意志の芽生え
「いやー、今年もいいクオリティだったわー」
「すごかったねー。ラストシーンなんて叫びそうになったよー」
映画鑑賞を終えたカグヤとアルムは感想を語らいながらスクリーンから退出してきた。
アルムのテンションはすっかり今まで通りである。
一方、カグヤはハルヒからメッセージが来ていたことを確認する。
「見てよアルム。アルジェゲームやってる」
カグヤは送信された写真をアルムに見せた。
アルジェの表情は相変わらずの無表情で横顔しか確認できないものの、どこか楽しそうに見える。
「二人はまだゲーセンにいるのかな?」
「確認してみるわ」
カグヤはハルヒに電話をかけた。
ものの数秒でハルヒから応答が返ってきた。
「もしもし、まだゲーセンにいる?うん。じゃああーしらも今からそっち行くから。またね」
カグヤは数秒程度のやり取りをすると通話を切った。
どうやらハルヒとアルジェはまだゲームセンターにいるようであった。
カグヤとアルムがゲームセンターに行くとそこには小規模な人集りができていた。
カグヤが人集りの中にあるものを確認すると、そこには格闘ゲームで連勝を重ねているアルジェの姿があった。
「なんじゃありゃ……」
カグヤは人集りの外れにハルヒの姿を見つけると彼女の元に合流した。
「お待たせ。どういう状況?」
「アルジェちゃんすっかりあのゲーム気に入っちゃって。常連の人たちにいろいろ教えてもらって今あんな感じ」
ハルヒは事の経緯を説明した。
アルジェは常連プレイヤーの乱入されて敗北を経験してから勝利への執念を燃やし、与えられた知識をすべてラーニングして手がつけられない状態になっていた。
アルジェの人間を遥かに超えた反応速度と操作精度、セットプレイにも一切崩れない立ち回りの固さに常連プレイヤーたちもまるで歯が立たなくなっていた。
「もしかしてカグヤチャンネルのカグヤさんとアルムさんですか?」
カグヤがアルジェの様子を見ていると人集りにいた内の一人がカグヤに声をかけてきた。
彼はカグヤのチャンネルのファンであった。
顔見知り以外で自分を知っている人物に声をかけられたことにカグヤは驚かされた。
「えっ!?はい、そうですけど」
「やっぱりそうですよね!いつも配信楽しく見させてもらってます!」
「あー、どうもありがとうございます」
「ボクらのリスナーの人?いつも見てくれてありがとう!」
カグヤがしどろもどろになりながら対応しているとアルムが間に入ってきた。
ファンの手を取り、握手を交わす。
人集りはいつのまにかカグヤとアルムのリスナーとアルジェのプレイを観戦するオーディエンスの二つに別れていた。
突発的な交流会を経た後、時計を見たカグヤはアルジェの回収を試みた。
「アルジェ、そろそろ帰る時間だよ」
「そう。それは残念」
カグヤに声をかけられたアルジェは惜しむような素振りを見せつつもカグヤに従った。
「いやー、強くて見込みのある子だったよ。また来てね」
「楽しかった。また遊びに行く」
常連プレイヤーたちがアルジェを歓迎するとアルジェは満更でもないような返事を返した。
カグヤたちはアルジェを回収するとゲームセンターを後にしたのであった。
「楽しかった?」
「うん。また遊びたい」
「そう。それはよかった」
帰りの電車の中でアルジェはカグヤに感想を語った。
初めて遊ぶゲームや対戦で得た経験はアルジェにとってはどれも刺激的なものであった。
「私は一人で帰る。今日は楽しかった」
「じゃあね」
最寄駅の改札を出たアルジェはそう言い残すと先に帰路に就いた。
「本当にあれでよかったの?」
「まあね」
ハルヒに尋ねられたカグヤは簡潔に答えた。
その真意はカグヤのみぞ知るものであった。
一方、アルジェが戻るとそこにはレンが待っていた。
普段はしない貧乏ゆすりをしており、かなり虫の居所が悪い様子であった。
「戻った」
「アルジェさん、キメラを葬ってくれたようですがどういうつもりですか」
「その言葉をそのまま返す。私はカグヤを狙っていた敵を排除したまで」
アルジェはクロウキメラを倒した理由を簡潔に述べた上でレンに反論を求めた。
アルジェにとってはマスターであるカグヤを狙う敵をカグヤの命令に従って排除しただけのことであり、彼女からすればむしろカグヤにクロウキメラを差し向けたレンの方が異端に思えた。
レンは反論できずに表情を歪ませる。
「マスターを狙うようなことはしないでほしい」
アルジェは要求を言い残すと一人またどこかへと消えていった。
レンは制御を外れた行動を繰り返すアルジェに頭を抱えるのであった。




