漲るエネルギー
休眠を取っていたアルムが目を覚ましたのは午後四時ごろのことであった。
アルムは上半身を起こすと大きな欠伸をした。
彼女が背筋を伸ばすとそれに連動して尻尾がピンと上に伸びる。
「ふあー……なんだかよく寝たなあ」
アルムは自身の体内に力が漲るような感覚を覚えた。
それを自覚すると途端に身体を動かしたくなった。
「アルジェ、ちょっと付き合ってよ。ボク身体を動かしたい気分なんだ」
「一人で行けばいい……」
アルムはアルジェの肩に手を置いてアピールした。
アルジェはスマホゲームに没頭したかったため拒否しようとしたがアルムの身体から電気が漏れ出ていることに気づくと拒否を通すことができなくなった。
どうやらアルムは放電していることに自覚がないのである。
「仕方ない」
「というわけでちょっと出かけてくるね!」
「はいはい。あんまり遅くならないようにね」
カグヤは目を覚まして早々に飛び出していったアルムをいつもの調子で送り出した。
その矢先に晴れた空に雷鳴が轟く。
どうやら二人は移動のためにドラゴンの姿を取ったようであった。
「どこまで行ったんだよ……」
カグヤは苦笑いをしながらぼやいた。
アルムとアルジェが訪れたのは海を越えた小島であった。
そこは人の住んでいない無名の島である。
『アルムがこんなことをするなんて珍しい』
『なんだかすごく動きたい気分になったんだ』
アルムが全身に電気を纏うと彼女の身体にある変化が発生し始めた。
彼女の身体から激しい電光が走り、真っ白な光に覆われる。
アルジェには何が起こっているのか理解できなかった。
『すごい……ボクの身体に力が漲ってくる!』
アルムは放電を制御するとその全貌を露わにした。
全身を包む金色の鱗はより厚みと輝きを増し、伝説の名に違わぬ神々しさを放つ。
もともとあった二本の角はより長くなり、さらに根本から分岐するように新たに下向きに伸びた一対の角が発生して四本に増えた。
さらに尻尾の先端にあった金属質の棘もより大きくなり、刃のような形状へと姿を変える。
『行くよアルジェ!』
『仕方がない』
アルムはアルジェに力比べを挑んだ。
無論真剣勝負ではなく、単なるじゃれ合いのようなものである。
アルジェは渋々それを了承してアルムと組み合った。
アルムとアルジェはドラゴンの姿のまま組み合った。
初めは互角の押し合いをしていたが徐々にアルジェが押され始める。
出力を上げて対応するがアルムのパワーはそれすらも上回っており、完全にアルムが優位となっていた。
『確実に力を増している』
『やっぱり!ボクもそんな気がしてたんだ』
力比べを終えるとアルジェは体感をアルムに報告し、アルムはそれに喜んだ。
単純なパワーで他のキメラに遅れを取ることがあったアルムにとってそこが強化されたのは大きかった。
『じゃあボクの得意なスピードも!』
アルムはそういうと一瞬で空へと飛び出した。
身体が宙に浮いた瞬間に音速を突破し、衝撃波が発生して周囲にあった地上のオブジェクトを吹き飛ばす。
その移動速度はもはや視認不能であり、アルジェの予測演算をもってしても挙動の後追いにしかならないほどであった。
『どうだった?』
『私が記録しているデータを確実に上回っている』
アルジェはアルムが見た目も能力も強化されていることを確信した。
だがアルムが何を機に力を得たのかがわからなかった。
ほどほどに力を発散させたところでアルジェは人間の姿になった。
アルムも変身を解いて人間の姿になる。
「アルム、今朝何があった」
「ミツバチみたいなキメラをやっつけて、それから朝ごはん食べて寝てただけだよ?」
アルジェの疑問にアルムは首を傾げつつも素直に答えた。
その行動はほとんどアルジェも見ていたため、嘘をついていないことは明白であった。
「もしかしてあのハチミツを、食べた?」
「実はねー。付け合わせが欲しかったからつい」
アルジェがもしやと思ったことを尋ねるとアルムは正直に白状した。
昼間の長時間睡眠や今回の力の増幅が発生した理由がわかった。
アルジェが回収したハチミツにはキメラの力を増幅する作用があったのである。
今朝アルムが倒したクイーンビーキメラは他のキメラを強化するための素材を使っていたのである。
「あのハチミツは早急に破棄した方がいい」
「そうだね。じゃあボク先に戻るよ!」
アルジェの懸念を汲み取ったアルムは先行してカグヤの元へと戻って行った。
アルムが飛び立つと雷鳴と同時に地上に再び衝撃波が発生し、人間体のままだったアルジェは吹き飛ばされて尻餅をついたのであった。




