キメラのコロニー
巨大ミツバチを目撃した翌日。
アルジェは朝からアルムを連れ出して昨日訪れた山の麓に再度やってきた。
「ボクが一緒に来る意味あった?」
「これから意味ができる。多分」
アルジェは珍しく不確定要素を含む言い回しをすると周辺を探索し始めた。
目的は巨大ミツバチを見つけることである。
アルジェとアルムは草をかき分け、石をひっくり返し、木の洞を覗き込んでミツバチを探す。
虫が飛び出して来ようともキメラである彼女たちは意にも介さない。
アルムに至っては触れてきた小虫を悉く感電でショック死させる始末であった。
探し始めること数十分、アルムはあるものを発見した。
「アルジェ、ちょっとこっち来てみなよ」
「どうした」
「あれ、もしかして例のミツバチじゃない?」
アルムが見つけたのはどこかに向かって飛んでいく巨大なミツバチの姿であった。
アルムとアルジェはミツバチの挙動を追跡し、山中を移動する。
ミツバチを追っていった二人は山中のとある場所にたどり着いた。
「あの中にミツバチが出入りしている」
「ってことはあそこが巣なのかも」
二人がたどり着いたのはとある大木の前であった。
その大木の洞から無数に巨大ミツバチが出入りをしていた。
「よし、ここはボクが炙り出そう」
「放電すると木が焼け落ちる可能性がある。私がやる」
アルジェはアルムに制止をかけると木に向かって進んだ。
アルムは一歩引いた位置からその様子を観測する。
木に接近するアルジェの周囲をミツバチが旋回する。
それが巣に近づく外敵に対する警告行為であることを知っていたアルジェは先にあるものがミツバチの巣であることを確信し、さらに強気に踏み込んでいく。
冷気を放出して周囲を飛び回るミツバチを撃ち落とすと木の洞に向かって冷気をまとったブレスを吹き込んだ。
冷気によって大木が一本まるごと凍りつき、中にいたミツバチはまるごと全滅して羽音が消え失せる。
アルジェは木の洞に手をかけるとそれを豪快に引き裂いた。
するとその奥には地下へと続く通路が現れた。
通路は人間の姿であれば立ったまま通れそうなほどの広さがあり、アルジェはそこに不自然さを覚えた。
「中を見る」
「じゃあボクはここで待ってるよ。何かあったら連絡して」
アルムは通路の入り口で待機することにした。
万が一の場合への備えに加え、狭い場所での活動においては自分よりも人間体が小柄なアルジェの方が向いていると判断したのである。
アルジェが空洞の中に足を踏み入れるとそこには壁一面に六角形が敷き詰められた空間が広がっていた。
中は薄暗いがぼんやりと明かりが止まっており、先を見通せる程度の明るさがあった。
明らかに自然発生したものではない照明にアルジェはますます怪しさを感じる。
(この空間は何のための……)
この場所に何があるのかを考察しながらアルジェが足を進めると、彼女は足に何かがまとわりつくような感覚を覚えた。
ゆっくりと足を上げると足元には粘着質な液体のようなものが広がっていた。
アルジェは冷気を放出してそれを凍らせ、粘着性を消すとそれとミツバチの死骸を踏み砕きながらさらに奥へと進む。
アルジェがさらに奥へと進むと、ついに行き止まりに当たった。
そこには床を埋め尽くすほどのミツバチの群れと壁から滴り落ちる粘度の高い液体が凍った状態で残されていた。
ここは巨大ミツバチのコロニーであり、蜂蜜の貯蔵庫のようであった。
(女王バチがいるはず……)
アルジェは行き止まりとなった貯蔵庫の内部を捜索した。
蜂の巣であればその奥に女王バチがいるはずであった。
しかしその影どころか存在していた痕跡すら見当たらない。
アルジェは女王の存在しないコロニーを不思議に思いながら壁にへばりついていた蜜の一部を剥ぎ取り、そのまま引き返すことにした。
「ただいま」
「おかえり。どうだった?」
「おそらくキメラが作ったであろう空間があった。でもキメラはここにはいなかった」
アルジェは入り口で待機していたアルムと合流すると道中で剥ぎ取ってきた蜂蜜の塊を見せた。
「何これ?」
「蜂蜜のようなもの」
アルジェはこれ以上の成果は見込めないことを予感し、撤収することにした。
結果としてはキメラが関与している可能性がある空間を一つ潰すに留まることとなった。
「キメラの気配がある……気がする」
「ボクもだよ」
アルジェとアルムは今回の一件の裏にキメラの影を感じるのであった。




