電撃戦と軟体キメラ
キメラの気配を察知したアルムはアルジェの目を掻い潜り、キメラの居場所へと急行した。
向かった先は町から離れたセメント工場であった。
アルムは空中からキメラの姿を発見すると雷鳴と共に急降下して飛び蹴りを浴びせかけた。
対するキメラはアルムの接近に伴う雷鳴に反応して左腕を構え、盾のような甲殻で一撃を防御した。
防御によって蹴りの威力を抑え込むがキメラの身体は大きく後退し、蹴りを受けた甲殻は粉々に砕け散る。
キメラは薄橙色の身体に粘液を纏い、背面と側面には甲冑のような甲殻に身を包んだ西洋の鎧のような外見をしていた。
頭部には二本の触覚が伸びており、軟体動物のそれを連想させる。
所謂『カタツムリ』のようなキメラ=スネイルキメラであった。
アルムは絶え間なく次の攻撃を仕掛けた。
打撃も粘液越しで滑りこそすれど確かな手ごたえがあり、電撃も確かなダメージを与えている。
防御行動で小賢しく時間を稼ごうとしてはいるが守りの要と思われる甲殻も一撃で崩れ去るほどに脆い。
二体の力量差は明確であった。
アルムがスネイルキメラにとどめを刺そうと必殺の一撃を繰り出そうとしたその瞬間であった。
周囲に冷気が迸り、冷たい空気がアルムの身体を刺した。
それはアルジェがすぐそこに接近していることを示していた。
『いい?アルジェとは絶対に戦わないこと』
カグヤの言いつけを思い出し、アルムはアルジェの姿を確認する前に戦いを捨てて退散していった。
駆けつけてからわずか数分の出来事であった。
アルジェが現れたとき、そこにアルムの姿はなかった。
周囲を見回しても影すら見当たらない。
キメラをアルムから守るという命令を遂行したアルジェは銀龍から人間の姿へと戻るとそのままスネイルキメラとの合流を果たした。
「私は銀龍。あなたを金龍から護衛する」
「感謝する」
スネイルキメラはよろけて膝をつきながらアルジェとコンタクトを取った。
「私はマスターから何も知らされていない。あなたの行動理由を教えて」
「石灰を狙う。石灰があればより強くなれる」
「……そう」
スネイルキメラは自らの行動をアルジェに明かした。
自らを強化するため、そのエネルギー源となる石灰を狙っていたのである。
それを聞いたアルジェはつまらなそうに相槌を打った。
「じゃ」
アルジェはその場を離脱した。
彼女に与えられた命令はあくまでキメラを護衛することであり、その行動を補助することではない。
アルムが出てこないのであればそれ以上のことをする理由がなかった。
スネイルキメラは工場のセメントを好きなだけ貪るとその場で形態を変化させた。
ついさっきアルムに砕かれた甲殻は新たに再生し、より大きく強固に生え変わる。
セメントからエネルギーを摂取したことで力を増したスネイルキメラはギョロ目をした痩せ男の姿を取り、次なる餌場を求めて町を歩き出した。
一方その頃、アルムはカグヤの働くシロガネ館を尋ねていた。
生憎の雨ということもあり、館内の客入りは普段よりも少なく普段以上に暇であった。
「何しにきたのさ」
「アルジェに追われてるんだよ」
アルムはアルジェの追跡から逃れるためにカグヤのいるシロガネ館に来たのであった。
いくらアルジェといえどカグヤの前で手を出すことはできない。
「どんなキメラだった?」
「なんかうねうねしたやつだったよ。あと少し時間があれば倒せたはずだったんだけど」
カグヤとアルムはシロガネ館の一角で耳打ちした。
館内が暇なこともあり、それを咎める者は誰もいない。
「今はそのキメラの気配はあるの?」
「何も感じない。でもきっと町のどこかに潜伏してるよ」
アルムはスネイルキメラの気配を感じ取ることができなかった。
暗躍を止めることはできないものの、キメラの気配がないということはひとまずは脅威となるような事件が起きないことを意味していた。
「町の中を探してみるよ」
「頼むわ。何かあったらスマホでメッセ飛ばして」
カグヤはアルムに調査を任せた。
カグヤはバイト中につきその場を離れることができないため、アルムに任せる他なかった。
シロガネ館という後ろ盾を得たアルムはスネイルキメラの動向を追って再び町中へと繰り出したのであった。




