金龍、銀龍、カナメ一家
アルムたちに背を押され、カグヤが実家に帰ることを決意して数日。
ついにその時がやってきた。
カグヤはアルムとアルジェを連れて実家へと向かっていた。
緊張のせいか道中の電車のシートの上で貧乏ゆすりが止まらない。
「カグヤ、緊張している」
「そりゃそうでしょ。だって何年も帰ってなかったんだから」
カグヤは緊張の理由を明かした。
彼女は父親に対して意地を張った結果、家を飛び出してから数年以上一度も帰省したことがなかったのである。
定期的にこちらを尋ねてくる妹のハルヒを除けば家族の顔すら見ていない。
「大丈夫だよ。何かあったらボクたちが間に入るから」
緊張が収まらないカグヤにアルムが気休めの言葉をかける。
カグヤはアルムに対して実力行使という意味での比類ない心強さと複雑な人間社会の事情に疎いという意味での危うさが半々に入り混じった複雑な感情を抱く。
電車に揺られること一時間近く、ついに実家の最寄り駅へと到着した。
カグヤは電車を降りると最寄り駅に到着したことをスマホでハルヒに伝える。
改札を抜けるとすでに待機していたハルヒが合流してきた。
「お姉ちゃんの部屋は綺麗に掃除してあるからね」
「うん。ありがと……」
ハルヒは自転車を押しながら嬉々としてカグヤに話しかける。
ハルヒは姉が久々に実家に帰ってくる事実に歓喜しているがカグヤ自身は未だに気乗りしておらず、歯切れの悪い返事を返した。
「ハルヒっていつもここからカグヤの家に来てるの?」
「そうだよー」
「遠い道のりを来ている」
アルムは陽気にハルヒと会話を交わす。
アルジェも初めて見る道を見回して好奇心をくすぐられる。
この場で気分が後ろ向きになっているのはカグヤだけであった。
だが足だけはしっかりと実家に向かって進んでいる。
数年経っても家までの道のりは身体がしっかりと覚えていた。
こうして歩くこと数十分、カグヤたちは一件の家の前で立ち止まった。
その場所こそが今回の目的地であるカグヤの実家であった。
ハルヒは家の駐車場スペースの脇に自転車を停める。
「カグヤの実家って一軒家なんだね」
「まあね。一軒家としては普通……だと思う」
「ようこそ我が家へー」
ハルヒは揚々と玄関を開けてアルムとアルジェを自宅へと招き入れた。
「自分で行くって言ったんでしょー?」
「用件は早く済ませた方がいい。だから足を進めるべき」
アルムとアルジェはカグヤを背を押しながら連行するようにカグヤの実家の敷居をまたいだ。
カグヤにはかつて十何年と過ごしたはずの実家が極度の緊張からまるで勝手が違うように感じられた。
「ほら、お父さんとお母さんも待ってるよ」
ハルヒに案内され、カグヤは恐る恐るリビングに足を踏み入れた。
リビングではカグヤの父と母がカグヤの到着を待っていた。
カグヤは数年ぶりに両親と対面して気まずそうに硬直する。
そんな姉の様子をハルヒは固唾を飲んで見守った。
「おかえり、カグヤ」
「た、ただいま……」
最初に口を開いたのはカグヤの母であった。
カグヤもそれに応えるように口を開く。
しかしカグヤの父は口を閉じたまま沈黙を貫いていた。
「ただいま、父さん」
「……おかえり」
カグヤが気まずそうに声をかけると少しの沈黙を経てカグヤの父はようやく言葉を返した。
こうして二人は数年ぶりに言葉を交わすこととなった。
「そこにいる子は?」
「今うちで一緒に暮らしてる子。こっちがアルムでこっちはアルジェ」
「初めまして!ボクはアルムって言います!」
「初めまして。私はアルジェ」
母に尋ねられたことでカグヤは少し遅れる形でアルムとアルジェを紹介した。
カグヤの母はアルムとアルジェの日本人離れした容姿に疑問を抱く。
母と臆せずに接するアルムとアルジェを見てカグヤの緊張の糸が解れていく。
「外国人の子?」
「うーん、半分ぐらいは正解かな」
「半分ぐらいってどういうこと?」
「アルム、アルジェ、キメラの姿を見せてあげて」
曖昧な言葉を深堀りしようとした母にカグヤはアルムとアルジェのキメラの姿を見せることにした。
カグヤの実家はアパートと比べて天井がやや高いため、キメラの巨体でも納めきれる余裕があった。
カグヤからアイコンタクトを受けた二人は変身し、巨大なドラゴンの姿を見せる。
いきなり目の前に現れた金と銀のドラゴンを前にカグヤの両親は絶句するばかりであった。
いきなり大胆な行動に走った姉にハルヒですら驚きを隠せない。
「この子たちはキメラっていって、最近ニュースとかで『金龍』とか『銀龍』って呼ばれてるアレ。まあいろいろあって一緒に暮らしてるってワケよ」
カグヤは両親にアルムたちのことを説明した。
カグヤの両親は視界に映るあまりにも現実離れした生き物の存在とそれを前に平然としている娘の姿に目を疑わずにはいられない。
カグヤがアイコンタクトを送るとアルムとアルジェは人間の姿へと戻った。
「この子たちめっちゃ強いけど悪い子じゃないから」
「よろしくお願いしまーす!」
「よろしく」
ようやくいつもの調子を取り戻したカグヤは改めてアルムとアルジェを紹介した。
それに乗じてアルムは元気のよい挨拶を、アルジェは静かで簡潔な挨拶をする。
それに対してカグヤの両親はよくわからないまま会釈をして二人を迎え入れ、カナメ一家は全員がアルムとアルジェの正体を知ることとなったのであった。




