銀龍覚醒
アルジェがカグヤに仕えるキメラになった翌日の朝、リベンジの時が来た。
アルムがキメラの気配を嗅ぎつけたのである。
「行くよアルジェ。戦うべき敵はすぐそこだ」
アルムが先行して飛翔し、アルジェは路面を凍結させると氷上を滑走してアルムの軌跡を追う、。
二人の後ろ姿をカグヤは応援するように見送った。
アルムが急行した先には漆黒に身を包んだキメラの姿があった。
両腕には厳つい籠手のような鋏状の爪を携え、背面には先端に婉曲した針のついた尾が伸びている。
アルジェの情報からそれがサソリのキメラ=スコーピオンキメラであることは容易に判断できた。
「貴様生きていたのか」
「一命を取り留めたからお返しに来た」
生存に驚くスコーピオンキメラにアルジェが抑揚のない声で啖呵を切った。
人間の姿から銀龍の姿に変わり、早くも戦闘態勢に入る。
『このキメラは私がやる。アルムは手を出さないで』
『……わかったよ』
アルジェが手出し無用を宣言するとアルムは渋々ながらもそれを受け入れた。
スコーピオンキメラはアルジェの命を奪おうとした仇敵であるため、自分の手で引導を渡したかったのである。
「毒に侵されながら随分と余裕があるな」
『勘違いしないで。この状態ならお前は私の相手にならない』
アルジェはスコーピオンキメラを睨みつけると即座に冷気を放出した。
冷気は白い靄になって足元を漂い、地表にあるものを悉く凍結させる。
アルムは飛翔して冷気を回避すると廃墟の屋根の上に身を移した。
アルジェは氷結した地面の上を滑走するとスコーピオンキメラに体当たりを仕掛けた。
アルムを上回る重量に加え、さらに彼女を上回る強度と切れ味を持った鱗による一撃を受け、スコーピオンキメラの身体は軽々と吹き飛ばされる。
地面が凍ったことで足元が滑り、踏ん張ることすらゆるさなかった。
『どうした』
アルジェは自ら凍らせた地面を踏み砕いてスコーピオンキメラに迫った。
彼女の背後には氷の槍が無数に停滞しており、抵抗も逃走も許さない強い殺意を醸し出す。
アルジェは呼吸もおかずに無言で氷の槍をスコーピオンキメラに向け射出した。
「その程度!」
スコーピオンキメラは意地を見せ、爪を振り回して氷の槍を打ち砕いた。
だがその間にアルジェは悠々と距離を詰めていく。
アルジェの狙いは氷の槍で相手を貫くことではなく、それを囮にして距離を積めることであった。
あっという間に二人の距離は眼前にまで迫り、アルジェの巨大な影がスコーピオンキメラを覆う。
スコーピオンキメラは爪を突き立てるが頑強な鱗の前には傷一つつかない。
アルジェはスコーピオンキメラの次の行動を予測し、その挙動を演算する。
左腕を首元にかざすとそこに吸い込まれるようにスコーピオンキメラの尾がぶつかり、アルジェはそれをガッチリと掴む。
演算通りの挙動であった。
『やはり相手にならない』
アルジェはスコーピオンキメラの尾を両腕で掴むと先端を強引に引きちぎった。
その断面から毒液と血が吹き出すように飛散し、アルジェの銀色の鱗を返り血で赤く染める。
武器を失ったスコーピオンキメラはアルジェにされるがままであった。
『所詮貴方は闇討ちで毒を通せなければ私の足元にも及ばない存在』
アルジェはスコーピオンキメラに冷徹に吐き捨てると至近距離から冷気を放出した。
冷気はたちまちスコーピオンキメラの体温を奪い、全身を凍結させる。
ほんの数秒でスコーピオンキメラは生命活動を停止してしまった。
『貴方を排除する』
アルジェは凍りついたスコーピオンキメラに対して宣告すると拳を振り下ろした。
凍りついた肉体は拳を受けてバラバラに砕け散る。
その戦いぶりをアルムはどこかつまらなそうに眺めた。
『仕返しは終わった。とても気分がいい』
アルジェは気晴らしを終えると再び人間の姿に戻った。
過去のしがらみから解放され、思う存分に戦ったのはアルムとの初戦以来である。
その時の感覚を思い出してカタルシスを得ていた。
「アルジェ、今後はボクと一緒に戦ってくれる?」
「カグヤがそう望むなら」
アルムが人間の姿になって尋ねるとアルジェはつれない返事を返した。
彼女がキメラと戦うかどうかはあくまで今のマスターであるカグヤの裁量次第である。
「素直じゃないなぁ」
「うるさい。これ以上何か言えば凍らせる」
他愛もないやり取りをしながらアルムとアルジェは帰り道を行くのであった。




