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轟き照らすは金の龍  作者: 火蛍
銀龍
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妹と妹

 カグヤとアルムが二人でいる間、ハルヒはアルジェを連れてプラチナシティを歩いていた。

 行先はアルジェの興味のままであった。


 「ハルヒ、あれは何」


 アルジェはあるものを見て足を止めた。

 それは施設内に併設されたゲームセンターであった。


 「あれはゲームセンターって言ってね、ゲームで遊ぶ場所だよ」

 「ゲーム……私も知っている」


 アルジェはゲームという単語に反応を示した。

 彼女はカグヤの配信のアーカイブをデータとして記録しており、それによってゲームというものは学習していたがそれを遊んだことはなかった。


 「遊んでみたい」

 「いいよー」


 アルジェがゲームに興味を示すとハルヒはそれを了承して二人でゲームセンターに足を踏み入れた。

 四方八方に設置された筐体から大音量で鳴り響くゲームのサウンドがハルヒの中のとある記憶を呼び起こす。


 「小さいころはお姉ちゃんにこういうところに連れてきてもらったっけ」

 「カグヤは昔からゲームが好き?」

 「大好きだったね。こういうショッピングモールに行くとお小遣いを握りしめて迷わずゲームセンターに行ってたよ」


 ハルヒは姉であるカグヤの幼少期の一面を語った。

 カグヤは幼少期からゲームセンターに積極的に足を運んでおり、その頃からサブカルチャーへの嗜好の片鱗を見せていた。

 話を聞いたアルジェは自分を生み出したデータを作った人物がどんな人間であったか、その一部を垣間見る。

 

 「ハルヒはカグヤのことが好き?」

 「もちろん」

 「どうして?」

 「どうしてって言われても『私のお姉ちゃんだから』としか答えられないなぁ」


 アルジェに尋ねられたハルヒは照れくさそうに目を細めながら答えた。

 生まれてからずっと姉の姿を見て育ってきた、それが彼女がカグヤを尊敬する理由のすべてであった。


 「やはり理解不能」


 アルジェには理解不能であった。

 ただ、ハルヒもまたカグヤと同じ理屈を超越した思想を持った人間の一人であることは確かに理解することができた。


 「確かにお姉ちゃんがいないとわからないかもね」

 「私に姉妹は存在しない」

 「アルムさんをお姉ちゃんだと思ってみればいいんじゃない?」


 ハルヒは自分の考えていることが理解されないと分かった上でそれとなく理解に近づく方法を示した。

 だがアルジェは逆にますます理解不能に陥るばかりであった。


 アルジェはゲームセンター内でとある筐体を発見するとそれに向かっていった。


 「これ、カグヤが似たようなものをやっているのを見たことがある」


 アルジェが目を付けたのはレトロな対戦格闘ゲームであった。

 過去に類似したゲームをカグヤが配信内でアルムと二人で対戦プレイで遊んでいたのをアーカイブで記憶している。


 「ハルヒ、これで遊んでみたい」

 「いいけど遊び方知ってるの?」

 「概要は理解している」


 アルジェは筐体前に設置された椅子に腰を下ろすと筐体と向き合った。

 しかしゲームは始まらず、アルジェはじっと待機し続ける。

 それを見たハルヒはもしやと何かを察した。


 「ゲームはお金を入れないと遊べないんだよ。今回は私が入れてあげる」


 ハルヒはそう言うと筐体にクレジットを投入した。

 アルジェはゲームセンターのゲームがお金を入れないと遊べないことを知らなかったのである。


 ゲームが始まるとアルジェは静かにレバーとボタンに手を触れた。

 普段あまりゲームに触れないハルヒは後ろでプレイ画面を眺めている。


 アルジェは一人用のアーケードモードを黙々と進めていく。

 初めてプレイするゲーム特有の所謂『初見』的な部分こそあれど操作は極めて正確であり、CPUキャラクターの動きもすぐにラーニングして対処法を学習していく。

 半分機械である性質を存分に発揮したアルジェの学習速度は素人であるハルヒの目にもはっきりわかるほどのすさまじさがあった。

 ものの十分程度でコンボを自力で実践するほどになっていた。


 プレイ開始からしばらくするとアルジェの筐体のプレイ画面が突如として切り替わった。

 画面には『CHALLENGER』も文字が表記されており、対人戦が発生したことを意味していた。


 対戦が始まり、開始数秒でアルジェは首を傾げた。

 これまで対戦していたCPUと違い、相手の動きにまるで法則性がない。

 体力を半分ほどリードされたところでようやくアルジェは相手が『人間が操作するキャラクター』であることを理解した。

 

 (負けたくない)


 アルジェの中に明確な意志が発生した。

 ガードを固め、相手キャラクターの技の性能や連携パターンをラーニングしていく。

 相手の行動をフレーム単位で視認し、連携の隙間を探る。

 残り体力が残り二割ほどになった頃には完全に見切れるようになっており、ガードがまったく崩れなくなっていた。


 (わかってきた)


 連携の隙間をついに見つけ、ようやく反撃に移ろうかというところでタイムアップが発生した。

 当然体力をリードしている相手側がそのラウンドの勝者となり、次のラウンドが始まる。

 

 ラウンド開始と同時にアルジェはラーニングによって得た対策をぶつけた。

 的確なガードで相手の攻撃をいなし、発生した隙間に小技を差し返して堅実にリターンを稼ぐ。

 所謂『待ち戦法』がアルジェの中で完成していた。


 しかし対処法を知っているのは相手側も同じであり、完全なる逆転というわけにもいかなかった。

 アルジェはプレイ中、後半から相手のとある攻撃にずっと首を傾げ続けていた。

 

 画面にはアルジェの操作するキャラクターが相手から投げられる様が繰り返されていた。

 アルジェは投げ攻撃がガードできない攻撃であることを学習こそしていたものの、ゲームそのものの知識がないがゆえにどうすれば対処できるのかを直感的に理解できなかったのである。

 結果として対戦は相手が二ラウンドストレート勝ちすることとなった。

 

 「負けた……」


 アルジェは初めて『敗北』を体感したことで大きなショックを受けた。

 アルムにすら真っ向勝負で勝ったほどの力を持つ自分がゲームとはいえ圧倒的に自能力で劣るはずの『人間』に負けたことが信じられなかった。

 

 「始めたばっかりだからしょうがないよ。逆にあそこまでできる方がすごいよ!」


 ショックを受けるアルジェにハルヒがフォローを入れた。

 話し声を聞いた対戦相手と思わしき青年が向こう側の筐体から離席して回り込んできた。


 「最近始められた方でしたか。もしかして気を悪くしましたか?」

 「そんなことはない。あの行動はどうすれば対処できるのか教えてほしい。次は勝ちたい」


 青年がアルジェに声をかけるとアルジェは投げへの対処法を青年に求めた。

 彼女は自力ではラーニングできないものがあることを初めて知ったのである。

 

 「投げは相手の投げと同時に投げを入力すると成立前に抜けることができて……」


 青年はアルジェの要求に応じてゲームの知識を授けた。

 彼はアルジェの正体など当然知らないため、熱意のある初心者ユーザーとしか見えていない。


 (話してることはよくわかんないけど。アルジェちゃんが楽しそうならそれでいっか)


 ハルヒはアルジェと青年の二人が専門的な世界に入ってしまって蚊帳の外になりつつも人間と交流するアルジェの姿を微笑ましく見守り、そんな彼女の姿をスマホでこっそりと撮影してカグヤに送信するのであった。

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