姉と姉
クロウキメラをあっさりと撃破したアルジェはカグヤたちと合流するとカグヤの主導でどこかへと出かけだした。
他愛もない話をしながらしばらく歩き、電車を乗り継いでカグヤたちがたどり着いたのはさまざまな施設が併設された大型ショッピングモールであった。
その名を『プラチナシティ』と呼んだ。
「カグヤ、ここは何?」
「ショッピングモール。その気になればここで丸一日遊べる」
「今時中学生でもそんな遊び方しないよ……」
カグヤが意気揚々と説明するとハルヒがツッコミを入れた。
プラチナシティはその圧倒的なバリューかた地元の中学生たちのデートスポットとしてある程度名を知られた存在であった。
しかしそれも昔の話、ハルヒが中学生の頃にはすでに過去のものとなっていた。
「あーしはアルムと遊んでくるから。アルジェはハルヒと遊んでおいで」
カグヤは二組に分かれることを提案し、アルジェにハルヒと組むように言いつけた。
アルジェはカグヤの言葉に従い、ハルヒの服の裾を掴むと力を込めて握りしめた。
「はいこれお小遣い。好きに使っていいよ」
カグヤはアルジェとのプランをハルヒに一任すると予算として現金を手渡した。
自分の都合で予定外の行動に付き合わせていることへの埋め合わせのつもりに加え、配信活動による収入が入るようになったおかげで妹に対してちょっとしたお小遣いを渡すことに躊躇がなくなっていた。
「あの、なんで私とアルジェちゃんなの?アルジェちゃんのマスターってお姉ちゃんなんでしょ?」
「あーしもそう思ったけどさ、今はアルムと二人にしてほしいんだよね」
ハルヒが耳打ちするとカグヤが発言の意図を明かした。
アルジェの姿を見て以来アルムがずっと不機嫌そうにしており、そのケアのために二人きりの時間を作りたいというのがカグヤの真意であった。
「じゃ、また適当なタイミングでまたここに集合で」
カグヤは集合の合図を決めるとアルムを連れてプラチナシティの中へと歩いていった。
「まあ、ここ座りなよ」
カグヤはアルムをフードコートまで連れだすと席の一角に着席させた。
アルムは何とも言えないもどかしい表情を見せる。
「ねえアルム。もしアルジェがあーしらの味方になってくれるとしたらどう思う?」
「……」
カグヤがアルジェを味方に引き入れられる可能性を語るとアルムは視線を逸らした。
彼女がアルジェに対して複雑な感情を抱いているのはカグヤの目にも見て取れた。
「まあアルムとしてはいい気はしないよね。アルムを倒すために生まれたキメラが自分の味方になるってのは」
「……うん」
カグヤに自身の心境を指摘されたアルムは首を縦に振った。
「あーしもちょっとは考えたんだよ、アルジェを攻略する方法を。でもね、考えれば考えるほど無理だったんだよ」
カグヤも一度はアルジェを戦闘で攻略する方法を模索した。
しかし彼女の中でそれは不可能であるとの結論が出たのである。
「どうしてさ」
「アルジェはアルムへの対策があまりにも完璧に施されてる。能力は同じかそれ以上、電撃も効かない。それにさっきも見たでしょ、あの躊躇なく攻撃を仕掛ける苛烈さを」
カグヤはアルジェを戦闘で攻略するのをあきらめた理由を説明した。
アルジェはアルムそのものの力を再現した能力を持っているのに加え、アルムの格闘や電撃をまったく受け付けない防御能力を備えている。
さらに命令次第では躊躇なく標的を抹殺する冷酷非情さも持ち合わせていた。
アルムが最初の戦闘で命を落とさなかったのは不幸中の幸いと言ってもよく、カグヤの介入がなければあの場での死は確実なものであった。
「ボクはアルジェに勝てない……?」
「このままじゃ勝てないね。アニメやマンガでも主人公を上回る能力を持った強敵が出てくる展開ってあるけど、こうも徹底されてると流石に」
アルムがショックを受けたところにカグヤから追い打ちのように言葉が飛んでくる。
戦闘における弱点が一つも見つからない現状は攻略のしようがなかった。
「今のアルムの気持ちはわからなくもないよ。あーしも自分より出来のいい妹がいるからさ」
落ち込むアルムにカグヤは同情を示した。
アルジェはアルムのデータを基に作られたキメラであるため、拡大解釈をすれば姉妹関係ともいえる。
カグヤはより優れた能力を持った妹がいるという状況を自分と重ね合わせていた。
「アルジェのことはあーしがきっと何とかする。だからあーしのこと信じて」
「ボクがカグヤのこと信じないわけないじゃないか」
カグヤはアルムに約束すると信用を求めた。
それに対してアルムは口にするまでもないとでも言いたげに言葉を返した。
「よーし。じゃあ気分転換しよ。何したい?付き合ったげる」
「じゃあ映画観たい!」
カグヤが気分転換を提案するとアルムは映画鑑賞を要求した。
プラチナシティにはシネマ館も併設されているため容易にそれに応えられた。
カグヤとアルムはフードコートを出てシネマ館へと向かうのであった。




