共闘の時
巨大ミツバチ騒動から数日が経過したとある日、事件は起きた。
町のど真ん中を一体のキメラが悠々と闊歩する。
キメラは金龍にも迫ろうという大柄で筋骨隆々の体格に赤茶の体色を持ち、体表には黒い模様が刻まれている。
全身にエネルギーが満ち溢れており、それを示すように鋭い牙が覗く口元から熱気が漏れ出ていた。
キメラの存在を感知したアルムとアルジェが飛んできた。
巨体のキメラ=タイガーキメラは二体のキメラを堂々と待ち受ける。
タイガーキメラは二体のドラゴンのキメラを前に姿勢を低くし、咆哮を上げて威嚇した。
対するアルムも拳を握り締め、翼を大きく広げて威嚇を返す。
キメラ同士が睨み合い、タイガーキメラはジリジリと歩みを詰めていく。
『私が先行する』
最初に動いたのはアルジェであった。
地面を駆け、タイガーキメラに格闘を仕掛ける。
タイガーキメラは即座にそれに反応し、アルジェの突進を受け止めてみせる。
アルジェの体当たりにも押し負けないパワーを見せつけた。
「!」
アルジェの背後からアルムが飛翔するのを見たタイガーキメラはアルジェの肩を踏みつけるとそこを踏み台にして跳躍し、そのままアルムへと飛びかかった。
アルジェは勢いよく下に押し込まれて転倒し、タイガーキメラはアルムの足に組みついて地上へと引き摺り下ろした。
『コイツなんてパワーだ!?』
アルムはタイガーキメラの身体能力とパワーに驚愕しつつも放電で接触を拒否すると尻尾を振り回してタイガーキメラを弾き飛ばした。
タイガーキメラはアルムのスピードにも対応できる敏捷性とアルジェと互角以上のパワーを兼ね備えた強敵であった。
『アルム、正面から挑むのは危険。ここは遠距離から挟み撃ちに』
アルジェがアルムにメッセージを送る。
タイガーキメラのフィジカルの強さを見て真っ向勝負では分が悪いと判断したのである。
それを受けたアルムはタイガーキメラから距離を離すように飛び退く。
アルムが離陸したのを確認したアルジェは全身から冷気を放出した。
周囲の地面が凍結し、冷たい霧が立ち込める。
だがタイガーキメラは怯むことなくアルムとアルジェを睨んだ。
彼の体内の熱量がアルジェの冷気をかき消すほどのものだったのである。
アルジェは氷の槍を生成してタイガーキメラへと撃ち出した。
タイガーキメラは腕の一振りで氷の槍を砕き、そのままアルジェへと突っ込んできた。
ここまではアルジェの予測通りの動きであった。
そして次の予測通り、タイガーキメラは跳躍から飛びかかってくる。
背後からアルムの電撃が飛んでくるがタイガーキメラはそれにも怯まない。
アルジェは氷の壁を作り出して進路を遮った。
タイガーキメラは氷の壁に激突し、その身一つで砕くが障壁に勢いを殺されたことでその向こうにいるアルジェに対処の余裕が生まれた。
アルジェはタイガーキメラの顔面を蹴り飛ばし、冷気のブレスを吹きかける。
タイガーキメラの全身は一瞬氷に覆われるもののすぐに熱気で氷が溶ける。
それを見たアルジェは自分とタイガーキメラとの能力の相性が悪いことを理解した。
『私では倒しきれない。アルムが決めるべき』
『キミがそう言うなら』
アルジェから助力を要請されたアルムは全身から激しい放電を起こした。
角が四本に展開し、尻尾の先が刃のように変化する。
力を解放したアルムは雷鳴と共にタイガーキメラに挑みかかった。
青白い軌跡が地上を駆け抜けた刹那、タイガーキメラは足元を掬われて背中から凍った地面に叩きつけられる。
『援護する』
『ありがとう!』
アルジェはアルムに前衛を任せ、自身はサポートに回る意思を示した。
後ろ盾を得たアルムはアルジェを信頼してタイガーキメラへと接近する。
莫大な電気によって強化された瞬発力から繰り出される格闘の数々はタイガーキメラの目にも捉えられず、その肉体を凹ませるほどの威力を発揮した。
アルムが着地する隙を隠すように氷の障壁が出現し、それが砕けると同時にアルムが飛び出す。
縦一文字に振り抜いた尻尾の刃がタイガーキメラの右腕を切り飛ばし、力を大きく削ぎ落とした。
アルムは地上に降り立つと四本の角を青白く発光させた。
角からはバチバチと音を立てて激しく電気が迸り、周囲一帯を覆い尽くすほどの紫電が駆け巡る。
アルム自身と完全な電気耐性を持つアルジェを除き、そこにいるすべての生物が身体の自由を喪失した。
破裂音と共にアルムの姿が消えた刹那、タイガーキメラの胴体に空洞が現れた。
その背後にアルムが姿を現し、振り向くと同時にタイガーキメラの肉体はバラバラに砕け散る。
決着をつけたことでアルムは力を抑え、元の二本角の姿へと戻った。
『ありがとうアルジェ!キミのおかげで遅れを取ることなく戦えたよ!』
『例には及ばない。私はアルムが苦手な思考を代行したに過ぎない』
『それってボクがバカだって言いたいの?』
アルムとアルジェはタイガーキメラが活動を再開することなく沈黙したのを確認するとその肉片を全て焼き尽くし、空へと去って行ったのであった。




