アルジェは『楽しい』を知りたい
とある晴れた土曜日のこと。
アルジェはスマホ片手に一人で街を歩いていた。
事の発端は前日にアルムに誘われて二人で行った雑談配信であった。
『アルジェちゃんはゲーム配信以外はやらないの?』
「楽しそうならやる。みんなは何をするのが楽しい?」
雑談の中でアルジェはリスナーから『楽しいこと』を集った。
アルジェは人間の感情を理解したものの、それがどうやって発生するのかをあまり理解していない。
そんな彼女は今回『楽しい』を自ら実践すべく一人街へと繰り出したのである。
『動物と触れ合うと楽しい』
あるリスナーの考えるそれを試すべくアルジェはとあるカフェへとやってきた。
そこでは猫と触れ合うことが可能であった。
カフェに入ったアルジェの足元に早速一匹の猫が擦り寄ってきた。
アルジェは興味津々にその猫を抱き上げて見つめる。
そのカフェでは猫とおもちゃで戯れる、おやつをあげるなどの行為が可能であった。
アルジェはスマホで調べながらその一つ一つを試してみる。
その中で面白いと思うものが一つあった。
(猫という生き物は動きが止まったところに飛びついてくる。面白い)
アルジェは猫じゃらしに面白さを見出していた。
だが十分程度戯れていると猫の方がそっぽを向いてしまった。
「なるほど。猫は気まぐれな生き物」
その後も猫を膝に乗せてみたり撫でてみたりと一時間程度で一通りのふれあいを試したアルジェはカフェを後にした。
(面白かった)
アルジェは満足感を覚えた。
今回は猫だけであったが人間が動物と触れ合うのが楽しいと感じるのがなんとなく分かったような気がした。
『自然の中にいると楽しい』
リスナーから寄せられた次なる『楽しい』を実践すべくアルジェは街から少し離れた山の麓に足を踏み入れた。
麓には高木が多数生えており、木陰を作って多少の涼しさを感じられる。
そこには町の中では見られないような木々や草花、虫などが見られた。
そんな中、アルジェはとある人物が目についた。
その人物は時期としては似つかわしくない長袖長ズボンに帽子を被り、手に網を持っている男であった。
アルジェは男に声をかけることにした。
「何してるの?」
「え?あー、これは今昆虫採集してるところ」
アルジェに声をかけられた男は一瞬驚いたような反応を見せるがすぐに取り合ってくれた。
彼は昆虫採集の真っ最中であった。
「それって楽しい?」
「楽しいよ。都会じゃ見られない野生の虫を自分で探して捕まえる。自然がないとできないからね」
男は昆虫採集の魅力をアルジェに語った。
彼の趣味もいわば『自然の中だからこそできること』であった。
「そういえば今日は変わった虫を見かけたんだよね」
「どんな」
「ミツバチなんだけどね。それが随分と大きいんだ」
男は今日の成果の一部をアルジェに語りながら虫籠の中を見せた。
そこには普通の個体よりも明らかに大きい男の親指ほどの大きさをしたミツバチが入っていた。
しかしアルジェにはその個体の異質さがわからなかった。
「この虫ってそんなに大きいの?」
「もしかしてミツバチ知らない?普通のはこれぐらい」
男は自分のスマホで画像検索をかけてミツバチの写真を見せた。
そこに写っていたのは豆ツブほどの大きさのミツバチであった。
アルジェは頭の中のデータを更新し、ようやくその異質さを理解した。
「なるほど、確かに大きい」
「これって新種なのかなぁ」
男は想像を膨らませた。
もし新種であれば大発見である。
アルジェは男が楽しそうにしているのを見て感じ取った。
「写真撮ってもいい?」
「どうぞ」
アルジェは自分のスマホでミツバチの写真を撮った。
こうすれば何かを共有できる気がしたのである。
「じゃあね」
男から疑問の答えを得て満足したアルジェは手早く別れを告げた。
その後も『楽しい』を見出すべくアルジェはしばらくの間麓の周囲を散策するのであった。




