蠢く者
何も時間が起きないとある曇った日の夕刻。
カグヤはバイトの帰りに奇妙なものを見た。
(何これ)
カグヤが見たもの。
それは住宅のブロック塀に空いた穴であった。
穴は向こう側が筒抜けになるほどの綺麗な円形にくり抜かれたかのようであり、住人や近隣住民が騒いでいないのも相まって異質さを醸しだす。
穴を見て異常性を感じ取ったカグヤはスマホでブロック塀の様子を撮影した。
ついでに何か事情がないかその家の住人に声をかけることにした。
「はーい」
「この辺でバイトしてる者なんですけど、お父さんかお母さんいる?」
インターホンを鳴らして応対してきた少年から彼の母親に取り次いでもらい、カグヤはブロック塀のことを報告した。
「なんですかこれ!?」
家の住人はブロック塀に空けられた穴を見て驚いていた。
どうも今の今まで気づいていなかったようである。
「あの、これって元々空いてたんですか?」
「とんでもありません。今朝はこんなのありませんでしたから」
住人は今朝の様子を語った。
やり取りを覗きにきた少年も穴を見て驚いた。
「キミが学校帰ってきた時にこの穴ってあった?」
「こんなのなかったよ」
「学校から帰ってきたのはいつぐらいか覚えてる?」
「確かねー、三時過ぎぐらい」
「奥さんはいつ頃から家にいましたか?」
「五時前には帰ってきてました」
カグヤは住人から家にいた時間を聞き出した。
現在時刻は午後六時三十分、二人の証言が真であるならばブロック塀に穴が空いたのは午後五時以降から午後六時ぐらいまでの約一時間程度の間ということになる。
だがこれほどの穴を開けたにも関わらず家にいる二人が気づかなかったというのが妙であった。
初見の反応からするに二人がここに関わっているとも思えなかった。
「警察にも相談してみます。教えてくださってありがとうございました」
「いえいえ。じゃああーしはこれで」
話をほどほどに切り上げ、カグヤは後を引かないようにその場を後にした。
カグヤはこの一件の裏にキメラが関与しているような気がしてならなかった。
「ただいまー」
「おかえりー」
カグヤがいつものように帰ってくるとアルムがリビングから顔を覗かせた。
カグヤは早速アルムについさっきの出来事をを話した。
「アルムは今日何かキメラの気配は感じなかった?」
「ううん、何も」
アルムは正直に伝える。
彼女が嘘をつくことはないため、カグヤは本当にキメラの気配がなかったのだとわかった一方でどうにも引っかかることがあった。
「こんなに大きな穴が空いてるのに家の人もその近隣の人も気づかないなんて変じゃない?」
「確かにそうだなー」
カグヤとアルムは今回の一件の異常性を共感した。
謎はまだ尽きない。
「そもそもなんでこんな穴を空けたのかな」
「わかるわけないじゃんそんなの」
穴を空けた主がなぜ行動に及んだのかがまったく持って不明である。
家を荒らされたような形跡もなかったため、侵入目的とは思えない。
そもそも侵入するだけなら穴を空けずとも塀を乗り越えれば済む話である。
「もしキメラの仕業だとしたら、なんのために塀を……」
カグヤは今回の一件がキメラによるものと仮定して思考を巡らせた。
犯人は何のためにブロック塀に穴を空けたのか、どうやって穴を空けたのか、近隣住民がなぜ気づかなかったのか、キメラの仕業だとしてなぜアルムが気配を察知できなかったのか。
判明していることよりも不明点の方が多く、真相に辿り着くにはあまりにも手掛かりが不足していた。
「どう?何かわかりそう?」
「いや、なーんにも。また明日手掛かり探してみるわ」
カグヤは考えるのを諦めた。
素人が探偵や刑事の真似事をしたところで早々に答えは出てこない。
まだ時間が発生した時間しかわからないため、謎解きにはせめて他の手がかりが必要であった。
こうして、二人は謎を追うことにしたのであった。




