アルジェの配信デビュー
その日の午後二十一時前、カグヤは初めてアルジェを配信部屋へと入れた。
部屋の住人となる以上、アルムと同じように配信に出演してもらおうと考えたのである。
『重大発表』
そう題されたタイトルを数時間前に告知しており、すでに数千人近くのリスナーが配信開始を待機している。
配信開始は二十一時ちょうど、もう間も無くであった。
カグヤはこの日のために調達してきたヘッドセットをアルジェに装着させると椅子に腰掛けた。
アルムも同じように配信の準備を完了し、カグヤと二人でアルジェを挟むように座る。
そして午後二十一時、配信が始まった。
「はいどーもー。カグヤチャンネルのカグヤだよー」
「同じくアルムだよー!」
『真ん中の子誰?』
カグヤとアルムはいつものように配信を始める。
コメント欄は案の定アルジェのことを尋ねる内容で埋め尽くされた。
「まあまあ落ち着きなされ。重大発表っていうのがねー、なんと今日から我がチャンネルに新しいメンバーが増えまーす」
「はい、自己紹介どうぞ!」
カグヤが重大発表の内容を明かし、アルムがアルジェに自己紹介を促した。
「アルジェ……アルムの妹……ということになっている」
アルジェは寡黙ながらも名前を明かして自己紹介をした。
アルムの妹というのは配信前に三人で話し合って決めた設定である。
特徴的な黒い角と銀色の鱗に覆われた太く長い尻尾もしっかりと画面に映っており、アルムと関係があることを匂わせる。
『初めまして』
『かわE』
アルジェの容姿は瞬く間にリスナーを虜にした。
アルム同様に日本人離れしたミステリアスな外見もその理由の一つだが、小柄な背丈とそれに対して相応なほどに主張する大きな胸がリスナーの視線を釘付けにしてやまなかった。
『うおでっ……』
『こんな美少女どっから拾ってきたん?』
「拾った……ていうか、ある日突然生えてきたっていうか……」
「カグヤ。私は地面から生えたりしない」
「いや、そういう意味で言ったんじゃなくて」
リスナーのコメントを拾ったカグヤにアルジェが裾を引っ張って指摘を入れる。
彼女は配信のアーカイブをデータとして記憶に持っているものの、カグヤやリスナーたちの使うネットスラングの意味は理解できなかった。
その言動にリスナーたちは配信に映り始めた頃のアルムの面影を感じる。
「みんなもアルジェのこともっと知りたいでしょ。コメントで何か聞いてあげてよ」
カグヤが話題を切り出すとリスナーたちは一斉にアルジェに関する質問を投げかけた。
カグヤとアルムはコメントを閲覧し、その中からアルジェにも答えられそうなものを探す。
『どんな特技があるの?』
「凍らせられる」
「そうそう。アルムは電気を操れるんだけど、アルジェは冷気を出せるんだよね」
『何か凍らせるところ見せて』
「アルジェ、やれそう?」
「問題ない」
カグヤが確認を取るとアルジェはリクエストに応えるべく虚空に冷気を纏った息を吹きかけた。
冷気によって空気中の水分が凍結し、手のひらサイズの氷が空中に浮かびあがる。
アルジェは浮かび上がった氷を手に取るとそれを自らの手で握りつぶした。
『見かけによらずパワフル』
『↑あのアルムちゃんの妹だぞこれぐらい当然だろ』
「その通り。これぐらいは当然」
リスナーのコメントに反応したアルジェは得意げに答える。
表情こそほとんど動いていないものの、その声色からそれとなく感情を読み取ることができた。
『好きなことは?』
「好きなこと……ゲームをやるのが好き」
アルジェは自分の好きなことを答えた。
彼女はハルヒと二人でゲームセンターに行ったときの記憶が楽しいものとして強く残っていた。
「いいねぇ。前どんなゲームやってたっけ」
「アンダーグラウンドブレイカーⅡ」
アルジェが以前プレイしたゲームのタイトルを答えるとリスナーたちはざわついた。
そのゲームは『グラツー』の通称で知られる対戦格闘ゲームであり、ユーザーの間では一部のキャラクターを除いた対戦バランスが非常に悪いことで有名であった。
しかしその極端なゲーム性の虜になるニッチな愛好家もまた多い。
『まさかのグラツー勢』
『格ゲー配信の可能性出てきたな』
「そういえばあーしらリスナーとゲームで対戦したことなかったよね」
「確かに。面白そうかも」
「対戦……!」
カグヤとアルムが話を広げるとアルジェが対戦のワードに食いついた。
彼女は自分が思っている以上に『対戦ゲーム』を愛好していた。
その反応を見たカグヤはアルジェを輝かせるための配信の方法を思いつく。
「よし!じゃあゲーム配信しよ!」
カグヤは咄嗟の思いつきでゲーム機を立ち上げ、対戦要素のあるゲームを起動した。
配信画面の様子が切り替わり、ゲームのプレイ画面が映し出される。
カグヤとアルムは過去に遊んだことのあるタイトルだがアルジェにとっては初見のであった。
「これはどういうゲーム?」
「対戦ゲー。グラツーみたいなすごさはないかもだけど面白いよ」
「やってみたい」
アルジェはコントローラを握った。
カグヤから簡単に操作方法を教わり、ルールを理解すると早速対戦に乗り込んだ。
「ぜ、全敗……」
「嘘でしょ……」
十数分後、配信に映っていたのは圧倒的なプレイングでカグヤとアルムを蹂躙するアルジェの姿であった。
アルジェは自身に仕込まれた思考補助AIにより、生身の人間や他のキメラを凌駕する正確な動きと反応速度を獲得している。
そのキメラと機械のハーフである性質を存分に活かし、初見のゲームといえど動かし方さえ理解してしまえばあとは相手の動きを観測してそれを処理できる。
種を知らないカグヤとアルムはアルジェのゲームプレイにただただ唖然とするばかりであった。
「やはりゲームは楽しい」
かつての宿敵であったアルムをゲームでも叩きのめしたアルジェは満足げに鼻息を鳴らした。
その感情に呼応するように彼女の背後で尻尾が左右に揺れる。
「みんなともゲームやってみたい。みんなも私とゲームやりたいよね?」
『お、おう……』
『急に圧かけてくるじゃん』
アルジェは目を細めて不敵な笑みを浮かべながら画面に向かって語りかけた。
これによってアルジェは配信初日から『ミステリアス系ゲーマー人外』というキャラ付けをリスナーから与えられたのであった。




