群れなす影
夕方まで一通り遊び歩いたアルジェはそのまま何事もなく帰ってきた。
夜には彼女のゲーム配信が控えている。
「ただいま」
「おかえりー。今日は何してきたの?」
「猫カフェに行ってから自然に囲まれてきた。あと人間と少し会話をした」
アルジェは家にいたアルムと言葉を交わした。
アルムは昼間に配信をしており、ついさっきそれを終えたばかりであった。
「楽しかった?」
「人がなぜそれを楽しいと思うのかは理解できた。でも、私には合わなかった」
アルジェは一日を通して人間の考えるいろんな楽しみを試してみた感想を率直に語った。
確かに楽しいとは思ったし、人間がそれを楽しいと思う理由を理解することはできた。
しかしゲーム以上に楽しいと思うことはできなかったのである。
「そっか。他にも人間が楽しいと思うことはたくさんあるし、気になったものがあればまた試してみるといいよ。ボクらはたくさん時間を使えるからね」
アルムはアルジェの意見を受け入れた上で他の楽しみ方を試してみることを促した。
彼女たちはキメラと戦う、配信をする時以外は自由に時間を過ごせるため、その機会は十分にあった。
「気になったといえば、今日こんなものを見た」
アルジェはおもむろにスマホを取り出すと巨大なミツバチの写真をアルムに見せた。
「随分と大きいミツバチだなぁ。どこで見たの?」
「山の中。昆虫採集をしていた男の人間が捕まえたと言っていた」
「山……?」
アルムは昼間の配信中に起きたとある事件を思い出した。
「そういえば配信中に変なものを見たんだよね。窓の外をすごい数のミツバチの群れがブーンって」
アルムは配信中に家の近くをミツバチの群れが飛んでいったのを目撃した。
周囲の音を掻き消すほどの羽音が響いたため、配信中でも気を取られるほどの存在感があったのである。
「なるほどね。このミツバチがその山のどこかに棲んでいると」
「キメラの影響の可能性は」
「うーん……ボクはそんな気配感じなかったけどなぁ」
アルジェはキメラが関与している可能性を疑ったがアルムはそれに懐疑的であった。
アルムのキメラの気配を察知する能力ではミツバチに対して何も感じることはなかったのである。
一方でアルジェにその能力は備わっていないため、真偽はわからない。
その夜、アルジェはゲーム配信をしながらリスナーとコミュニケーションを取っていた。
今回プレイしているのは対戦要素のないアクションRPGである。
「今日私の住んでいる場所の近くで大きいミツバチが大量に出たらしい。何か知っていることがあったら教えてほしい」
アルジェは澄ました顔で超絶技巧プレイを披露しながらミツバチに関する情報提供を求めた。
すると一部のリスナーからそれっぽい情報がちらほらと寄せられる。
『なんか昨日から関東周辺で巨大なミツバチが何件も目撃されてるってニュースになってたな』
『今日うちの近くを飛んでてちょっとした騒ぎになった』
「なるほど」
リスナーから提供された情報曰く、巨大ミツバチは関東周辺の様々な場所で目撃されているようであった。
しかもニュースにもなっていたらしく、アルジェは操作の手を休めがてらスマホでそのニュースを確認する。
「ミツバチはどんなところに巣を作る?」
アルジェはゲームのプレイを再開するとミツバチの生態をリスナーに尋ねた。
ハチが巣を作ることは知っているため、そこを突き止めれば巨大ミツバチがキメラによるものなのかそれとも単なる突然変異なのかがわかる。
『建物の屋根の下とか天井裏、木の洞みたいな人目のつきにくい日陰になってるところに作ることが多いよ』
「人目のつきにくい日陰……わかった」
ミツバチの生態に関する知見を得たアルジェは巨大ミツバチの巣を探すことに決めた。
今回の騒動には自然現象を超えた何かがある。
そんな気がしたのである。
「明日は巨大ミツバチの巣を探しに行く」
アルジェはリスナーたちに自身の行動予定を宣言するのであった。




