かけ違う銀龍
スネイルキメラとの邂逅を果たし、アルムを追い払うという役割を遂行したアルジェはレンの元にいた。
彼に対してアルジェはどうしても確かめたいことがあった。
「マスター。もう一体のキメラと邂逅した。命令通り金龍から護衛もした」
「ご苦労様です」
アルジェが簡潔に報告するとレンもまた簡潔に労いをかけた。
「マスター。あのキメラは何のために行動している」
「石灰の回収ですよ。あのキメラには石灰を集めてもらっています」
「石灰を集めてどうする」
「自己強化ですよ。あのキメラには石灰をエネルギーにして強化されていく性質があります。ゆくゆくは単独で金龍を倒すこともできるでしょう」
レンはスネイルキメラに与えた使命をアルジェに明かした。
『石灰を餌にして強くなること』
それがスネイルキメラに与えられた命令であった。
それを聞いたアルジェは不快感を覚える。
「金龍を倒せるキメラならすでに私がいる。同じ目的のキメラは不要」
「確かに貴方は強い。ですが貴方の独断行動は私に悉く不利益を齎します。本来倒せるはずの場所で金龍を見逃し、先日もクロウキメラをその手で討ってくれましたしね」
アルジェが自己主張をするとレンは主観をぶつけた。
アルジェは戦闘面においては期待以上の働きを見せる優秀なキメラである。
しかしそれ以外は管理下から外れた独断行動を繰り返す問題児であり、その独断によってキメラを一体失う羽目にもなっていた。
キメラを使役するマスターとして見過ごすことのできない問題であり、成長によって強化されるスネイルキメラを誕生させた理由でもあった。
「スネイルキメラはいずれ金龍を倒せるほどの力を得るでしょう。その時は貴方への評価を考え直さなければなりません」
己の存在意義を否定するような言葉を投げかけられたアルジェはさらに不快感を募らせた。
これでは自分をキメラが成長するまでの用心棒にされているも同然であった。
挙げ句の果て、スネイルキメラが成長した暁には自分が不要扱いされる未来が見える始末であった。
「いけませんよ。マスターを手にかけるつもりですか」
アルジェは怒りのままに冷気を放出するがレンは冷静にそれを諌めた。
マスターに対する反逆はキメラにとって最大の禁忌である。
アルジェとて例外ではなく、レンに対してそれ以上の行動を起こすことはできなかった。
「とにかく、今はその調子で金龍からスネイルキメラを守ってくれればいいんです。わかったなら返事をしてください」
「……」
「返事は?」
「……」
アルジェはレンに対して反目するように無言を貫くと踵を返してその場を後にした。
命令といえど自分の存在を否定するようなことをするのはキメラとしても不愉快極まりなかった。
「まぁ、構いませんが……」
レンは呆れたようにため息をつくと次なるキメラのことを考え始めた。
彼にはこの後アルジェがどのような行動を取るのかがおおよそ目に見えていたのである。
(マスターは私のことが不要……?)
アルジェはレンの発言にショックを受けていた。
対アルムにおいて完璧ともいえる能力を持つ自分のことを不要と考えるようになり、後発のキメラにその役目を奪われかけていることが屈辱でならなかった。
マスターに対する直接的な反逆こそ行えないものの、レンに対する不信感を募らせる。
マスターとキメラの関係にしては明らかに嫌悪な状態となっていた。
「金龍を倒せるキメラは私だけでいい」
アルジェは思い立つと独断行動によってまた一人どこかへと姿を消すのであった。




