤは気丈に答える。
それからカグヤはさっきまでの緊張で強張っていた表情から一転し、真面目な表情で父を見る。
「単刀直入に頼みます。父さん、ローンの保証人になってください」
カグヤは席を立つと父の前に跪き、床に両手をついて土下座で嘆願した。
これまで見たことがないカグヤの姿にアルムとアルジェは衝撃を受ける。
カグヤの父は娘の土下座姿を見てしばらく沈黙して考える。
「カグヤ。顔を上げなさい」
数十秒の沈黙の末、父はカグヤに土下座をやめるように言った。
カグヤは土下座を解き、顔を上げて正座で父と向かい合う。
「カグヤ、自分の家を持つことが何を意味しているのかを理解しているのか」
「それは……」
「自分の家を持つということは自分がそこの長となり、そこで起きるすべてのことに責任を負うということだ」
父は厳かな口調でカグヤに言い聞かせた。
それはかつて自分が今の家を持つにあたって抱いた矜持でもあった。
「さっき配信で稼げるようになったとは言っていたがそれはその子たちの力あってのものだろう。もしその子たちがいなくなったときにローンを返済する宛はあるのか」
「……」
父は言葉を続けた。
鋭い指摘にカグヤは言葉を詰まらせる。
「確かに三人暮らしではあのアパートは手狭であろう。ハルヒの大学進学後の下宿先として立地がいいのも理解はできる。お前なりに考えてここを選び、引っ越しを考えたことはわかるが先の未来の見通しが少し甘いんじゃないか?」
父はカグヤが彼女なりに考えて引っ越しをしようとしていることについては認めたものの、その計画を先に進めることに対しては懐疑的な姿勢を示した。
未来の見通しが不透明なことやアルムたちがいなくなった場合のローン返済の目途が立っていないことは事実であるため、カグヤは何も言い返せなかった。
「少なくとも今の段階では認めることはできん」
「じゃあどうしたら認めてくれる?」
父が保証人になることを否定するとカグヤはそれに食い下がった。
父がそれに対する答えを出す前に、アルムがキメラの気配を感じ取った。
「取り込み中ゴメン!ボクたちちょっと出かけないと!いくよアルジェ」
「そういうこと。用が済んだらまた戻ってくるから」
アルムはカグヤたちに急用ができたことを伝えると窓の外へと身を乗り出した。
アルジェがそれに続き、金と銀、二体のドラゴンが空を翔けていく。
晴れた空に雷鳴が轟き、冷たい風が吹いた。
「父さん母さん、アルムとアルジェはドラゴンのキメラでね。他のキメラと戦ってるの。テレビで見たことあるでしょ」
呆然とする両親にカグヤが語りかけた。
キメラの存在はテレビやネットのニュースでも目にすることがあり、二人の知るところであった。
カグヤの父と母は娘が自分たちの想像を超えた領域に足を踏み入れていたことに少なからずショックを受けた。
「カグヤ。貴方はあの子たちとどういう関係なの?」
「アルムのパートナーで、アルジェのマスター、かな。今年の春にキメラに襲われたあーしをアルムが助けてくれて。アルムは千年以上前に生まれたキメラで現代のkとをよく知らないから、あーしがいろいろサポートして……」
カグヤは両親にアルムとアルジェのことを詳細に語った。
「ハルヒはお姉ちゃんがそういうことをしてるって知ってたの?」
「うん。お姉ちゃんに会いに行った日がちょうどお姉ちゃんとアルムさんが初めて出会った日で、それからちょくちょく顔も合わせてたよ」
母がハルヒに尋ねるとハルヒは自分の知り得ることを打ち明けた。
彼女はアルムとアルジェのことを知っているカグヤを除いたただ一人である。
だがそれは両親には一度も話したことがなかった。
「カグヤ、どうしてそんな危険なことに首を突っ込んだんだ」
「それがあーしにしかできないことだったから。他に理由なんてないよ」
父に詰め寄られたカグヤは覚悟の決まった表情できっぱりと答えた。
その振る舞いに父はかつてのカグヤの姿を重ねるのであった。




